感音性難聴治療薬FX-322の臨床試験を精査

 

 

FX-322とは

 Frequency Therapeutics社が開発している感音性難聴の治験薬。

 

難病と言われている癌やエイズの薬はここ20年で大きく進化したのに難聴の薬は現状一つも無い。

 

それはなぜか?

 

内耳は硬い殻に覆われているから外部から治療どころか観察すら容易にはできない。

そして耳の内部構造は超精密な構造

中耳の3つの骨とかテコの原理で音を増幅したり人間作った神様尊敬してしまうレベル

 

音の流れととしては

 

鼓膜→ツチ骨→キヌタ骨→アブミ骨→蝸牛→蝸牛神経→第8脳神経

 

FX-322が働きかける場所は蝸牛というカタツムリ的な場所

 

 

そこにある音を感知する有毛細胞を増やしたい。

 

[蝸牛]

 

外側は高音

内側は低音

 

大音量で外側にある有毛細胞が抜け落ちると高音が聞こえなくなる

 

 

有毛細胞の重要さ

 

有毛細胞は2種類あり内有毛細胞と外有毛細胞がある。

 

直接的に脳に音のシグナルを送っているのは内だが綺麗に三列に並んでいる外有毛細胞も音を判別に必須な細胞。

外有毛細胞は小さい音の場合は増幅、大きな音の場合は小さくする。

 

外有毛細胞は約12000本あるが減っていくと音は聞こえるが何を言っているのかよく判らなくなる。

 

そんな大切な有毛細胞は一度ダメージを受けると再生しない。

 

大音量の音楽を毎日聞いたり

アミノグリコシド系の点眼点鼻薬を間違って点耳したり

細菌やウイルスに感染したり

 

してしまうと・・・・

 

 

傷ついて脱落した有毛細胞の図

 

脳細胞は一部欠損しても他の部分が補う事があるが有毛細胞は不可。代替できないし治療薬も無い。

 

なのでFX-322に掛かる期待は大きい。

 

FX-322の使用方法は詳細が説明されていないが動画を見る限り鼓膜内(中耳)にゲル状のFX-322を注射。その中耳から内耳へは蝸牛窓を通過して浸透。

そうして成分が眠っている有毛細胞前駆体を目覚めさせる。

 

 

眠っている有毛細胞前駆体に働きかけるのがFX-322

 

有毛細胞の前駆細胞はLgr5というタンパク質

そのタンパク質に有毛細胞になれと促す薬がFX-322

 

Wnt経路は細胞増殖に重要でそこにエラーが起きると細胞が上手く成長できずに先天性の病気や欠損が発生する。

 

ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬もDNAに絡みついているヒストンをばらけやすくしてDNAという絡んだ紐をほどいて新しいタンパク質がデコードされやすいようにする。

 

つまり2つとも作用機序は全く違うが最終的にはタンパク質を増やすという目的でFX-322の中に含有されている。

 

そしてそれぞれ単独で投与するよりも2つを同時に使った方が相乗効果が認められている。

 

 

 

ちなみにLGR-5が増えた事を確認するために緑色蛍光タンパク質(GFR)というタンパクが使用されている。

これはクラゲがに光る原理を利用した技術。

 

 

クラゲさんのおかげで研究進みまくり

 

 

臨床試験を詳しく見てみる

これまで行われた臨床試験のアウトカムは大きく2つ

 

どこまで小さな音が聞こえるか(純音聴力)

聞き取れる単語の数(明瞭度)

 

 

純音聴力検査の結果

 

15人中4人しか改善が見られなかった。

のでこの試験結果だけを見ると微妙なわけだが・・・

 

聞き取れる単語の数(明瞭度)に注目してみると

聞き取れた単語数の試験結果
FX-322 偽薬
対象 中程度以上の難聴患者
投与人数 6人 3人
改善した人数 4人 0人
改善率 66% o%

FX-322を投与された6人中4人に統計的有意な改善あり

 

具体的な試験内容は英単語50個の聞き取り試験

 

(例)

↑のような単語聞き取り試験を行ったところ

 

 

6人中4人がそれぞれ聞き取れる単語数が約倍に増えている。

 

 

FX-322を投与された15人全体の統計としても投与後90日で聞き取れる単語数が3割アップ

 

純音聴力よりも聞き取れる単語数の方が社会生活ではより重要ではないか?

