2型糖尿病治療薬であるビクトーザ
見た目はインスリンに似ているが違う作用機序の薬である。
2009年に欧州で承認を取り2010年1月に日本国内でも承認を得た。
これまでの糖尿病治療は不足しているインスリンを補充するという治療だったがより根本的に膵臓に作用しインスリン分泌を促すGLP-1受容体を刺激すると言う一段進化した作用機序を有する。
HbA1cを下げるだけでなく間接的に食欲を抑え体重減少作用も持つ。なので米国では正式に肥満治療薬としても承認されている。
間接的にGLP-1レベルを増やすジャヌビアらDPP4阻害薬より高いHbA1c効果作用が証明されている。
2010年に承認された時点では併用可能薬がスルホニルウレア系に限定されていたが今はそういった制限も無く他の糖尿病治療薬と一緒に使う事が可能。
製薬会社:ノボ ノルディスク
2017年売上:231億DKK(約4000億円)
一般名:リラグルチド
薬価(18mg/3mL:一本):10,245円
一本1万円のビクトーザ。ノボノルディスクの純利益率が33%なのでザックリ計算すると糖尿病患者さんが一本使うごとにノボノルディスクには3300円の純利益が発生している。
純利益とは人件費や税金とか全部払った後に会社に残るお金が3300円、大儲けである。
錠剤の糖尿病薬とは比較にならない利益率。ビクトーザだけの売上で国内大手である塩野義製薬の年間売上(3440億円)を上回っている。
GLP-1の34位のリジンをアルギニンに置き換え26位のリジンをパルミチン酸によるアシル化で血中アルブミンと親和性を高めDPP4による阻害を受けにくくして作用時間を長くしたものビクトーザ。
2型糖尿病
糖尿病にはいつくか種類があるがそのうち2型にしか使う事はできない。インスリン分泌ができない絶対的不足の一型患者にビクトーザを使用してもインスリンがでてくるはずもないので無効である。2型糖尿病患者でもインスリン分泌能が著しく低下している場合は危険。それまでインスリンでコントロールしていた患者がいきなりビクトーザに切り替わると急激な高血糖となり危険。必ず医師と患者、双方が病態を理解した上で使用するべき薬。
リラグルチド(遺伝子組換え)として、0.9mgを1日1回朝又は夕に皮下注射する。ただし、1日1回0.3mgから開始し、1週間以上の間隔で0.3mgずつ増量する。なお、患者の状態に応じて適宜増減するが、1日0.9mgを超えないこと
一日一回同じ時間に腹部 上腕 大腿部等に使用する、同じ場所には続けて打たず2~3センチずらして打つ、続けて打つと注射部位が硬くなり吸収率が低下する。
ビクトーザを使う時間を開始する前に決めておこう。基本的に毎日同じ時間なら食事に関係なくいつ使っても良い。
- ビクトーザのキャップを外す
- ゴム栓を消毒綿で拭く
- 注射針の保護シールをはがす
- 注射針をゴム栓にまっすぐ奥までいれる
- 空打ち(試し打ち)する。毎回空打ちが必要
- 針を上向きにしてトントンと指で軽く弾き気泡を上に集めてから空打ち
- 注射する場所を消毒する
- 針を皮膚に刺す
- 注入ボタンを押す(刺しながらじゃなく刺し終えてから押す
- 注入ボタンを押して6秒以上数える
- 注射後は注射針を外す
- 針は感染性廃棄物なので適切に処理する
未使用品
冷蔵庫に保存する。冷凍庫はダメ、冷凍すると成分が壊れてしまう。
使用中
室温で保存可能、ただし遮光環境で30日以内に使いきること。
消化管ホルモンの一種で食事をすることにより小腸のL 細胞から出されるGlucagon like ペプチド1である。
小腸下部にあるL細胞から出され血液中のグルコース濃度によりインスリン分泌を促進する作用を有する。血糖値が低い時は無理にインスリンを出さないのでこれまでの糖尿病治療薬とは違い低血糖のリスクは低い。しかし他の糖尿病薬と併用する場合はリスクが上がる。
なぜGLP-1がインスリン分泌を促すかというと
ビクトーザがGLP-1受容体に作用すると細胞内でアデニル酸シクラーゼという酵素を活性化する。その酵素によりATPからcAMPに変換され増加したcAMPがインスリン分泌顆粒を刺激しインスリンが分泌される。
そしてGLP-1には血糖コントロール作用以外にも様々な作用が発見されている。
- 血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンの分泌も抑制する。
- 胃の動きを抑制し食べた食物を長く止まらせ間接的に満腹中枢を刺激し食欲を抑制する。
このように素晴らしい作用を有するホルモンであるのだが一つ欠点がある。それは
作用時間が短い
GLP-1は消失半減期が非常に短く静脈内投与の場合だと2分未満、すぐに体内から無くなってしまう。10分もしたら体内から消える。GLP-1そのものを薬と使おうと思ったら10分毎に注射していく必要があるので嫌すぎる。そのためその作用時間という欠点を補うべく開発された薬がビクトーザ。
