【企業分析】 フィブロジェン:アステラスも投資しているロキサデュスタット

 

フィブロジェンはカリフォルニア州サンフランシスコに拠点を置くバイオテクノロジー企業。

 

承認された薬は2019年4月現在でゼロ、開発している薬は主に2つ。

 

貧血治療薬のロキサデュスタットと線維化を阻害するPamrevlumab。

 

ロキサデュスタットは日本のアステラス製薬が10年以上前から共同で開発に取り組んでいる薬であり日本で販売されるときはアステラス製薬から販売される。

これまで腎性貧血の治療はエリスロポエチン製剤が主役であったが経口のロキサデュスタットが登場すると徐々に切り替わっていくと予想。

 

概要(2018年)

企業名:FibroGen

上場取引所:NASDAQ

ティッカー:FGEN

創業:1993年

CEO:Thomas Byron Neff

従業員数:423人

本社拠点:カリフォルニア州サンフランシスコ

 

売上:2.13億ドル

研究開発費:2.36億ドル

営業利益:-8,669万ドル

純利益:-8,642万ドル

現金同等物:6.21億ドル

 

毎年1億ドルから2億ドルの売上げがあるがこれは薬の売上ではなく研究開発のマイルストン達成による一時金。2018年売上の内1.48億万ドルはパートナーからのライセンスおよび開発収益関連。なので継続的に入ってくる収入ではない。

 

しかし現金同等物が6億ドルあるので1年で約3億ドル掛かっている運営費2年分のバッファがある。2021年までにロキサデュスタットが上市されたら経営は安定する。

 

もしロキサデュスタットに深刻なトラブルが起これば運営費を得るために増資する可能性がある。

 

株主構成
TOP10株主(2018年12月31日時点)
株主名 株式数 比率
Fidelity Management & Research Co. 8,918,284 10.5%
The Vanguard Group, Inc. 6,762,345 7.96%
BlackRock Fund Advisors 5,720,216 6.73%
アステラス製薬 4,968,367 5.85%
Thomas Byron Neff 2,742,231 3.23%
Hillhouse Capital Management Ltd. (Hong Kong) 2,686,196 3.16%
SSgA Funds Management, Inc. 2,612,591 3.07%
T. Rowe Price Associates, Inc. 2,342,077 2.76%
Ecor1 Capital LLC 2,017,250 2.37%
Janus Capital Management LLC 1,735,717 2.04%

 

第4位株主であるアステラスは2004年からフィブロジェンの低酸素誘導因子(HIF)貧血プログラムの開発に投資・提携している。2006年に3億ドルのライセンス一時金と4.65億ドルのマイルストーンという内容でアステラスとフィブロジェンはロキサデュスタットの契約をした。

 

アステラスの稼ぎ頭である前立腺がん治療薬イクスタンジも初期投資が成功して年に2943億円稼ぐエースとなった。ロキサデュスタットも第二のイクスタンジとなる可能性がある。

 

第5位株主であり最高経営責任者のThomas Byron Neffは元ラザード・フレールの投資銀行家。臨床開発段階の医薬品候補に投資してその売上ロイヤリティ収入を得る会社Royalty Pharmaの設立と経営に携わっていた。そして1993年にフィブロジェンを設立。

 

泌尿器・腎臓分野に日本で一番造詣が深いアステラスとCEOが大株主というのはプラス材料。

 

新薬パイプライン
コード 対象疾患 薬理作用 段階
Roxadustat 慢性腎臓病の貧血 低酸素誘導因子(HIF)プロリン水酸化酵素阻害
骨髄異形成症候群の貧血
Pamrevlumab 膵がん 結合組織成長因子の活性阻害
特発性肺線維症
デュシェンヌ型筋ジストロフィー
FG-5200 角膜失明の治療 医療機器

 

フィブロジェンで最もゴールに近づいているのが慢性腎不全の貧血治療薬ロキサデュスタット。

 

慢性腎臓病の貧血に対しては日本と米国と欧州で試験中。

骨髄異形成症候群の貧血に対しては米国と欧州で試験中。

 

アムジェンを世界一のバイオテクノロジー企業に成長させた原動力がエリスロポエチン製剤。しかし遺伝子組み換え生物学的製剤で医療費が高い注射剤なので患者にとっては負担となる。

