【シャンビリ】 パキシル:「SSRI」という言葉を創り出した抗うつ薬

 

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(: Selective Serotonin Reuptake Inhibitors, SSRI)

 

SSRIというフレーズを最初に使ったのはパキシル。宣伝のためにグラクソ・スミスクラインが自ら創り出した言葉。

 

成分のパロキセチンを発見したのはデンマークの製薬会社Ferrosan、セロトニントランスポーター阻害薬を研究していた時に発見した物質だが他に有望な候補があったので1980年、英国のビーチャム社に売却され以降の臨床試験はグラクソ・スミスクラインが行った。

パキシルのデビューは1991年に英国で、1993年に米国、日本では2000年に発売。発売されると先行していたプロザックを売上で抜き去りSSRIのトップに駆け上がった。米国でパニック障害に効果が認められた初めての抗うつ薬。

 

 

パキシルの効能・効果

 

  • うつ病・うつ状態
  • パニック障害
  • 強迫性障害
  • 社会不安障害
  • 外傷後ストレス障害
日本で承認されている4つのSSRI(ルボックス・パキシル・ジェイゾロフト・レクサプロ)で上記の5つの疾患全てに保険適応を持つのはパキシルだけ。
海外でパキシルはPMSにも使われている。

 

パキシルの用法用量
開始量 増量方法 1日上限 服用時点
うつ病・うつ状態 10~20mg  1 週ごとに10mg/日ずつ増量 40mg 1日1回夕食後
パニック障害 10mg 1 週ごとに10mg/日ずつ増量 30mg 1日1回夕食後
強迫性障害 20mg 1 週ごとに10mg/日ずつ増量 50mg 1日1回夕食後
社会不安障害 10mg 1 週ごとに10mg/日ずつ増量 40mg 1日1回夕食後
外傷後ストレス障害 10~20mg 1 週ごとに10mg/日ずつ増量 40mg 1日1回夕食後

 

パキシルは抗うつ薬だがパニック障害や強迫性障害、社会不安障害、PTSDにも効果がある。ただパキシルに即効性は無くすぐに症状を止めたい時に屯用してもあまり意味がない。パニック障害ですぐにその症状を抑えたい場合はソラナックスなどを使う。

 

パキシルはいきなり治療量を服用するのではなく少量から開始して一週間以上間隔をあけて増量していく。逆にパキシルを辞める時もいきなり服用を中止するのではなく用量を少なくして段々 減らしていく。パキシルの5mg錠はパキシルをやめるための薬。

 

眠気の副作用で出やすいので夕に服用しよう。

 

強迫性障害は1日50mg使えるが50mg錠の規格が無いので20mg×2錠+10mg×1錠と一回3錠と飲むのがメンドクサイ。

 

パキシルの作用機序

 

現代医学でもうつ病は完全には解明されていないがどうやらセロトニンという物質が少なくなると鬱になる。

 

なぜセロトニンがあると気分が軽くなるのか、そもそも気分って何だろう、意識とは何だ?  そういった高次元な理解はまだまだ進んでいない。

突き詰めると人間の意識や魂ってどこにあるんだろうというスピリチュアルな話になってしまう。

 

とりあえずうつ病の人は脳内のセロトニンが少なくなっているんだから増やそう。そういう考え方が今の抗うつ薬。

 

じゃあどうやってセロトニンを増やすかという話だがセロトニンがシナプス前膜からせっかく放出されてもシナプス後膜の受容体に行くまでにセロトニントランスポーターという再取り込みをするものに取り込まれてシナプス後膜までいけない場合がある。

 

パキシルをはじめとした SSRI はこのセロトニントランスポーターを邪魔することによって再取り込みを阻害して間接的にシナプス後膜に結合できるセロトニンを増やす。

 

 

パキシルの臨床効果

国内臨床試験

服用方法 有効率
うつ病・うつ状態 1日1回10~40mg 55.1%
パニック障害 1日1回10~30mg 60.2%
強迫性障害 1日1回20~50mg 50.0%

即効性は無く2週間あたりで抗うつ薬としての効果を実感する。

しかし吐き気などの副作用は服用開始直後から現れるのでドロップアウト率が高い。耐えがたい副作用でなければしばらく継続服用して様子を見よう。

 

社会不安障害

投与12週時のLSAS合計点減少度

社会不安障害においては20mg群と40mg群で有効率は変わらない。

 

