【企業分析】 イーライリリー:インスリン造り続けて一世紀の老舗製薬会社

 

世界のインスリン市場を支配している3つの会社がある。

 

フランスのサノフィ
デンマークのノボノルディスク
アメリカのイーライリリー

 

この三社が1920年代にインスリンが発見されてから現在に至るまでひたすらインスリンを製造し市場を独占してきた。

 

インスリンが発見された翌年に各社からそれぞれインスリン製剤が作られ

 

サノフィ(旧ヘキスト)からインスリンヘキスト
ノボノルディスクからインスリンレオ
イーライリリーからアイレチン

 

が発売されている。

 

しかしイーライリリーはインスリン製造を目的に会社が設立されたノボノルディスクとは違いそれまでも様々な医薬品を製造してきた。

 

 

概要(2017年)

過去5年間の株価の動き

売上:228億ドル
研究開発費:52億ドル
営業利益:21億ドル
純利益:-2億ドル(税制改革の影響)
配当支払額:22億ドル

株価:112ドル
一株配当額:2.25ドル
配当利回り:2.00%

 

年間売上

40億ドル以上を売り上げていた統合失調症ジプレキサと抗うつ薬サインバルタの特許切れが響く

 

純利益と配当総額

トランプの税制改革に伴う赤字は一回キリなので2017年の赤字は問題無いが純利益における配当額を見ると余裕が無い。減配する程ではないがこのままでは大きな増配は期待できない。

 

 

動物医薬品部門の売上とその全体に占める割合

動物向け医薬品事業エランコ・アニマルヘルスは既にスピンオフされた。
売上は伸びているが競争も激しい。ファイザーが動物医薬品部門ゾエティスのIPOを成功させたのでそれに続くか

 

地域別売上

サノフィのランタスが特許切れでイーライリリーはそのバイオシミラーを発売した。
PBMもリリーのバイオシミラーを採用したので米国内の売上は増すかもしれない。
日本は胃ガン患者が多いのでサイラムザの伸びで売上好調

 

 

イーライリリーの歴史

1876年:南北戦争を戦ったイーライリリー元大佐がインディアナポリスで創業

イーライリリーは元軍人であり薬剤師でもあった。イーライリリー社を創業する前はドラッグストアを経営してたが創薬業に興味を持ち会社を創設。

 

最初期の製品は薬ではなく薬を飲みやすくするためにオブラート。ゼラチンコーティングされたカプセルや味を改善するためのフレーバー。
そしてイーライリリー社が最初に製造した医薬品の1つは創業者イーライリリーの最初の妻が亡くなった原因であるマラリアの治療薬キニーネ

 


(イーライリリー社最初期の薬Succus Alteran)

1898年:創業者イーライリリー大佐が癌によりインディアナポリスの自宅で死亡し息子が社長に就任
1906年:サンフランシスコ地震発生時に迅速な対応で被災地に医薬品を供給する。
1923年:米国で初のインスリン製剤「アイレチン」を販売

 

1929年:鎮静剤セコバルビタールを開発
1934年:初の米国外事業部がロンドンに設立される。
1943年:抗生物質ペニシリンの製造を開始する
1947年:鎮痛薬でもあり麻薬依存症の治療にも使用されるメサドンを米国で販売

(日本では商品名メサペインとして帝國製薬から販売されている)

 

1954年:アニマルヘルス部門がイーライリリー社の一部門として設立
1955年:ポリオワクチンを開発

 

1958年:強力な抗生物質バンコマイシンを開発

1961年:抗がん剤ビンブラスチンを開発

 

1971年:化粧品メーカーのエリザベスアーデンを買収

1973年:リチャード・ウッドが創業者一族以外で初の社長となる(それまでは一族支配
1979年:セファロスポリン系抗生物質セファクロルを開発

 

1982年:初のヒトインスリン製剤であるヒューマリンを開発

1987年:抗うつ薬プロザックを開発(日本では未承認)、エリザベスアーデンを売却
1996年:世界最初のインスリンアナログ製剤ヒューマログを開発
1997年:骨粗しょう症治療薬エビスタ(一般名:ラロキシフェン)を開発

1999年:インスリン抵抗性改善薬アクトスを武田薬品工業株式会社と協力して開発
2002年:ADHD治療薬ストラテラを開発

2003年:抗がん剤治療に伴う吐き気を予防するイメンドカプセル(一般名:アプレピタント)を開発

 

2004年:抗うつ薬サインバルタを開発

2014年:糖尿病治療薬GLP-1作動のトルリシティを開発

 

 

イーライリリーの売上トップ5(2017年)

1位:ヒューマログ 【28.6億ドル】
遺伝子を組み換えたヒューマンアナログ(類似)なインスリン 、超即効

 

