【企業分析】 バイキング・セラピューティクス:NASHの大海を目指す

 

高血圧や糖尿病、高脂血症といった生活習慣病の薬は一昔前までは製薬会社のドル箱だった。

 

風邪薬や痛み止めとは違い毎日服用してコントロールする薬なので一度服用を開始するとやめるタイミングが難しい。

それらの薬は1年で数千億円を売り上げることも珍しくなかった。

 

だがそれら生活習慣病薬は既に特許が切れてジェネリック医薬品がある。一度売れ出したら10年間巨額の利益が見込めるがこれから新しく生活習慣病薬を開発しても既存の優秀なジェネリック医薬品を凌駕するのは難しい。

 

世界の製薬大手は見込みの薄い生活習慣病治療薬の開発から手を引いている。

 

だがそんな出涸らしの生活習慣病分野でまだ治療薬が一つも無いブルーオーシャンがある。

 

 

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)

 

 

バイキングが開発に取り組んでいる新薬はこのNASHをターゲットにしている。

 

 

 

食べ過ぎや運動不足で肝臓に脂肪が溜まった状態が脂肪肝。

 

そのうちお酒が原因で無いのが非アルコール性脂肪性肝疾患 (nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)

 

NAFLDはまだ深刻な段階ではなく8割以上は単純性脂肪肝で肝がんリスクは上昇しない。

 

だがその状態を放置し炎症や繊維化など肝臓組織にダメージがある状態まで悪化することがある。その状態がNASHでそこまで進行してしまうと肝硬変や肝ガンのリスクが上昇し、倦怠感などの自覚症状も出てくる。

 

日本にはNASHが100万人以上存在し米国では800万人以上いると推測される。市場規模は将来的に3兆円以上とも

 

そんなNASH市場に最初に飛び込んだらバイキングは海賊王になれる。

 

 

 

 


企業データ(2018年データ)


 

企業名:Viking Therapeutics

上場取引所:NASDAQ

ティッカー: VKTX

創業:2012年

CEO:Brian Lian

本社拠点:カリフォルニア州サンディエゴ

 

売上:0ドル

研究開発費:1.900万ドル

営業利益:-2.616万ドル

純利益:-2.206万ドル

現金同等物:30.152万ドル

 

売上は同じゼロだがそれでも従業員には給料払わないと行けないし治験にはお金がかかる。毎年数十億円の赤字を計上している。だが会社の価値を示す時価総額は800億円もある。

 

失敗したら全てがパーで電子紙くずとなるが新薬を開発できると株価は大きく値上がりする。そんな投資家の夢と希望と欲望と不安が今の時価総額を形作っている。

 

 

 


新薬パイプライン


 

対象疾患 薬理作用 径路 開発段階
VK2809 NASH 甲状腺ホルモン受容体β 経口 PhaseⅡ
VK5211 股関節部骨折 選択的アンドロゲン受容体モジュレーター 経口 PhaseⅡ
VK0612 2型糖尿病 フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ阻害 経口 PhaseⅡ
VK1430 NASH、高トリグリセリド DGAT-1阻害薬 経口 preclinical
VK0214 X連鎖性副腎白質ジストロフィー 甲状腺ホルモン受容体β 経口 preclinical

上記全ての薬に対してバイキングは世界的な独占権を保有している。

 

 

実質的に現在のバイキングの株価はVK2809にすべてが掛かっている。

 

 

 


VK2809:NASH治療薬


[VK2809の構造式]

 

VK2809は2014年にLigand Pharmaceuticalsからバイキングが購入した物質。

 

甲状腺機能低下症になると血中コレステロール値が高くなる。その場合に甲状腺ホルモンを服用したらコレステロール値は下がる。

 

しかし甲状腺ホルモンは代謝亢進のホルモンなので多いと心臓がドキドキしてしまう。肝臓のコレステロール代謝にだけ作用する薬があれば・・・そう考えて開発されているのがVK2809。

 

 

 

甲状腺ホルモンにはサブタイプが存在しており

 

心臓や脳にあるα受容体:脈拍

肝臓にあるβ受容体:コレステロール代謝

 

がある。

 

では肝臓にある甲状腺ホルモン受容体βに選択的な物質を作れば薬として使える。

 

 

そんなVK2809はプロドラッグ。そのままの構造では薬理作用を発揮できない。肝臓にある代謝酵素CYP3A4によって構造が変換されて初めて真の力を発揮できる。

 

その真の姿が↓

 

 

これが甲状腺ホルモンT3の構造と類似している

 

心臓にある受容体に甲状腺ホルモンが結合すると心拍数が上がり血圧も上がる。なので薬としてはできるだけ心臓にある甲状腺ホルモン受容体αには作用してほしくない。甲状腺ホルモンレベルが高まり過ぎるとバセドウ病になる。

 

受容体選択性の高さが薬としての副作用の少なさに繋がる。

 

甲状腺ホルモン受容体αとβに対する選択性

VK2809A 甲状腺ホルモンT3
α:β選択性 1:17 2:1

 

T3と比較して30倍以上のβ選択性を持っているのがVK2809

 

そしてVK2809のもう一つの長所が全身移行性の少なさ

 

受容体に対する選択性も重要だがそもそも分子が心臓にいかなければ尚良い。肝臓での脂肪を減らすのが目的なのだから他の部分には行く必要が無い。むしろいかない方が作用が強まるし副作用も少なくなる。