MANGA studyにおけるパキシルの位置

ランセットという医学界の週刊少年ジャンプ的な一流雑誌に載っていた抗うつ薬の性能比較試験。米国で使われているプロザックを基準にしている。

そのプロザックよりはパキシルのが効果があるが安全性が落ちる。レクサプロは有効性と安全性が高い。

 

 

パキシルの副作用
国内臨床試験 1,424例
副作用 頻度
1位 傾眠 23.6%
2位 嘔気 18.8%
3位 めまい 12.8%
全体 68.5%

 

眠気

パキシルはジェイゾロフトなど他のSSRIと比べても眠気が出やすいので服用時点が1日1回夕と指定されている。

 

吐き気

飲み始めは吐き気が出やすい、セロトニンは胃のセロトニン受容体に作用して吐き気を誘因する。

 

パキシルがセロトニンが消化管粘膜細胞のセロトニン濃度を上昇させ

 

5HT3受容体→嘔吐中枢→吐き気。

 

一般的に継続服用すれば体が慣れて落ち着く(約2週間)が慣れるまで辛い場合は胃薬を併用したり。それか普通錠で気持ち悪くなったのならCR錠に変更してもらうとマシになる。普通錠よりCR錠は溶け方がゆっくりなので消化管で一気に増えない。

 

慎重を期すならパキシルの5mgから試すのもありかかしれないがレセプト的には5mg/dayからの開始は返戻対象となる場合がある。レセ摘にコメントを書いておけば通りやすいかも。

 

めまい

パキシルは選択的セロトニン取り込み阻害だがα1受容体阻害作用を有している。アドレナリンが結合して血圧を上昇させる受容体なのでそれを邪魔したら血圧は下がりフラツキやめまいが起きてしまう。他のSSRIと比較してもこの副作用は多めなので注意

 

肥満

パキシルの体重増加パキシルは他のSSRIと比較すると一段太りやすい。特に女性にその傾向がある。服用開始前に患者に伝えておかないと肥満が原因で更に鬱になったり自己判断での服用中止に繋がる。

 

なぜパキシルを飲んだら太るのかと言えばパキシルは抗ヒスタミン作用があるから。ヒスタミンは代謝を促進するのでそれを邪魔すると代謝が落ちてしまう。三環系よりは抗ヒスタミン作用が弱いがそれでもパキシルは明らかに抗ヒスタミン作用を持つ。

 

それと鬱状態が改善されて食欲が出て太る場合もある。

 

シャンビリ
耳鳴りがシャンシャンとを聞こえ、手足がビリビリと痺れるパキシルの離脱症状。服用中断後数日で症状が現れることがある。

普通錠をいきなり辞めるのではなくCR錠に
CR錠12.5mgからCR錠6.25mgへ段階的に減らしていけばシャンビリ発現リスクは減る。

 

便秘

ジェイゾロフトは下痢(6.4%)になり易いがパキシルは便秘(7.9%)になり易い。

 

 

 

パキシルの飲み合わせ

併用禁忌

区分 代表的な薬 リスク 機序
MAO阻害剤 エフピー セロトニン症候群 脳内セロトニン濃度が高まる
ピモジド オーラップ QT延長、心室性不整脈 CYP2D6を阻害によるピモジドの血中濃度が上昇

 

併用注意

区分 代表的な薬 リスク 機序
セロトニン作用を有する薬剤 セイヨウオトギリソウ セロトニン症候群 セロトニン増えすぎ
CYP2D6で代謝される薬物 リスパダール、ストラテラ 併用薬剤の血中濃度↑ 代謝酵素阻害
メトプロロール酒石酸塩 セロケン 血圧低下 セロケン血中濃度が5倍以上になる
CYP2D6の代謝を阻害する薬物 タガメット セロトニン症候群 パキシルの血中濃度が上昇
CYP2D6の代謝を誘導する薬物 テグレトール パキシル血中濃度↓ パキシルが代謝され過ぎ
血液サラサラ薬 ワルファリン 出血 機序不明
アルコール ストロングゼロ 中枢抑制 本剤との相互作用は認められていないが他の抗うつ剤で作用の増強が報告されている。

 

2D6代謝で意外に注意すべきは咳止めのメジコン。併用すると一時的に血中濃度が上昇して吐き気が出ることがある。それと抗がん剤のノルバデックス。併用するとノルバデックスの効果が弱まる可能性がある。

 

