1986年に現在の第一三共から発売された解熱鎮痛剤ロキソニン。1986年といえば初代ドラゴンクエストが発売された記念すべき年。
第一三共にとってロキソニンとはエニックスにとってのドラクエシリーズ並みに重要な薬。2017年度のロキソニンシリーズ売上は365億円。
ロキソニンが発売されるまで使われていた痛み止めはスイス製のボルタレン(一般名:ジクロフェナクNa)や英国製のブルフェン(一般名:イブプロフェン)。
そこに日本の製薬会社である三共株式会社(現:第一三共株式会社)が開発に成功したmade in japan の痛み止め
それがロキソニン
関節リウマチ・腰痛・怪我の痛みに対しての即効性、そしてプロドラッグならでは副作用の少なさというバランスの良さがお医者さんと患者さんにバカうけ。日本の解熱鎮痛剤市場で売上トップに君臨している。とりあえずロキムコ。ムコスタも日本の大塚製薬
ロキソニンには錠剤だけでなく細粒、そしてテープ剤やパップ剤やゲル剤といった外用薬もある。
胃が弱い人ならテープ剤を貼ったり
皮膚がかぶれ易い人ならロキソニン錠を飲んだり
と使えない場合の代替案をロキソニンファミリー内でフォローできる。
そして医療用として25年使われた実績、その効果と副作用の少なさが評価されて2011年にスイッチOTCとして販売された。
現在の医療用ロキソニン錠60mgは普通薬という区分だがスイッチOTCに代わる前までは劇薬だった。
市販薬として販売するために劇薬から普通薬に区分を変えたという大人の事情ではなく安全性を再評価した結果、普通薬に変わったと信じたい。
信じる者は救われる。
プラセボ最高
[ロキソプロフェンの構造式]
ロキソニンは主成分であるロキソプロフェンから命名された。ならそのロキソプロフェンはどこから名付けられたのかと言えば構造式から。
青く囲まれたプロピオン酸という3つの炭素骨格を持つ構造に緑色のフェニル基がくっ付いてプロフェン。
[イブプロフェンの構造式]
市販薬として知名度は負けていないイブも主成分はロキソプロフェンと共通の構造を持っている。
ロキソプロフェンは15歳以上でないと服用できないがイブプロフェンは医療用であれば5歳から服用可能。
イブプロフェンは1960年代から使われておりロキソプロフェンよりも歴史が長く臨床データも蓄積されている。
[ケトプロフェンの構造式]
日本一処方されている湿布薬のモーラスの主成分ケトプロフェンもロキソプロフェンと共通構造を持っている。
モーラステープのケトプロフェンはプロフェンにケト基(カルボキシル基)を持っておりそのままケト+プロフェン。
ケトプロフェンの貼り薬は患部を日光に当てるとアレルギー症状を起こす。ロキソプロフェンの貼り薬は光線過敏症は起きない。
この違いは構造式に由来しておりケトプロフェンにはケト基が存在し共役構造を持つ。
非共有電子対が酸素原子上に存在し紫外線などエネルギーの高い光がその非共有電子対にエネルギーを与え分子上を動き回れる状態となる。そうすると反応性が高くなり体内でアレルギー症状を起こしやすくなる。
ロキソプロフェンは共役構造を持っていないのでこの副作用は起きない。
モーラステープは効果が高い分リスクも高いので市販薬としては販売されていない。
しかしロキソニンテープはドラッグストアでも販売されている。
効能・効果 | 用法 |
関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症
肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、歯痛
手術後、外傷後並びに抜歯後 |
1日3回 1回1錠
屯用:1回1~2錠 (適宜増減可能)
|
急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む) | 屯用:1回1~2錠
原則1日2回まで,1日3錠まで |
ロキソニンは適応範囲が広い。しかし特定の痛みには効かない場合もある。
[ロキソニンが効きにくい痛み]
・胃痛:胃粘膜を薄くしてしまうのでロキソニンを服用すると逆効果。病院だとロキソニンによる胃の荒れ予防でムコスタが処方される程。胃が痛むなら市販薬だとガスターやセルベールを使う。
・神経の痛み:交通事故などで神経に傷を負った場合の痛みにはロキソニンよりもリリカやノイロトロピンの方が効果的。 長期で使うならビタミンB12のメチコバールもオススメ