 

代謝物のVK2809Aは分子内にスルホン基を持ちマイナスに帯電しており中性のT3よりも細胞分子に吸着しやすく肝臓にとどまり易い。

 

肝臓で甲状腺ホルモン受容体βにだけ働いて欲しいので肝臓にあるCYPで代謝されて生成されたVK2809Aがそのまま肝臓にとどまり作用するのは理想的な体内動態。

 

これまでのラットやサルによる非臨床試験では心臓への作用は認められていない。

 

PhaseⅡ臨床試験

VK2809
対象患者 原発性高コレステロール血症および非アルコール性脂肪性肝疾患を有する患者
期間 12週間
服用方法 隔日10mg 毎日10mg
LDLの減少率(プラセボ調節済) -23.6% -20.2%
肝脂肪の平均相対変化率% -56.5% -59.7%
肝脂肪が30%以上減少した人の割合 76.9% 90.9%

 

最近の発表では1日5mgでも「肝脂肪の減少が30%以上の割合」が10mgと同じ反応性との発表があった。少ない量で同じ効果が得られるのであれば副作用も少なくなり望ましい事ではある。

 

だがしかし・・・

 

↑の試験はNASHが主要評価項目で無い事に注意。NASHの前段階でより状態が良いNAFLD患者が対象となっているのでNASH患者に投与しても脂肪肝の減少といった良い反応が見られるのかは疑問が残る。

 

 

 

 

4月10日からウィーンで開催される欧州肝臓学会(EASL 2019)にてVK2809の新しい試験結果の発表が予定されている。

 

そしてそのEASLではVK2809のライバル達も続々と登場する。

 

欧州肝臓学会2019
NASH関連企業 開発薬 phase 発表日
Conatus Emricasan  II 4月13日
Genfit Elafibranor  II 4月13日
Intercept Ocaliva  III 4月11日
Cirius Therapeutics MSDC-0602K  IIb 4月12日
Viking VK2809  II 4月11日

 

他にもNASH治療薬を開発している製薬会社は30社以上ある。

 

VK2809は2019年後半に生検で確認されたNASH患者を対象としたphaseⅡb試験を開始する予定。だが2020年後半に好結果が出たとしても商品化は再来年。NASHは強力なライバルが沢山いるし全く開発は予断を許さない。

 

NASH治療薬開発競争をリードしていたギリアドのSelonsertibが失敗したのはNASH治療薬を開発している弱小バイオベンチャーには追い風であるがそれでも投資のリスクは高い。

 

しかしNASH薬一本に全てを賭けるマドリガルの時価総額が20億ドル、それを考えると同じようなバイキングが8億ドルというのは割安に感じる。売上ゼロの2社を比べて何が割安なんだよと言われたら困るが(´・ω・`)

 

 

 


VK5211:股関節骨折後の筋肉と骨量増加


 

 

股関節部骨折を患った患者が経験する骨量および筋肉量の減少を抑制し増やすことを目標としている。片足を骨折して一か月使わないと驚くほどやせ衰える。高齢者ではそのまま寝たきり状態になる事もある。なので骨折後の筋肉と丈夫な骨は必要。

 

VK5211の薬理作用は選択的アンドロゲン受容体モジュレーター(SARM)

 

↑はアンドロゲン受容体に拮抗作用がある前立腺がん治療薬イクスタンジの構造式だが一部が類似している。カソデックスも同じ構造を持っている。アンドロゲン受容体にはこの黄色で囲った構造がキーとなる。

 

このVK5211もLigand Pharmaceuticalsから購入したものである。

 

SARMは悪液質の体重増加にも効果があるのではないかと臨床試験されており上手くいけば適応が広がるかもしれない。

 

 

 

VK5211の臨床試験

 

主要評価項目 除脂肪体重の変化
期間 12週間
対象人数 全体108人を4群に割り当て
投与した薬と量 プラセボ 0.5mg 1.0mg 2.0mg
元の体重 66.0kg 62.2kg 68.1kg 65.1kg
変化した体重 0.70kg 2.54kg 2.95kg 3.09kg

 

12週間後に平均脂肪量を減少させながら除脂肪体重の増加の主要評価項目を満した。

 

しかし・・・

 

VK5211のPhase3試験とVK2809のphaseⅢ試験の両方をするにはバイオベンチャーのバイキングには資金的に苦しい。なのでVK5211に関しては一緒に研究開発してくれるパートナー企業が表れるまで単独でこれ以上の開発はしないとバイキングは言っている。

 

二兎を追う者は一兎をも得ず

 

まずは何よりもVK2809を成功させてその成功により資金的な余力ができたらこのVK5211に会社のリソースを割り振ればいい。

 

 

 


独り言


 

バイキング株はVK2809の成功に掛かっている。NASHというお宝の海を目指してVK2809号という舟で目指している。燃料は3億ドル。燃料が尽きたら船は動けず海の藻屑となる。

 

VK2809はまだphaseⅡ段階でこれからも嵐の様な試練がバイキング号には襲いかかる。

 

 

運よくNASHという黄金郷にたどり着いたとしても他の船が先にたどり着いていたらお宝は無くなっている。

 

そんなリスクの高い航海。

 

 

 

 

 

しかし、だからこそ

 

 

 

 

 

辿り着いた時に手にするモノは光り輝く

 

 

 

 

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