妊娠中のパキシル
オーストラリア分類:D

 

胎児の先天奇形の頻度を増加させ、回復不能の傷害を与える、ないし、その可能性が示唆されている薬物。(可逆的な)薬理学的副作用も伴っているかもしれない。

 

他のSSRIよりも一段リスクが高いので可能であれば避けた方がいい。

 

小児や未成年に対してのパキシル
小児等に対する安全性は確立していない。
海外で実施した 7 ~18歳の大うつ病性障害患者(DSM-IVにおける分類)を対象としたプラセボ対照の臨床試験において本剤の有効性が確認できなかったとの報告がある。

 

2012年にパキシル製造販売元のグラクソスミスクラインは子供向けに販売促進したことにより30億ドルの罰金を支払った。

 

同じSSRIのレクサプロは12~17歳に有効性が認められたとの報告があるのでSSRIをどうしても使わないといけない状況だったらパキシルよりはレクサプロの方がマシ

 

パキシルの構造式

 

パキシルの代謝

パキシルは肝のCYP2D6によりで脱メチレン化され薬理活性を持たない代謝物に変換され更に抱合反応を受けて排泄される。

 

構造がパキシルと似ている↓の物質。代謝酵素も同じCYP2D6、しかし・・・

 

セロトニン再取り込み阻害作用を持つという意味ではパキシルと同じでだがこの物質はそれ以上にセロトニンを無理やり放出させる作用がある。一時的に無理やりセロトニンを出すとその反動で余計に鬱になる。

 

薬理的にはセロトニンを放出させて尚且つ再取り込み阻害するんだからシナプス間のセロトニン濃度は上がりまくりだがセロトニンは上がり過ぎるとセロトニン症候群など危険な状態になるので使ってはならない。米国では医療に応用できるかもしれないと試験しているが日本で思いっきり違法である。

 

パキシルの薬物動態

パキシルは服用指定から約5時間後に最高血中濃度に到達する。半減期は14時間と長く一日1回の服用で効果が持続。

 

パキシルの特徴的な体内動態として非線形な血中濃度の変動がある。パキシルはCYP2D6により代謝されるがパキシル自体が2D6を阻害する。

 

なので2倍量を服用すると血中濃度は2倍でなく3~4倍に跳ね上がってしまう。逆に減薬する時は一気に半分量にすると血中濃度が下がり過ぎて離脱症状が起きやすい。

 

 

パキシルのジェネリック
規格 先発薬価 後発最安
パキシル錠5mg 47.0円 12.6円 26.8%
パキシル錠10mg 82.8円 23.6円 28.5%
パキシル錠20mg 143.9円 41.0円 28.5%
パキシルCR錠6.25mg 59.8円 N/A N/A
パキシルCR錠12.5mg 83.2円 N/A N/A
パキシルCR錠25mg 144.1円 N/A N/A

 

2019年3月現時点ではパキシル CR 錠のジェネリック薬品は存在しない。パロキセチンOD錠はあるがCR錠のジェネリック医薬品は無し。

 

普通錠の特許が切れた2012年に徐放製剤パキシル CR が発売された。どう見ても後発品対策ですね、はい。

 

・パキシル CR 錠と普通錠の違い

パキシルCR錠は上下で色が違うという斬新なデザイン。親水性マトリックス薬物層と浸食性バリア層の2層構造で錠剤の表面が腸溶性コーティング。半畳に割ったり粉砕したら無意味なのでしてはいけない。

 

CRとはコントロールドリリースの略。分かりやすく言えばゆっくり溶けてじわっと効きますということ。効果を安定させるというよりは副作用を出にくくするための薬。CR錠は普通錠と比較して吐き気による離脱率が低い。

 

血中濃度は急に上がったりすると依存性や副作用のリスクが高いのでそれをマイルドにしている。効果を高める薬ではないので普通錠で満足しているのであればCR錠に変更する必要はない。

 

保険的にはCR錠は「うつ病・うつ状態」にしか使えない。

 

パキシルの売上

 

特許切れで大きく売り上げを減らしGSKグループ全体売上の1%以下だがまだ一年間で200億円以上の売上がある。

 

日本で二番目に発売されたSSRIだが売上は日本一

5mg錠やCR錠といった小回りの利く剤形が用意されており現場の細かいニーズに対応した結果。これからますますジェネリック医薬品が使われていくだろうが精神薬なので先発品も一定数の需要は見込める。

 

 

 

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