聞き取れる単語数が3割も増えたらコミュニケーションがかなり円滑に進む。

 

 

投資する価値がある薬に思えてきた。

 

 

これまでの試験では一回きりの投与だったが2019年から始まった臨床試験だと振り分け群によってはFX-322を4回も投与する。

もし用量依存的に治療成績が向上するならかなり有用、有望

 

かりに投与1回と投与4回で効果が不変であっても価値はあると思う。

 

現状、何も改善する薬が存在しないのだから

 

 

12件のコメント

  1. ノ貫様

    (その1)
    長文となってしまいましたので、分割して送信させていただきます。
    企業分析に続いての、詳細な解説記事をありがとうございます。
    大変、勉強になります。

    私は、右耳は正常ですが、左耳のみ(2000Hzは15dbと正常値ですが)高音部が4000Hzが45db、8000Hzが70dbといった難聴で、煩わしい耳鳴りを伴っています。
    右と左で、全く異なる聞こえとなっています。

  2. (その2)
    そのため、このfx-322については、https://jp.techcrunch.com/2017/02/22/20170221mit-hearing-loss/ 、https://www.technologyreview.jp/exclusive/93940/will-mclean/ 、http://news.mit.edu/2017/drug-treatment-combat-hearing-loss-0221 、といった記事を見て以後、ずっと期待してウオッチしていました。

  3. (その3)
    そして、Frequency Therapeutics社のホームページから、 https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(17)30136-5 を読んで、翻訳ソフト等で調べながら読んでいましたが難しくて良く理解できなかったところ、こうした解説をしていただき、本当にありがたいです。

  4. (その4)
    ノ貫様の解説の他にも、第120回日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会 資料となっている 京都大学 中川先生の https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/122/10/122_1285/_pdf/-char/ja や、https://www.researchgate.net/profile/Alain_Dabdoub2/publication/332097300_Therapeutic_Potential_of_Wnt_and_Notch_Signaling_and_Epigenetic_Regulation_in_Mammalian_Sensory_Hair_Cell_Regeneration/links/5d288a86458515c11c292aa0/Therapeutic-Potential-of-Wnt-and-Notch-Signaling-and-Epigenetic-Regulation-in-Mammalian-Sensory-Hair-Cell-Regeneration.pdf?origin=publication_detail 、

  5. (その5)
    また、(あるサイトでの)phase1/2 の速報(全体の報告書は会社の財務や運営状態等全てsourceとしてリンクされて膨大な量でした)も読み、少しずつ理解していくことができました。
    https://www.tinnitustreatmentreport.com/breaking-fx-322-clinical-trial-results/

    全体報告書では、Frequency Therapeutics社自身が、自社の株式購入についての投機的、リスキーと述べており、2019/6末での累積赤字を6000万ドルと発表していますから、アステラスの前払金8000万ドルというのは、アステラスも、「これは!」という決断をしたのですね

  6. (その6)
    Audion Therapeutics社のγセクラターゼ阻害剤による難聴回復のための薬剤開発についても知っていましたが、今では、fx-322に、より大きく期待しています。

    ところで、Frequency Therapeutics社の本国であるアメリカに、耳鳴りについての掲示板サイトがあり、(https://www.tinnitustalk.com/threads/frequency-therapeutics-―-hearing-loss-regeneration.18889/page-210) このページの最後の方の投稿に、(Frequency Therapeutics社とのQ&Aだったとの伝聞での書き込みであって、Frequency Therapeutics社の正式な発表がではなく、また、正式な発表がどこにあるのかが判らないのですが)Phase1/2でのfx-322を投与した被験者15人中、6人が中程度からやや重度であり、純音検査で6人とも聴力改善が見られたが、4人については「しっかりとした改善だった」というような書き込みがありました。これは、2人についても改善はあったが、10db未満の改善であり、統計的に有意とはならないから発表はしなかったという整理なのかもしれない、それなら、軽度の9人についても、少しは(統計上有意でなかったにしても)改善があったのかもしれないと勝手に期待しています。(15人全体に改善は認められても、統計的に一定値を出していない4人以外については、効果なし としていたのではないか、と)

  7. (その7)
    しかし、どうして、軽度聴力障害患者より、中程度以上聴力障害患者の方が、より効果が出ているのでしょうか?
    聴力障害の重度患者の70dbから60dbへの改善と、軽度患者の45dbから35dbへの改善では、同じ10dbでの改善でも重度患者の70dbから60dbへの改善の方がより効果が出やすいのでしょうか・・・

    より有毛細胞が破損しているエリアがあるため(再生させる余地が広いため)でしょうか?