 

そんなエリスロポエチン製剤に対してロキサデュスタットは小分子の経口薬なので服用しやすく値段も比較的安くなると予想されている。

 

ロキサデュスタットの開発には2013年に英国アストラゼネカ社も参加。既に承認された中国市場の権利もアストラゼネカ社が保有している。中国でロキサデュスタットは2019年後半に販売開始予定。中国には既に米国と同じ50万人の透析患者がおり年増加率は米国よりも高く世界一の市場となる。

 

アステラスがロキサデュスタットの販売権利を持っているのは日本、欧州、中東、南ア、CIS

 

フィブロジェンにしてみればロキサデュスタットはアステラス製薬とアストラゼネカ社の共同開発なので開発マイルストン達成収入や売上に応じたロイヤリティ収入は得られるが全ては手に入らない。

 

それに対してPamrevlumabは全ての権利をフィブロジェンが保有している。なので目先の結果はロキサデュスタットが注目されるがフィブロジェン株主にとってはPamrevlumabの成功の方が大きな意味を持つ。

 

 

ロキサデュスタット:貧血治療薬

(ロキサデュスタットの構造式)

 

ボリビアやアンデスと言った高地に住んでいる人々は酸素濃度が低い環境でも暮らしていけるように血中にヘモグロビンをたくさん持っている。それは生まれ持ったものではなく全ての人間に備わっているホメオスタシスで後天的に増やすことができるもの。

 

オリンピックや世界選手権などを目指すガチのマラソンランナーは高地でトレーニングを行う。高地トレーニングは根性を鍛えるだけではなく血中ヘモグロビン濃度を上昇させるという確かなエビデンスがある。

 

なぜ低酸素環境だとヘモグロビンが増えるのか?

 

そもそも赤血球がどうやって作られるかといえば造血幹細胞にエリスロポエチンが作用して赤芽球となりそれが血清鉄と結合してヘモグロビンが作られる。

 

つまりエリスロポエチンが造血には必要。

 

エリスロポエチンは腎臓で作られるので腎機能が低下している人はエリスロポエチンが作れずに貧血となる。酸素を運搬するヘモグロビンが足らないのだから呼吸が苦しい。普通の人がいきなり山頂に登山してシンドイ状態。

 

だが人間の身体には空気が薄い山の上に長くいると体内で活性化されるタンパク質がある。それが

 

 

低酸素誘導因子(HIF:hypoxia inducible factor)

 

 

この低酸素誘導因子はエリスロポエチンの生産を促進したり鉄分吸収を促進したりしてヘモグロビン生産が捗る。だがこの低酸素誘導因子は再び酸素状態が濃くなると分解される。その分解する酵素こそがプロリン水酸化酵素。

 

であるならこのプロリン水酸化酵素を邪魔したらずっと低酸素誘導因子が存在できてヘモグロビン量が増える。わざわざ高地トレーニングしなくてもヘモグロビン濃度が増える。

 

なのでこのロキサデュスタットは悪用しようと思えばドーピング剤代わりになるので既にドーピング禁止薬物リストに入っている。

 

 

ロキサデュスタットの臨床試験
ヒマラヤ試験
対象患者 透析依存性慢性腎臓病 1043例
試験方法 無作為化オープンラベル phaseⅢ
主要評価項目 平均Hbの変化量(28-52wk)
比較対象 Roxadustat Epoetin alfa
n 522 521
ベースラインHb値 8.43 8.46
平均Hb値(28-52wk後) 11.00 10.83
Hb変化量 2.57 2.36

 

経時的なヘモグロビン濃度変化

 

エポエチンアルファに対してヘモグロビン増加量は非劣勢であり立ち上がり速度も類似している。服用して三か月すると薬効が発揮される。

 

 

アンデス試験
対象患者 非透析依存性慢性腎臓病 922例
試験方法 無作為二重盲検法 phaseⅢ
主要評価項目 平均Hbの変化量(28-52wk)
比較対象 Roxadustat 偽薬
n 616 306
ベースラインHb値 9.10 9.09
平均Hb値(28-52wk後) 11.10 9.25
Hb変化量 2.00 0.16