・片頭痛:片頭痛の原因の一部は脳内にある血管がセロトニンによって拡張されて、それが神経に当たることにより痛む。 片頭痛は炎症が起きていないから消炎鎮痛剤のロキソニンには効果がない。セロトニンによって拡張された血管を収縮させるにはイミグランなどのトリプタン系を使う
ロキソニンはそのままの構造では効果を発揮しない。体内で代謝を受けtrans-OH 体に変換され痛み止めとしての効果を発揮する。吸収されるときには真の力を隠してるから副作用も少ない。
trans-OH 体はシクロオキシゲナーゼを阻害して発熱や痛みの原因物質であるプロスタグランジン生合成を抑制する。
プロスタグランジンE2は痛みや発熱の原因物質なのでそれを抑制すると症状は改善される。
しかしプロスタグランジンE2はそれだけではなく胃粘膜や腎血流量にも関与するので阻害すると胃粘膜が薄くなるし尿量は低下する。
夜間頻尿の人がロキソニンを服用すると尿量が減ってトイレの回数が減ることがあるが腎臓に負担がかかるのでそのような目的で服用するべきではない。
二重盲検比較試験(954例)
有効以上 | やや有効以上 | |
関節リウマチ | 23.2% | 55.8% |
変形性関節症 | 61.8% | 87.3% |
腰痛症 | 62.7% | 77.1% |
肩関節周囲炎 | 57.4% | 85.2% |
頸肩腕症候群 | 61.9% | 88.9% |
手術後・外傷後 | 76.1% | 95.4% |
抜歯後 | 89.9% | 97.2% |
急性上気道炎 | 69.8% | 89.4% |
抜歯した後には9割が有効だが関節リウマチには2割ちょっとしか有効でない。ロキソニンのテープ剤に至ってはそもそもリウマチに適応を持っていない。(モーラステープはリウマチに適応有り)
即効性
用法用量 | 15分以内 | 30分以内 | |
手術後・外傷後疼痛 | 1日3錠×3日 | 20% | 54% |
抜歯後疼痛 | 2錠×頓服 | 52% | 84% |
地獄の様な歯の痛みにもロキソニンは15分以内に半数、30分だと8割以上の人に効果がある。まさに救世主
総症例13,486例中に副作用報告は409例(3.03%)
症状 | 出現頻度 | |
1位 | 消化器症状 | 2.25% |
2位 | 浮腫・むくみ | 0.59% |
3位 | 発 疹・ 蕁 麻 疹 等 | 0.21% |
4位 | 眠 気 | 0.10% |
100人がロキソニンを服用したら3人に副作用が現れる。その半分以上は胃荒れといった消化器症状。
1位も2位もロキソニンはシクロオキシゲナーゼ阻害したことによるプロスタグランジン生合成を阻害したことによる副作用。
ロキソニンの眠気
1000人に一人の割合でロキソニンは眠気が出るというデータがある。
しかし製造販売している第一三共のホームページにはロキソニン由来の眠気は起きないと説明されている。(*ロキソニンSプレミアムは眠気成分含有)
プラセボでもその程度の眠気はでるし統計的に有意な差ではない。
それまで脳が感じていた痛みをロキソニンで解放すると脳は緊張状態からリラックス状態へ移行して眠気も生じる場合がある。
重大な副作用:小腸・大腸の狭窄・閉塞
2016年に追加になったロキソニンの副作用。過去3年に6例(そのうち因果関係が否定できないもの5例)死亡例は無し。
処方薬だけでなく市販薬としてもこれだけ使用されている中で年間2例。
第一三共の決算資料によるとロキソニンは毎年300億円以上売れている。ロキソニンには錠剤以外にテープやゲル剤もあり一概には言えないがOTCを含めるとロキソニンの錠剤は毎年100億円売れている。ロキソニン錠の1錠あたりの薬価は14.5円とすると年間6億錠以上売れている。
その中で当たるのは年間2例
宝くじ並みの確率
まだその辺の風邪薬でスティーブンジョンソン症候群に当たる方が確率高いし怖い。
ロキソニンとその活性代謝物M-2は共にグルクロン酸抱合を受けて腎臓から排泄される。肝臓でのCYPは関連していないので飲み合わせに関する問題が少ない。
体内動態
ロキソニン自体は30分以内に最高血中濃度に達し鎮痛作用を発揮する。痛いときに早く効く。
ボルタレンはロキソニンよりも強力な痛み止めだが血中での立ち上がりが遅く即効性という点ではロキソニンが勝る。
併用禁忌:無
併用注意
薬剤名 | リスク | 理由 |
ワルファリン | 血液リスク↑ | PG生合成抑制で血小板凝集が抑制 |
第Xa因子阻害剤 | 血液リスク↑ | 抗血栓作用を増強 |
SU剤(アマリール等) | 低血糖リスク↑ | 蛋白結合率が相互に高いと血中遊離薬物濃度が上昇する |
