【企業分析】 アムジェン:30年前に投資したKIRINはリターン300倍となりビールで祝杯

 

世界で最も成功したバイオテクノロジー企業といえば世界初のヒトインスリンを遺伝子組み換え技術で作ったジェネンテック。

 

そのジェネンテックが切り開いた遺伝子組み換え技術という新しい世界に賭けるために創業されたバイオベンチャーがアムジェン。

 

2009年に先駆者ジェネンテックはスイスの製薬会社ロシュに買収され子会社となったので現時点で世界最大の独立系バイオテクノロジー企業はアムジェン。

 

 

概要(2018年)

企業名:Amgen

上場取引所:NASDAQ

ティッカー:AMGN

創業年:1980年

CEO:ロバート・A・ブラッドウェイ

 

本社所在地:カリフォルニア州サウザンドオークス

 

アムジェンの歴史

1980年:William Bowesによりアムジェン前身の「Applied Molecular Genetics」が設立

 

ジェネンテックより前に設立した最初期のバイオテクノロジー企業Cetus Corporationの取締役であるWilliam Bowesが設立。WilliamはUCLAの研究者Winston Salserを雇いそのWinstonが当時最新の医学的知見を持つメンバーを集めた科学諮問委員会を組織する。

 

アムジェン初代CEOにジョージ・ラスマン(当時アボットの診断薬部門副社長)を迎える。

(George Blatz Rathmann)

 

CEOが在籍していたアボットからもプライベートエクイティファイナンスに成功

 

科学諮問委員会では遺伝子組み換え技術をどの分野に応用するべきかで議論が纏まらなかった。

そんな時に登場したCEOラスマンが2つの研究分野に絞る。

 

エリスロポエチン

G-CSF

 

とアムジェンのリソースを2つに振り分けた。

この賭けが大成功

 

1983年:新規株式公開で4000万ドルを集める。株式公開前に社名を正式に「AMGEN」に変更

同じころ、アムジェン社内では台湾人研究者Fu-Kuen Linがエリスロポエチンをコードする遺伝子の同定に成功

 

1984年:キリン-アムジェン設立

キリンが1200万ドル折半出資してキリン・アムジェン誕生。

 

ビール事業でおなじみのキリンが医薬品事業に参入するときに選んだパートナーがアムジェン。この創業したばかりのアムジェンを選ぶとか慧眼すぎる( ゚д゚)

 

合同会社は主にエリスロポエチン製剤を共同で開発。この提携のおかげで現在キリンの子会社である協和発酵キリンは貧血治療薬エスポー(一般名:エポエチンアルファ)やG-CSF製剤グラン(一般名:フィルグラスチム)を日本国内で販売できる運びとなった。

 

この成功があったから協和発酵キリンの今がある。もし違う製薬会社と提携していたら全く違う運命になっていただろう。

 

1985年:研究者Larry Souzaが顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)のクローニングに成功

 

1988年:2代目CEOにゴードン・バインダーが就任

最高財務責任者から最高経営責任者へ昇進

 

1989年6月1日:腎性貧血治療薬エポジェンがFDA承認

エリスロポエチン産生に関与するヒト遺伝子を単離してその遺伝子をハムスターの卵巣細胞に移植することによって大量に複製

 

1990年:売上が1億4000万ドルへ成長

 

1991年:G-CSF製剤ニューポジェン(一般名:フィルグラスチム)がFDA承認

抗ガン剤治療などで減少した白血球を増やす。キリンが日本国内での販売権を得る。

 

1992年:年間売上高が10億ドルを超えた最初のバイオテクノロジー企業となる

 

1994年:国家技術省を受賞

受賞理由:分子生物学の進歩に貢献したとして

 

1998年11月:Amgenが2001年に買収するImmunex社の抗リウマチ薬エンブレルがFDA承認

 

2000年:3代目CEOにケビン・W・シャラーが就任

 

2001年:Immunex社を買収してエンブレル(一般名:エタネルセプト)の権利を取得

 

2001年9月:アラネスプ(一般名:ダルベポエチンアルファ)が承認

 

2002年1月:ニューラスタ(一般名:ペグフィルグラスチム)がFDA承認

 

2004年3月:Sensipar(一般名:シナカルセト)がFDA承認

日本ではレグパラという商品名で販売されている。高カルシウム血症の治療に

 

2006年9月:抗がん剤ベクティビックス(一般名:パニツムマブ)がFDA承認

 

2008年8月:Nplate (romiplostim)がFDA承認

 

2010年6月:閉経後骨粗しょう症治療薬プラリア(一般名:デノスマブ)がFDA承認

 

2010年11月:固形癌骨転移による骨病変の治療薬としてXgeva(一般名:デノスマブ)がFDA承認

 

2012年:4代目CEOにロバート・A・ブラッドウェイが就任

 

2013年::オニキス・ファーマシューティカルズを104億ドルで買収

多発性骨髄腫治療薬カイプロリスを手に入れる

 

2014年12月:ビーリンサイト(一般名:ブリナツモマブ)がFDA承認

 

2015年8月:高コレステロール血症治療薬レパーサ(一般名:エボロクマブ)がFDA承認

 

悪玉LDLの受容体が分解されないようにするPCSK9阻害薬。ライバル薬プラルエントをサノフィが値下げしたので売上が落ちるかもしれない。

 

2017年:キリンとの合弁会社を解消してキリン持ち分を約858億円で買収。

 

大きなリターンを得たらキリンビールで乾杯

 

財務分析

アムジェンの年間売上(単位:100万ドル)