 

経時的なヘモグロビン濃度変化

プラセボと比較して明らかに血中ヘモグロビン濃度を上昇させている。透析、非透析に関わらずヘモグロビン値を11前後まで上昇させている。

 

 

赤血球造血刺激因子製剤で安定している透析依存性慢性腎臓病患者のRoxadustatへの切り替え

シエラ試験
対象患者 ESA安定中の透析依存性慢性腎臓病からの切り替え 741例
試験方法 無作為二重盲検法 phaseⅢ
主要評価項目 平均Hbの変化量(28-52wk)
比較対象 Roxadustat Epoetin alfa
n 370 371
ベースラインHb値 10.30 10.31
平均Hb値(28-52wk後) 10.69 10.22
Hb変化量 0.39 -0.09

 

これまでエリスロポエチン製剤で安定していた患者さんに対して代わりにロキサデュスタットを投与した時のヘモグロビン値変化。非劣勢であれば満足だが結果は+0.39と切り替え前よりもヘモグロビン値が上昇しており優越。

 

Pamrevlumab

Pamrevlumabの薬理作用はCTGFという組織線維化や動脈硬化に関わるタンパクを阻害して疾患を治療する。

 

臨床試験は2019年4月現在で3つ。

 

  • 特発性肺線維症(IPF)
  • 膵臓癌
  • デュシェンヌ型筋ジストロフィー

 

どれも難病。一つでも薬として承認されたら大きな成果となる。

 

 

特発性肺線維症

特発性とは医学用語で分かりやすく言えば原因不明。理由はわからないがなぜか肺組織が線維化してしまう病気。

発症すると徐々に肺機能が失われ平均余命は3~5年。日本では難病に指定されており助成が受けられる。喫煙がリスク要因だが大抵の病気は喫煙で悪化する。

現在はベースラインからの努力性肺活量変化を主要評価項目とするphaseⅡ試験中

 

膵臓癌

脳腫瘍と並ぶ治療が最も困難な癌。平均5年生存率は8%未満。

主要評価項目はOS(全生存期間)

 

腫瘍切除した方が生存期間が長いという統計データがあるので切除できる状態まで持っていく必要がある。

組織が線維化していると手術できる割合が低下するので線維化を防ぐPamrevlumabの抗CTGF作用が期待されている。

 

 

デュシェンヌ型筋ジストロフィー

筋肉が徐々に動かなくなっていく超難病。平均的に小学校を卒業する頃には車椅子になり新機能や肺機能が衰えていく。呼吸器系および心臓の問題が致命的な問題となるので心臓や肺の硬化(線維化)を防ぐPamrevlumabの効果が期待されており臨床試験中である。

 

 

独り言

中国を皮切りに発売されるロキサデュスタットのロイヤリティ収入をアストラゼネカやアステラスから受け取りその資金をフィブロジェンが全ての権利を保有している。

Pamrevlumab等の開発につぎ込めば製薬会社としては軌道に乗る。ロキサデュスタットが承認された上に第二の矢であるPamrevlumabが3つの疾患のうち1つでも承認されたら時価総額は100億ドルも見えてくる。

 

逆に時価総額的にロキサデュスタットが承認されるのは株価に織り込まれているのでロキサデュスタットが万一承認されないと株価は大きく値下がりする。

 

Pamrevlumabが3つ全てフェールしてもロキサデュスタットが承認されたら時価総額40億ドルの価値はあると思う。現在の時価総額45億ドルはPamrevlumabの期待値込み。

 

イクスタンジを開発したメディベーションの様に買収されることもありえる。超大手製薬の年間R&D費が年間50~100億ドルなので買収プレミアムを入れてもお買い得。

 

【企業分析】 フィブロジェン:アステラスも投資しているロキサデュスタット” への2件のフィードバック

  1. 一昨日100株だけ買いました。
    ちょっと過剰な下げかなと思います。
    ナンピンしつつ様子見でホールドしていけばいいかと。

  2. 自分もあと少し下がったら買おうと思っていたんですがそこまで下がりませんでした。ロキサデュスタットが日米欧で実際に販売されて経営が軌道に乗るまでは色々ありそうです。

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