どこの病院や薬局にもある解熱鎮痛剤カロナール。その存在感から先発品かと思いきやジェネリック医薬品である。アセトアミノフェン錠には先発品が存在しない。
カロナールの主成分アセトアミノフェンは1873年に生化学者Harmon Northrop Morseにより合成され,1955年に米国のNcNeil社(現ジョンソンエンドジョンソン子会社)が小児用解熱鎮痛薬(タイレノール)として市販開始。
100年以上前から存在する物質なので先発も後発もない。
有名なバイアスピリンも後発品。
日本では2011年まで一日上限量が1500mgと欧米の4000mgと比較して少なかったせいもあり解熱鎮痛作用が弱いとのイメージがある。
だが然るべき量を使うとNSaidsにも負けはしない。
アセトアミノフェンは長期で服用すると肝機能障害リスクが上昇するので1500mg/dayが目安であることには違いない。アセトアミノフェンはPL顆粒やトラムセット、市販の総合風邪薬にも含まれているから重複にならないよう慎重に使用しなければならない。
しかし総合的にみるとカロナールはロキソニンなど他の消炎鎮痛剤にみられる胃荒れや腎機能低下が少なく安全性の高い薬である。インフルエンザや授乳・妊娠でもリスクを上昇させない。
「熱や痛みがとれて軽く、楽になる」
熱が下がって身体がかるくな~る、小林製薬的ネーミング。
効能・効果 | 用法・用量 | 1日上限量 |
頭痛,耳痛,症候性神経痛,腰痛症,筋肉痛,打撲痛,捻挫痛,月経痛,分娩後痛,がんによる疼痛,歯痛,歯科治療後の疼痛,変形性関節症 | 成人:1回300~1000mgを経口投与し,投与間隔は4~6時間以上
適宜増減可能 空腹時を避ける |
4000mg |
急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む) | 成人:1回300~500mgを頓用
適宜増減可能 空腹時を避ける |
1500mg |
小児科領域における解熱・鎮痛 | 幼児及び小児:体重1kgあたり1回10~15mg
投与間隔は4~6時間以上 空腹時を避ける |
60mg/kg/日 |
癌による痛みにも適応がある。特にオピオイド鎮痛薬と併用すると脳の中枢で作用するので相加的に作用する。
小児科の熱冷ましと言えばアセトアミノフェン。
アセトアミノフェンはこれまでの圧倒的な臨床実績とそのコストパフォーマンスからこれから先もずっと使われていく。
なので小児科領域においてのアセトアミノフェン使用量
体重1kgあたり1回10~15mg
は医師や薬剤師は元よりニートであっても空で暗記するべき。
米国では構造式的にパラセタモールと呼ばれている。
昔使われていた解熱鎮痛剤フェナセチンの活性代謝物がアセトアミノフェン。副作用や発がんリスクがあるフェナセチンは既に医薬品としては使用されていない。
解熱作用:視床下部の体温調節中枢に作用して皮膚血管を拡張させて体温を下げる。
鎮痛作用:視床と大脳皮質の痛覚閾値を高めることによる。
まだアセトアミノフェンの薬理作用はハッキリとしていない。
添付文書に記載されているのは↑だけだが他にも
肝臓で代謝され生成するp-アミノフェノールが脳や脊髄に移行して、アラキドン酸と結合しN-アシルフェノールアミンへと代謝。このN-アシルフェノールアミンがシクロオキシゲナーゼを阻害することにより中枢性の鎮痛作用を発揮するとの報告もあったり。さらにこのN-アシルフェノールアミンは中脳においてカンナビノイド受容体を間接的に活性化し下降性抑制系を賦活化するとも言われている。
しかし上記の作用は脳中枢でのことなので抹消では作用しない。
よってカロナールに抗炎症作用はほぼ無し。
対象:感冒による発熱、歯科領域の痛み
用法用量:カロナール錠200を1回2錠投与した。1日の投与は3回まで
対象疾患 | 人数 | 年齢層 | 有効率 |
感冒による発熱及び頭痛,耳痛,咽頭痛の38℃発熱時又は疼痛発現時に頓用 | 55例 | 18~69歳 | 解熱で71.4%(15/21)