ニューキノロン系抗菌剤 | 痙攣誘発リスク↑ | GABA結合阻害作用を増強する |
メトトレキサート | MTX濃度↑ | PG生合成抑制により腎からの排泄低下 |
炭酸リチウム | リチウム濃度↑ | PG生合成抑制により腎からの排泄低下 |
チアジド系利尿薬 | 利尿作用↓ | PG生合成抑制により腎からの排泄低下 |
降圧剤(ACE,ARB) | 腎機能悪化 | PG生合成抑制により腎からの排泄低下 |
ロキソニンには絶対に一緒に服用してはいけない薬は無い。
しかし継続的に服用すると胃粘膜も薄くなり胃が荒れるし腎血流量も低下して腎機能に影響を及ぼす。ロキソニンはあくまでも一時的な痛みを改善する薬であり慢性的に服用する薬ではない。ロキソニンの副作用は大まかに分けると
①出血リスク
②腎血流量の低下
から来ている。
[添付文書]
授乳中の婦人に投与することを避け、やむをえず投与する場合には授乳を中止させること。
(出典:高の原中央病院 DI ニュース)
使わなくて済むならそれに越したことは無いが使わざるを得ない場合もある。なので服用してしまった場合の母乳移行性を推察する。
キーポイントは2つ
①血中蛋白結合率
②血中半減期
薬は体内に吸収されると血中で遊離型と結合型の2つの状態になる。タンパク質と結合しているタイプとそれ以外。薬効を発揮するのは遊離型で母乳移行するのも遊離型。ロキソニンの結合率は97%と高く遊離型は3%しかない。ロキソニンの活性代謝物は更に血中濃度が低い。
ロキソニンは服用して1時間以内に最高血中濃度に達する。そして半減期は1.2時間。一般的に半減期の5倍経過すれば薬は体内から消失すると言われている。
1.2時間×5=6時間
ロキソニンを服用してから6時間経過したら母乳へはほぼ移行しない。(母体血中にロキソニンが残っていないから)
しかしほぼ0とゼロは違う。イブプロフェンのように小児に適用がある薬であれば少量が母乳に移行したとしても気にしないでいいがロキソニンは15歳未満には使えない。
なのでやむを得ない場合以外は極力使わない。痛み止めが必要なら安全なアセトアミノフェン(市販薬:タイレノール)を使う。
[添付文書]
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
添付文書ではリスクとデメリットの天秤を考慮して使えと記載されている。そして妊娠中は時期によってリスクが異なる。
避けた方が良い時期は2つありそれは妊娠初期と後期。特に妊娠4週~7週の絶対過敏期は胎児の器官が形成される一番大事な時期。ロキソニンどうこうではなく薬は極力使わない方が良い。
もう一つの時期は妊娠後期。ロキソニンに限らずだがNSaidsは胎児の動脈管を細めるリスクがある。一部の湿布薬も妊娠後期には使わない。
ロキソニン服用を避けるべき時期
妊娠4〜7週(絶対過敏期)
妊娠後期(8~10ヶ月)
↑以外の時期なら使えないこともない。
しかし安全策ならやっぱりアセトアミノフェン(市販薬:タイレノール)が良い。
先発薬価 | 後発最安薬価 | ||
ロキソニン錠60mg | 14.5円 | 5.6円 | 38.6% |
ロキソニン細粒10% | 26.5円 | 11.6円 | 43.7% |
ロキソニンテープ50mg | 22.7円 | 12.1円 | 53.3% |
ロキソニンテープ100mg | 34.6円 | 17.0円 | 49.1% |
ロキソニンパップ100mg | 34.6円 | 17.0円 | 49.1% |
ロキソニンゲル1% | 5.3円 | 3.3円 | 62.2% |
ロキソニン錠の後発最安値は5.6円。うまい棒より安い。
市販薬ロキソニンSの中身は医療用と同じ。製薬会社も同じ第一三共。
ロキソニンSの「S」は製薬会社曰く
Strong · Speedy · Safety
から名付けたと。
確かにその3つはロキソニンの大きな利点。しかし・・・
ロキソニンにそのSを付けたら普通のロキソニンがさらに強く 超早く より安全になったかと丿貫は思ってしまった。サイヤ人がスーパーサイヤ人になってパワーアップしたかの様に。
そんなロキソニン S 12錠の最安値を価格コムで調べてみるとサンドラッグで525円となっている。
1錠あたり43.75円
市販のロキソニンSは医療用後発品最安値5.6円の7.8倍する高価な品。
しかしロキソニンを貰うために病院で診察を受けて、薬局で調剤してもらうと診察料と調剤料だけで525円は軽く超えるので市販薬を買うのは悪くない選択。