2位:シアリス 【23.2億ドル】
バイアグラよりロングスパートが得意なタフマン

 

3位:アリムタ 【20.6億ドル】
悪性胸膜中皮腫、非小細胞肺癌の治療薬 アスベストが原因の癌に

 

4位:トルリシティ 【20.3億ドル】
糖尿病治療薬 当てて押すからアテオス 患者さんからは使いやすいと好評

 

5位:フォルテオ 【17.5億ドル】
骨密度を改善する皮下注射製剤

 

 

売上トップ5の売上推移

一番重要なヒューマログはバイオシミラーのインスリンリスプロが既に発売されている。インスリン製剤の特許切れはこれからのインスリン御三家共通の悩み。

 

イーライリリーはサノフィのランタスバイオシミラーBasaglarを発売し売り上げを伸ばしているがサノフィも報復でヒューマログのバイオシミラーを販売しており御三家が互いを攻撃している状態。患者さんにとっては価格競争により医療費が減るのでいい事だが

 

シアリスもこれからジェネリック医薬品の登場により売り上げが落ちていく。その2つの減少幅を補うのがトルリシティ

 

しかしトルリシティには強力なライバルがいる。それはノボノルディスクのオゼンピック
オゼンピックは臨床試験段階で有意なH1c効果作用を証明したし数年後には経口薬バージョンが発売される、経口のオゼンピックが承認されたらGLP-1作動薬市場はノボノルディスクに握られそう。

 

 

過去に開発した薬

 

アドシルカ(一般名:タダラフィル): 肺動脈性肺高血圧症 シアリスと同成分
オルミエント(一般名:バリシチニブ):リウマチ治療薬 経口薬で生物学的医薬品に匹敵する効果
ザルティア(一般名:タダラフィル):前立腺肥大に伴う排尿障害 シアリスと同成分
サイラムザ(一般名:ラムシルマブ):胃ガンの血管新生を阻害する
サインバルタ(一般名:デュロキセチン):抗うつ薬だが腰痛にも使えるようになった
ジェムザール(一般名:ゲムシタビン):すい臓がんとかに使う抗ガン剤
ジプレキサ(一般名:オランザピン) 統合失調症治療薬、体重増加しやすくDM患者には禁忌
ストラテラ(一般名:アトモキセチン):ADHD治療薬、体重が減りやすい、個人輸入禁止に
トルツ(一般名:イキセキズマブ):乾癬治療薬、オートインジェクターは便利

 

 

インスリン事業


(インスリンの構造)

 

イーライリリーの歴史で最も重要な出来事はインスリンの商品化に成功したこと

 

インスリンを発見したカナダのトロント大学から北米におけるインスリンの製造許可を受けイーライリリーはこれまで一世紀にわたりインスリンを製造してきた。

 

インスリンの発見と開発は人類の科学技術の進化と同義、その時代の最先端の知見がインスリン製剤には注ぎ込まれている。ヒトインスリンが作られる前は豚の膵臓からインスリンを抽出していたがアミノ酸の一つが豚と人間は違っていてアレルギー反応が起きやすかった。そこで1982年最新の遺伝子組み換え技術をジェネンテック(ロシュの子会社)から導入して完全なヒトのインスリンを開発することに成功。無毒化した大腸菌にヒトのインスリン遺伝子を導入して大腸菌内にヒトインスリンを生成させている。

 

インスリンは膵β細胞から分泌される51個のアミノ酸が連なったもので特許も無いが製造方法に沢山特許がある。大腸菌に作らせたインスリンを取り出すための薬剤やpHの調整といった細心の注意が必要な工程それぞれに企業としてのノウハウが存在する。低分子化合物のジェネリック医薬品を作るのとは次元の違う技術力が必要。

 

創薬技術で常に先頭を走っていないと作れないのがインスリン製剤。
そのインスリン製造競争を100年間戦ってきたのがイーライリリー。

 

イーライリリーのこれから

イーライリリーの新薬パイプラインを眺めているとアルツハイマー治療薬の開発に力を入れている。

アルツハイマー薬承認への道のりは厳しく成功確率は高くない。
承認される確率が高いのは疼痛治療薬のgalcanezumab、Lasmiditan、tanezumabの3つ
アルツハイマー治療薬の様なホームランは期待できないけどこれらの薬はツーベースヒットを狙える

アルツハイマー薬の開発は困難を極めておりファイザーは中枢神経系薬の開発から撤退した。
しかしこれからアルツハイマー薬の需要は世界中で増すばかり
アンメット・メディカル・ニーズで市場規模が一番大きな分野の一つがアルツハイマー

もし一つでも薬として商品されたらイーライリリーの株価は爆益の彼方へ

 

30年前に1万ドルを米イーライリリー株に投資していたら現在は約20万ドルとなっている。

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