鎮痛で70.6%(24/34) |
歯痛,抜歯後疼痛を有する16~69歳の患者計で,疼痛発現時に頓用 | 32例 | 16~69歳 | 有効以上59.4%(19/32) |
カロナールの鎮痛作用はアスピリンと同程度で緩和な痛みにしか効かない。鎮痛より解熱の方がカロナールは有効性が高い。
歯科領域においての効果発現時間
12例で15分(37.5%),22例で30分(68.8%),28例で60分(87.5%)であった。
発熱(感冒)時におけるカロナール投与の経時的変化
症例:21例
投与量:アセトアミノフェン200mg×2錠
平熱時にはほとんど体温に影響を及ぼさない。発熱時には投与3時間当たりで、最大効果を発現して平均して6時間後には平熱に。
肝機能に障害を与えるNAPQIはCYP2E1によって生成される。
このCYP2E1はお酒により誘導されるのでカロナールと一緒にお酒を摂取してはいけない。
NAPQIを処理するためにはグルタチオンが必要なのでグルタチオンが枯渇する事によってもNAPQIは肝臓で増加する。
【カロナール錠200mg×2錠】
【カロナール錠500mg×1錠】
AUC((μg・hr/mL)) | 最高血中濃度到達時間(hr) | 半減期(hr) | |
カロナール錠200mg×2錠 | 19.03±2.45 | 0.46±0.19 | 2.36±0.28 |
カロナール錠500mg×1錠 | 27.81±5.04 | 0.79±0.49 | 2.91±0.38 |
最高血中濃度は400mgの方が高くなるが半減期が短く500mgより早く体内から消失する。
併用禁忌:無
併用禁忌が無いといっても肝臓で処理される薬なので飲み合わせには気を付ける
併用注意
リスク | 理由 | |
炭酸リチウム | リチウム血中濃度↑ | 腎血流量低下でリチウム排泄低下 |
チアジド系利尿剤 | 利尿効果↓ | 腎血流量低下で利尿作用が低下 |
お酒 | 肝障害リスク↑ | CYP2E1の誘導によりアセトアミノフェンから肝毒性を持つN-アセチル-p-ベンゾキノンイミンへの代謝が促進 |
CYP3A4誘導作用薬物 | 肝障害リスク↑ | CYP2E1の誘導によりアセトアミノフェンから肝毒性を持つN-アセチル-p-ベンゾキノンイミンへの代謝が促進 |
ワルファリンK | 出血リスク↑ | 血漿蛋白結合部位において競合することで,抗凝血剤を遊離させ,その抗凝血作用を増強 |
抗生物質・抗菌剤 | 体温↓ | 機序不明 |
アセトアミノフェンを飲み過ぎると発現するN-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)
単剤だと大量に服用して発生するが併用薬があると少量でも発生する。とても安全な薬ではあるが絶対ではない。
カロナールは100年以上前に開発された薬なのでの副作用発現頻度が明確となる調査を実施していない。
しかしだからといって副作用が無いわけはもちろんない。
カロナールと肝機能障害
肝臓においてアセトアミノフェンは大部分がグルクロン酸抱合や硫酸抱合を受けるが一部が肝代謝酵素CYP2E1によりN-アセチルP-ベンゾキノンイミン(NAPQI)に代謝されてそれが更にグルタチオン抱合により無毒化され尿中排泄する。少量であれば問題無いこのNAPQIが大量に肝臓に存在すると問題となる。
N-アセチルP-ベンゾキノンイミン(NAPQI)は酸性活性物質であり蓄積しすぎると肝臓にダメージを与える。常用量15mg/kgの10倍である150mg/kg、体重50kgの人間であればカロナール7500mg以上を摂取してしまったら肝機能によろしくない。
しかしカロナール錠500mgをうっかり15錠間違って飲んでしまった場合には解毒薬がある。その名も
アセチルシステイン内用液
24時間以内であれば解毒効果が期待できるgoodアイテム
偶然にも販売会社はカロナールと同じ「あゆみ製薬会社」
マッチポンプかな?