ビクトーザとSU剤のHbA1c低下作用の比較
対象患者:食事療法又は食事療法に加え経口糖尿病薬単剤投与にて治療中の2型糖尿病患者400例
期間:投与後52週
ビクトーザ群:0.9mg/day
グリベンクラミド群:1.25~2.5mg/day
のHbA1c数値の推移
投与前 | 投与後 | 変化量 | |
ビクトーザ0.9mg群 | 9.3 | 7.38 | 1.92 |
グリベンクラミド群 | 9.3 | 7.9 | 1.40 |
ビクトーザはSU剤グリベンクラミドに対してHbA1c低下作用において優越性がある。そのうえグリベンクラミドによくある二次無効や低血糖といった煩わしさが優位に少ない。グリベンクラミドは1970年代に作られた昔の薬なので新薬なら余裕で優越性を示せないと困るが
ビクトーザとSU剤併用効果
投与前 | 投与後 | 変化量 | |
ビクトーザ0.6mg+SU(86人) | 8.84 | 7.41 | 1.43 |
ビクトーザ0.9mg+SU(87人) | 8.84 | 7.14 | 1.70 |
SU薬単独(88人) | 8.84 | 8.43 | 0.41 |
単剤試験とは元々のhbA1cが違うから単純な比較はできないがこちらでもHbA1cを1の後半下げる。しかしSU剤とビクトーザ併用しても6台に行くことは難しいようだ。0.6mg/dayより0.9mg/dayのが作用が強いように用量に依存してHbA1cを下げる。米国では1.8mgまで使える。
国内臨床試験において、総症例1,002例中ビクトーザとの関連性が疑われる副作用が379例699件(37.8%)認められた。
出現頻度が5%以上のものは
-
便秘:85例95件(8.5%)
-
悪心:63例74件(6.3%)
臨床試験における副作用の発現率を見てみると便秘は8.5% 悪心は6.3% 胃の不快感は1%~5%の間となっている
GLP -1作動薬共通の特徴的な副作用として吐き気がある。 GLP-1自体が 消化管に作用するタンパクなので不思議では無い。
ビクトーザも使い始め時に吐き気が出やすいので吐き気止めが必要となる場合がある。しかししばらく使い続けると吐き気は消える事が多い。 吐き気や便秘はすぐに対処できる薬があるので遠慮なく主治医に相談しよう。
GLP-1の作用を強めるので胃内容物排出が低下し食欲が落ちることがある。これは痩せたい人にとって副作用でなくメリットとなる。
出現頻度は低いが類似薬のバイエッタにも出る膵炎は国外治験で認められているので注意。激しい腹痛や嘔吐の場合は病院へ。
無
併用注意は
- ビグアナイド系薬剤
- スルホニルウレア剤
- 速効型インスリン分泌促進剤
- α-グルコシダーゼ阻害剤
- チアゾリジン系薬剤
- DPP-4阻害剤
- SGLT2阻害剤
- インスリン製剤
GLP-1作動薬は薬理的に低血糖を起こしにくい薬だが他の糖尿病治療薬と併用すると低血糖リスクが上昇する。併用する薬単体の低血糖リスクを更に上昇されるかはそれぞれの薬による。
この併用注意リストの中で違う意味で要注意なのはDPP-4阻害薬。
この薬はDPP4による分解を邪魔することにより間接的にGLP-1濃度を増やす作用機序で最終的にGLP-1を増やす。方法は違っても最終的な目的は同じでビクトーザと少しキャラが被っている。
併用すると保険償還の請求が通らない場合がある。この判断は地域それぞれの支払基金によるので処方するまえに確認しておいた方が良い。
32例の健康日本人成人男子に本剤2.5, 5,10及び15µg/kg(体重60kgとすると、本剤0.15, 0.3, 0.6及び0.9mgに相当)又はプラセボを単回皮下投与した場合
Tmax:7.5~11時間、中央値)、消失半減期10~11時間(平均値)
純粋なGLP-1だと10分で消失するのにGLP-1にパルミチン酸をくっ付けると最高血中濃度に到達するのが10時間ごと大幅な作用時間の延長に成功したのがビクトーザ。
GLP-1に比べて緩やかにDPP-4及び中性エンドペプチダーゼにより代謝される
CYPに対する本剤の阻害作用はほぼ認められない。よって飲み合わせに気を使わなくても良い。
ビクトーザの売上(単位:100万DKK)
肥満薬として承認されたり併用薬の制限もなくなり自由に処方できるようになって売上は順調に伸びている。一週間に一回投与のオゼンピックが軌道に乗るまではノボノルディスクも業績を引っ張る大切な薬。
ビクトーザはDPP-4阻害薬より優位にHbA1c低下作用を有しなおかつ体重減少作用も認められる。しかも単剤では低血糖を起こしにくくこれまで発売されてきた糖尿病治療薬の中でも効果と副作用を勘案するとハイレベルな薬となっている。
しかし日本ではDPP-4阻害薬の方が処方頻度が高い。これは経口薬と注射薬の違いが大きい。心理的なハードルが注射薬にはある。同じ効果で経口薬であれば爆発的に売れる。それは次世代GLP-1アナログであるオゼンピックの経口バージョンに期待。