【企業分析】 ギリアド・サイエンシズ:20年間のトータルリターン5358%

 

ギリアド・サイエンシズは抗インフルエンザ薬タミフルの開発会社として有名だった。

 

しかしここ最近は超高額でニセモノまで出回ってしまったC型肝炎特効薬ハーボニーで一発当てた製薬会社として有名。

 

3カ月服用すればほぼ100%完治するという夢の特効薬ハーボニー。強い副作用も少なく数多の患者さんを救ってきた。

 

患者も医師もギリアドも株主もみんながハッピー。上昇し続けるギリアド株をみんなで見上げて毎日がお祭り騒ぎ。

 

 

 

だがどんな祭りにも終わりはやってくる

 

 

 

概要(2018年)

企業名:Gilead Sciences

上場取引所:NASDAQ

ティッカー:GILD

創業:1987年

CEO:ダニエル・オデイ

 

本社所在地:カリフォルニア州フォスターシティ

 

ギリアド・サイエンシズの歴史

1987年:医師でMBA持ちのMichael L. Riordanが29歳の時にギリアド・サイエンシズを設立。

(Michael L. Riordan)

 

Michael L. Riordanはワシントン大学で生物学を専攻。

 

大学から奨学金を得てフィリピンへ留学し一年間診療所で働く。その時にデング熱などウイルス性疾患に対する発展途上国の現状を知る。

その後に名門ジョンズ・ホプキンズ大学医学部に入学・卒業し医師になり更にハーバードでMBAを取得。手に入れたMBAを携えてカリフォルニアのベンチャーファンドMenlo Venturesに入社。

 

そして製薬会社を設立するために自身が在籍したファンドから200万ドルの運転資金を調達。

その200万ドルを運転資金にサンフランシスコの小さな研究室で6人の従業と共にギリアド・サイエンシズを設立

 

1989年:ベンチャーキャピタルから1000万ドルを調達

 

1990年:後に買収するNeXstar Pharmaceuticalsのポリエン系抗生物質アムビゾーム(一般名:アムホテリシンB)が欧州で承認取得

この薬は2018年までコンスタントに3億ドルを毎年売上げている。

薬効成分アムホテリシンBを脂質のリポソームで包んで腎毒性を軽減している。

 

 

1991年:プライベートエクイティファイナンスで2000万ドルを調達

1992年:Nasdaqで新規株式公開し8625万ドルを調達

 

1996年:サイトメガロウイルス網膜炎治療薬Vistide(一般名:シドフォビル)がFDA承認

ギリアド・サイエンシズが開発した初めてのFDA認可薬でAIDS患者におけるCMV網膜炎の治療に。

 

1996年:タミフルのライセンスをロシュに供与しロイヤリティ収入を得る契約を結ぶ

1999年:抗インフルエンザ薬タミフル(一般名:オセルタミビル)承認

 

 

1999年:NeXstar Pharmaceuticalsを買収しアムビゾームを手に入れる

 

2001年:抗HIV薬ビリアードが承認

 

2002年:B型肝炎治療薬ヘプセラが承認

 

2004年:抗HIV薬ツルバダが承認

HIV感染の予防にも効果がある。

 

 

2006年:抗HIV薬アトリプラが承認

グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬のトリーメクがライバル

 

 

2007年:肺高血圧治療薬ヴォリブリス(一般名:アンブリセンタン)承認

トラクリアは1日2回服用だがヴォリブリスは1日1回服用が可能

 

 

2012年:ファーマセットを110億ドルで買収してソフォスビル(後のソバルディ、ハーボニー)を手に入れる。

このギリアドの賭けは大当たり

 

2013年:C型肝炎治療薬ソバルディ(一般名:ソホスブビル)承認

1錠42,238円

 

 

2014年:C型肝炎治療薬ハーボニー(一般名:ソホスブビル/レジパスビル)承認

1錠54,685円

 

 

2015年:抗HIV薬ゲンボイヤが承認

 

2016年:C型肝炎治療薬エプクルーサ(一般名:ソホスブビル)承認

 

2017年:Kite Pharmaを119億ドルで買収してCAR-T細胞療法イエスカルタを得る

一回の治療費用は4000万円以上

 

 

2018年:抗HIV治療薬ビクタルビ承認

これからの抗HIV薬ポートフォリオで最も大切な薬

 

 

財務分析

ギリアド・サイエンシズの年間売上

[単位:100万ドル]

2014年にソホスブビル製剤(ソバルディとハーボニー)が販売されてギリアド・サイエンシズの祭りが始まる。

 

 

ギリアド・サイエンシズの営業利益

[単位:100万ドル]

営業利益は2013年比で一気に3倍に爆発へ。

 

 

ギリアド・サイエンシズの純利益

[単位:100万ドル]

2015年の純利益は180億ドルで製薬会社世界一となるが患者さんが治ってしまい薬が使われなくなり祭りは3年で終わりを迎えた。

 

 

株価推移(1999年~2019年)

こうしてみるとファーマセットを110億ドルで買収したのは見事としか言いようがない。現在のギリアド・サイエンシズの主力薬はハーボニーではなく抗HIV治療薬。

 