2001年から新商品としてアラネスプ、2002年からはエンブレルとニューラスタが発売されて売り上げが5年で3倍となる。

 

アムジェンの営業利益(単位:100万ドル)

2018年にはついに年間営業利益が100億ドルを突破

 

アムジェンの純利益(単位:100万ドル)

2017年のトランプ税制による影響を除けば純利益は増え続けている。しかし主力薬の特許切れが近くこれからしばらくはヨコヨコになるかも。

 

アムジェンの配当総額(単位:100万ドル)

2011年に株主配当を開始する。以降は毎年増配中。配当性向は50%以下なのでまだまだ増配余力がある。

 

アムジェンの自社株買い(単位:100万ドル)

純利益が出ていなかった2000年以前からも積極的に自社株買いを行っている。

2018年には170億ドルを自社株買いに費やして発行済株式の1割を購入した。この170億ドルというのは武田薬品工業の2018年の年間売上よりも大きい。

 

アムジェンの株主還元率

純利益に対して配当と自社株買いに費やした金額の合計が100%を超える年も珍しくない。手元現金が潤沢で安定したキャッシュフローがあるからできる芸当。

 

アムジェンの株主構成
株主名 株式数 %
The Vanguard Group, Inc. 47,907,114 7.52%
Capital Research & Management Co. (Global Investors) 34,422,698 5.40%
Fidelity Management & Research Co. 34,145,293 5.36%
BlackRock Fund Advisors 31,931,381 5.01%
SSgA Funds Management, Inc. 27,038,194 4.24%
PRIMECAP Management Co. 20,793,442 3.26%
Capital Research & Management Co. 11,093,182 1.74%
Northern Trust Investments, Inc. 8,773,375 1.38%
Geode Capital Management LLC 8,367,464 1.31%
Norges Bank Investment Management 7,078,158 1.11%

 

アムジェンが保有している株 株式数 %
Kezar Life Sciences Inc (KZR) 1,121,384 5.87%
Advaxis, Inc. (ADXS) 3,047,446 4.40%

 

売上トップ5(2018年)

1位:エンブレル【50.1億ドル】

抗リウマチ薬、ピーク時売上は年6000億円を超えていた大ヒット作

 

 

2位:ニューラスタ【44.7億ドル】

白血球を増やす薬:G-CSFにポリエチレングリコールを結合して体内での作用時間長期化に成功

 

 

3位:プラリア【22.9億ドル】

骨粗鬆症治療薬:ビスホスホネート製剤と同じく顎骨壊死のリスクがある

 

 

4位:アラネスプ【18.7億ドル】

貧血治療薬:エリスロポエチンに2本の糖鎖を追加して、タンパク質を体内に長く留める

 

 

5位:XGEVA【17.6億ドル】

癌の骨転移による骨関連事象予防薬:日本では「ランマーク皮下注120mg」として発売中

 

売上トップ5の推移(単位:100万ドル)

プラリアとXGEVAの主成分は同じデノスマブなので毎年5000億円の売上がある薬が3つあることになる。両方とも2桁成長を続けている。

 

 

アムジェンの運命を左右したエポジェン

腎臓で作られるエリスロポエチンは赤血球の成熟に欠かせないので腎不全だと赤血球が不足して貧血となる。

 

インスリンを作れるならエリスロポエチンも作れるだろうとの目論見で遺伝子組み換え技術の研究に取り掛かった。その努力はすぐに報われ1983年にアムジェンがエリスロポエチンをコードする遺伝子同定に成功。

 

しかしライバル企業Genetics Instituteもその遺伝子から作られた精製タンパクを最初に単離することに成功し特許を取得。

 

パン型そのもの

パン型を元に作られたパン

 

どちらに特許が認められるのをめぐって激しい法廷闘争が勃発。

 

途中経過ではアムジェンが敗訴したり両者がお互いの特許を侵害しているからクロスライセンスを裁判所が提案したりと一進一退の攻防だったが最終的にはアムジェンが勝訴。

 

敗訴したGenetics Instituteはワイス(現在ファイザーの一部)に吸収され消滅した。もしアムジェンが裁判に負けていたらアムジェンは今存在していなかったかもしれない。

 

技術的にも法律的にも困難を乗り越えて登場したエポジェンはすぐさま病院で使われ高評価。

発売されて20年以上経過した2018年でも10億ドルを売り上げている。

 

エポジェンとニューポジェンの売上推移(単位:100万ドル)

エポジェンとニューポジェンがこれまでのアムジェンのツインエンジン。このエンジンのお陰で世界最大のバイオテクノロジー企業に成長できた。

 

 

 

独り言

これまでの柱だったエポジェン、ニューポジェン、エンブレル、ニューラスタ、アラネスプはこれから特許切れに伴い売り上げが落ちていく。それを補うのはデノスマブ製剤と片頭痛治療薬Aimovig、高脂血症治療薬レパーサ、そして育ち始めているバイオシミラー部門。

 

開発パイプラインを見ると喘息やアトピーのtezepelumabが有望、アルツハイマーBACE阻害剤AMG520は同種薬の治験を見る限り難しい。

 

アムジェンの現在の配当利回りは約3.2%

 

他の大手バイオテクノロジー企業はだいたい無配だがアムジェンは定期的に株主に対して配当を支払っており減配リスクも少ない。長期の配当重視であれば選択肢に入ってくる。

 

(Jan 1989 – Dec 2018)

 

1984年にアムジェンに投資したビール会社キリン。単純な投資リターンだけをみても300倍だがシナジー効果を含めるとそのトータルリターンは計り知れない。現在の協和発酵キリンという企業の礎となった。

 

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