    聴力検査での「デシベル」は対数関数で、「(音源の大きさでなく)『感覚上聴こえてくる』音の大きさ」の3倍が10db、10倍が20dbということのようですから、( http://www.ones-will.com/blog/dtm/music-theory/8848/ )(聴力のより良い場合の)改善前の『感覚上聴こえてくる』音が大きいと、10db改善後の『感覚上聴こえてくる』音との(倍率ではないプラスマイナス的な)音量差も大きくなり、(聴力のより悪い場合の)改善前の『感覚上聴こえてくる』音の大きさが小さいと10db改善後の『感覚上聴こえてくる』大きさの音の大きさとの(倍率ではないプラスマイナス的な)音量差も小さくなるという理屈では、聴力改善に必要な有毛細胞の量は、聴力のより悪い場合の方が、10db改善に必要な有毛細胞の量が少なくても良いということでしょうか・・・

  8. (その8)
    蝸牛内はリンパ液で満たされているということですから、低分子薬のメリットを活かして、より6000Hz、4000Hzといった部位まで、Fx-322の成分が充分送達されて効果をあげてほしいですね。非臨床試験でのマウスでの8割復元も、薬剤に「さらしての」効果でしょうから「量」が必須なんだと思います。マウスでの実績がヒトに全て活かされるなら殆どのガンは殆ど治せるようなものだ、といった意見もあるでしょうけど・・・。

    蝸牛での薬剤デリバリーについて、京都大学の中川先生 も、ハイドロジェル送達での効果をあげられています。( http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/documents/141209_2/01.pdf、 https://www.news-postseven.com/archives/20160227_387422.html?DETAIL&_gl=1*1ne6ciu*_ga*TVUyUjNoU1gtbl83YlVxTXNhT2ZyVzVfTDFfSS15UEVvcUVVdFU2aVlCNlJhNEEtR2FHRW1WX3p1a2pBZndLSQ.. 、) 聴力全体として「聴力レベル」の改善をされているようですから、4000Hz、2000Hz・・・といった領域まで改善されているではないかと・・・。そういうことでしたら、fx-322の送達も期待できるのではないか、と。

  9. (その9)
    Phase1/2 の一回あたりの投薬量が0.05ml あるいは、0.2ml ですから、おそらく「1滴」ですから、約9mmの蝸牛を「さらす」までには至らなくても、せめて高音域に充分に薬剤を届かせるためには複数回の注射が必要なのだと思います。

    充分な量のfx-322が送達できた場合の有毛細胞の再生ですが、もしかすると、必ず20000Hzの端からされるのかもしれないと・・・
    というのは、
    https://gigazine.net/news/20190815-activin-a-follistatin-hair-cell/  、 https://www.hopkinsmedicine.org/news/newsroom/news-releases/researchers-find-proteins-that-might-restore-damaged-sound-detecting-cells-in-the-ear にあるように、有毛細胞の再生は、端の20000Hzから、スタジアムの観衆によるWAVEのように行われる、という記載があり、生物的カスケードから、そのようになるのではと・・・。勿論、Frequency Therapeutics社の見解でもある、最大薬剤暴露である蝸牛窓に近い高周波領域から、ということでもあるのでしょうけど。

  10. (その10)
    取り留めのない文章を大量にコメントさせていただき、すみません。

    このような薬剤開発をしている方々に、リスクを背負って頑張っておられると感謝するしかありません。

  11. 自分がこのFX-322に注目したのはアステラスとの協業ニュースがキッカケでした。
    アステラスはイクスタンジという抗がん剤に初期段階から投資して大きな成果を上げたことがある企業で先見の明があると思います。
    なのでそのアステラスが見込んだFX-322も有望かなと

    難聴や耳鳴りはある意味ガンよりも難しい疾患だと思います。
    抗がん剤は様々な機序の薬がありますが難聴は一つも薬が存在しませんし(耳鳴りは一応ストミンありますが

    薬剤性難聴にも効果があるようなので白金系抗がん剤の副作用難聴にも使えたらかなり幅広く使われるかと

    少しでも聴力が改善したら患者さんのQOLはかなり改善すると思うので期待しています。

  12. 軽症より中程度患者さんの方が治療成績が良かった理由は自分も記事を書いていて不思議に思っていました。

    有毛細胞を1本から2本にするより0から1本に増やす方が難聴に効果的なんでしょう?
    被験者数が小さいデータなので偶然の可能性もありますが。

    現在進行中の臨床試験は約100人対象なのでその辺りの統計的な輪郭がハッキリするかもしれません

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