米国小児科学会:母乳育児中の母親へ投与可能な薬剤(最もリスクが少ない)
Medications & Mothers’ Milk:L1(最も安全)
カロナールは母乳中への移行が極少量で、母乳育児に適している。もし母乳に移行したとしても小児に適応がある安全な薬なので安心。
どうしても赤ちゃんに薬が影響するのは嫌という場合、カロナールを服用するまえに授乳を済ませるかカロナール服用後6時間以上あける。
オーストラリア分類[A]
多くの妊婦と妊娠可能年齢の女性によって服用されており、それによって先天奇形の発症率の上昇や、間接・直接の胎児に対する有害作用が確認されていない
カロナールは解熱鎮痛剤で最も妊娠中の安全性が高いと考えられている。 催奇形性は報告されていない。
分子量が小さく胎盤は通過するがもし胎児にカロナールが行ったとしてもカロナールは小児にも使える薬で安全性が高い。
そんなカロナールにも少ないながらリスクも存在する。
その一つは胎児の動脈管収縮。
なぜ動脈管が収縮するかと言うと動脈管は一酸化窒素やプロスタグランジンのおかげで血管が拡張している。シクロオキシゲナーゼを阻害するとそのプラスタグランジン量が低下し血管が収縮する。日本国内では3例動脈管閉鎖による新生児の影響は報告されている。
しかしカロナールの抹消でのシクロオキシゲナーゼ阻害作用は微弱だし統計的にカロナールと動脈管閉塞の関係がありと証明されたわけではない。
妊娠中の痛み止めといえばカロナールという事で臨床の場で圧倒的に使用されている中での3例。統計的に有意なのかは今のところ分からない。が留意しておくべき
カロナールの主成分アセトアミノフェンは市販薬としても販売されている。
ジョンソンエンドジョンソンが販売し50年以上ブランドとしての歴史がある。
市販の風邪薬は鎮痛薬の他に咳止めや抗ヒスタミン薬 主成分がごちゃごちゃ入っている。
しかしタイレノールの主成分はアセトアミノフェンだけ。
simple is best
タイレノールはインフルエンザ時にも使用できる。
インフルエンザが流行している時に病人が大集合している病院に行くこと自体がリスクという時は丿貫の場合タイレノールと麻黄湯で様子見する。
間違ってもインフルエンザの時にロキソニンを飲むのはやめよう。
薬価 | 後発品最安値 | |
カロナール錠200mg | 7.1 | N/A |
カロナール錠300mg | 7.9 | N/A |
カロナール錠500mg | 9.2 | N/A |
カロナール細粒20% | 7.8 | N/A |
カロナール細粒50% | 9.3 | N/A |
カロナールシロップ2% | 4.6 | N/A |
カロナール坐剤小児用50mg | 19.3 | 19.3 |
カロナール坐剤小児用100mg | 19.3 | 19.3 |
カロナール坐剤200mg | 26.5 | 19.9 |
カロナール坐剤400mg | 41.4 | N/A |
カロナールの主成分アセトアミノフェンが誕生したのは1893年という大昔。
現在カロナールを製造販売しているのはあゆみ製薬。 2016年以前は昭和薬品化工 から販売されていたが販売移管した。もちろん二社とも物質特許は持っていない。
カロナール錠は先発品ではない。保険的には後発品という扱いとなっている。アセトアミノフェン錠は丸石製薬なども作っているが薬価もぴったり同じで変更する意味はない。 コカール 錠も後発品に分類されている
しかしアセトアミノフェン坐剤には先発品と後発品がある。
カロナール坐剤、アンヒバ坐剤、アルピニー坐剤は先発品
錠剤には先発品がないのに座薬には三つも先発品が存在している。
そして先発品の座薬も後発品の座薬も値段が全く同じ。・・・ではなくなぜか200mgの座薬だけ先発後発で薬価が異なる。一つだけ違うのはなぜなのか?
アセトアミノフェンは薬価も作用機序も謎に包まれた薬。