概要(2018年)ギリアド・サイエンシズの株主構成
TOP10株主 株式数 比率
The Vanguard Group, Inc. 95,194,616 7.36%
Capital Research & Management Co. (Global Investors) 69,854,968 5.40%
BlackRock Fund Advisors 66,448,018 5.14%
SSgA Funds Management, Inc. 56,015,307 4.33%
Fidelity Management & Research Co. 17,555,088 1.36%
Northern Trust Investments, Inc. 16,606,713 1.28%
Dodge & Cox 16,450,181 1.27%
Geode Capital Management LLC 16,031,150 1.24%
T. Rowe Price Associates, Inc. 14,549,656 1.12%
Capital Research & Management Co. (International Investors) 13,751,442 1.06%

 

ギリアドサイエンシズが保有している株 株式数 比率
ガラパゴス (GLPG) 6,760,701 12.4%
Allogene Therapeutics Inc (ALLO) 7,486,689 6.16%
Agenus Inc (AGEN) 11,111,111 9.26%

 

ガラパゴスとはリウマチ薬フィルゴチニブを共同で開発している。phaseⅢ試験でも良好な結果を出したので見通しは明るい。リウマチだけでなく免疫が関係するクローン病等でも試験中。

 

リウマチはハーボニーとは違い毎日継続して服用する薬なので安定的な売り上げが見込める。

 

 

売上トップ5(2018年)

1位:ゲンボイヤ【46.2億ドル】
抗HIV治療薬:スタリビルドに入っているTDFをTAFに変更し少量で同薬効

 

 

2位:ツルバダ【29.9億ドル】
抗HIV治療薬:毎年3000億円を稼ぐギリアドのNo2だが既に欧州では特許が切れている

 

 

3位:エプクルーサ【19.6億ドル】
C型肝炎治療薬:非代償性肝硬変に適応あり

 

 

4位:オデフシィ【15.9億ドル】

抗HIV治療薬:ジョンソン・エンド・ジョンソン子会社のヤンセンと共同開発

 

 

5位:デシコビ【15.8億ドル】
抗HIV治療薬:ツルバダの新バージョンでこれもTDFをTAFに変更している

 

 

 

売上トップ5とハーボニー+ソバルディの推移(単位:100万ドル)

 

C型肝炎治療薬のソバルディとハーボニー。2015年は2つ合計で190億ドルを売り上げた。その時に株価は過去最高値を記録した。ギリアドの株さえ買っておけば間違いないと投資資金が殺到。

 

だが患者さんを完治させてしまうと薬を飲む患者数が急激に減少し売上は急降下。アッヴィから安い同薬効のマヴィレットも販売され既にギリアドの主力薬では無くなっている。

 

 

 

独り言

ギリアドの2大領域であるHIVと肝炎

 

その2つは現在対照的な先行きとなってる。

 

HIV治療薬の見通しは明るい。

これまでギリアドを支えてきたアトリプラとツルバダはもう特許が切れるが代わりにビクタルビがこれから急成長するのでHIVフランチャイズとしてマイナスは無い。そして開発パイプラインに更に期待できる抗HIV治療がある。

 

現在のHIV治療薬は1日1回タイプがメイン。まだ長期間作用型の薬は無い。もし長時間作用型のGS-6207が成功したら抗HIV治療においてギリアドの存在感は圧倒的なものになる。ギリアドという企業はタミフルの企業でなくC型肝炎治療薬ハーボニーの企業でもなくHIV治療薬の企業。HIV薬が安定している限り経営に不安は無い。

 

日本ではこれまでJT子会社の鳥居薬品に委託していたがこれからはギリアドが直販体制となり益々抗HIV治療薬分野に力を入れている。

 

 

そんな好調なHIV事業とは対照的にC肝炎ウイルス治療薬分野は厳しい

 

C型肝炎治療薬ソバルディとハーボニーのソホスブビルファミリーは既に対象患者さんが大方治ってしまって売上は激減。人類にとっては勝利だがギリアド株主にとっては先行きが不安。

 

エプクルーサも売上はピークアウトしている。だがしかし・・・

 

 

 

 

特効薬ハーボニーの祭は終わったがC型肝炎治療において人類の医学は大きく進歩した。

 

極論を言えば全ての病人を治してしまったら薬も医者も薬剤師も必要無くなる。製薬業界で働いている人にとっては不運だことだが世の中の大多数にとっては幸運。

 

ギリアド・サイエンシズ株は3年で半減してしまったがそれは肝炎が完治し薬を服用する必要が無くなったという証左。

 

 

 

【企業分析】 ギリアド・サイエンシズ:20年間のトータルリターン5358%” への3件のフィードバック

  1. ツルバダのprepが日本でも承認されればなーと思うことがあります。世界は治療から予防に軸を移しているのに未だに予防の重要性を認めないのは先進国として恥ずかしいですね。毎年新規患者が増えていくのを見るとなんともいえない気分になりますよ。

  2. 医療費抑制が国是な今の日本で高価なHIV薬を予防で使うというのはハードルがとても高いですね。医療経済的に考えると感染してしまってから飲む数十年の薬を社会保障で支えるより予防の方がコスパ良いと思いますが

    だがもしプレップが保険適応になるとワクチンやタミフルも保険でやろうとなって話が収まらなくなるという・・・

  3. 決められない国日本ですからね。
    そして即決めると大抵失敗する国日本ですからね。
    あの大量備蓄したタミフルやらはどこに消えたのやら。

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