【企業分析】 ノバルティス:江戸時代から続くスイスの製薬会社

 

2017年度の売上は約500億ドル。

ロシュ、ファイザーについて世界3位。

 

「Nova(新生)」と「Artis(芸術,技術)」を組み合わせた言葉を社名にしている様に世界最先端の治療法を常に求めている。起源会社の創業は1758年で日本だと江戸幕府第10代将軍徳川家治の治世。

 

2001年にノバルティスから発売された慢性骨髄性白血病治療薬グリベック。この薬は慢性骨髄性白血病治療に革命を起こした。それまで最善の治療である骨髄移植やインターフェロンを使った治療が5年生存率5割ちょっとの状態から一気に9割近くまで引き上げた。

 

現在のノバルティスはこれまでの低分子化合物による治療から遺伝子分野へ軸足を移しつつある。今話題のCAR-T療法(キメラ抗原受容体発現T細胞療法)のキムリア、そして脊髄性筋萎縮症(SMA)の一回完結型治療薬AVXS-101を今年89億ドルで買収し遺伝子治療ポートフォリオを強化した。

 

 


企業データ(2017年データ)


企業名:NOVARTIS

上場取引所:スイス証券取引所、ニューヨーク証券取引所

ティッカー:(SIX: NOVN、NYSE: NVS)

創業:1996年

CEO: Vasant Narasimhan

従業員数:121,597人

本社拠点:バーゼル

 

売上:501億ドル

研究開発費:83億ドル

営業利益:86億ドル

純利益:77億ドル

株主配当:65億ドル

 

研究開発に毎年一兆円近くを投入している。同国同業のロシュも同規模の研究開発費。それだけ研究開発費に費やしても毎年株主に配当として65億ドルを安定して支払っている。

 

 


ノバルティスの歴史


 

今のノバルティスは1996年に創業されたが勿論いきなり新しい会社がポンと誕生したのではなくそれまでの歴史ある製薬会社が幾重にも収斂進化した結果に誕生した製薬会社である。

 

ノバルティスの歴史を見てみると大きく3つの製薬会社の流れを汲んでいる。

それはチバ、ガイギー、サンドという3つのスイスの会社。

 

 

 

ガイギー社

1758年:ヨハン・ルドルフ・ガイギーが医薬品、化学素材、染料を扱うJ.R.ガイギーを設立

取り扱っていた商品は染料の他に洗剤、 コーヒー、コショウ、ナツメグなど

 

1856年:ウィリアム・パーキンが世界初の合成染料アニリンパープルを開発

1859年:ガイギーの研究者が合成染料フクシンを合成

(Geigy Works in Basel-1900)

この成功によりガイギーは欧州で主要な染料メーカーに成長

 

1901年:会社の形態を株式会社に

1910年:ニューヨークのマンハッタンにGeigy ter Meer Companyを設立

(染料のカタログ)

1939年:羊毛用防虫薬Mitinを開発

1940年:ガイギーの研究者パウル・ヘルマン・ミュラー博士が殺虫剤DDTの開発に成功

(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)

 

 

1948年:化学会社Alrose Chemical Companyを買収

1949年:消炎鎮痛剤フェニルブタゾンを開発。副作用が強く今は使われていない

1958年:三環系抗うつ薬のトフラニール(イミプラミン)を開発

少量なら子供のおねしょにも使える

 

1959年:利尿剤ハイグロトン(一般名:クロルタリドン)を開発

1963年:側頭葉てんかん治療薬テグレトール(一般名:カルバマゼピン)を開発

薬疹が出やすいので使い始めは気を付けよう

 

1965年:消炎鎮痛剤ボルタレン(一般名:ジクロフェナクNa)を開発

 

 

チバ社(Gesellschaft fur Chemische Industrie Basel, CIBA)

 

1859年:Alexander Clavelというシルク繊維業者がスイスのバーゼルでバーゼル化学産業社を設立

 

1900年:Vioformと呼ばれる消毒剤で製薬業界へ参入しこの消毒薬のおかげで利益は3倍以上成長

 

1914年:第一次世界大戦が始まる

原材料をドイツから輸入できなくなったりバーデン工場をドイツ政府に差し押さえられて困ったことになるが英国から原材料を輸入することができ更にフランスにも工場を作ることができ窮地を脱する。そして製造した商品を原材料を提供した英国に優先的に輸出することで新しい市場にもアクセスすることが可能となった。

 

1918年:世界大戦が終わるとガイギー社含むスイスの化学会社は更に逆風に晒される。ドイツの化学トラストIGファルベンの興隆である。

今見てもIGファルベンは強力な布陣。バイエルはそのまま今でもドイツ最大の製薬会社だしヘキストは現フランスのサノフィ、BASFも子会社のKnoll社が年間1兆円以上を売り上げるヒュミラを開発した。

 

 

バーゼルAGの結成

 

スイスの会社もIGファルベンから参加を求められたが断り強力なそのドイツ化学トラストに対抗するためにバーゼルAGを創設

バーゼルAGはチバ、ガイギー、サンドで構成され知識、技術、利益が共有されていた。今のノバルティスを構成する企業そのまま。バーゼルAGの利益配分はガイギーとサンドがそれぞれ24%でチバが利益の52%という比率

 

1929年:IG Farbenと共同してDual Cartelを創設。フランスの会社と英国Imperial Chemical Industriesも加わり4社カルテルに

1939年:4社カルテルが第二次世界大戦の勃発により解散

1951年:バーゼルAGが正式に解散

 

1963年:デスフェラール(一般名:デフェロキサミン)を開発

鉄過剰症及び鉄中毒の治療に使われる一種のキレート剤

 

1958年:抗精神病薬メレリル(一般名:チオリダジン)を開発

日本では2005年に販売中止

 

1970年:ガイギー社とチバ社が合併しチバガイギー誕生

 

米国で反トラスト法にひっかかりそうになるもなんとか合併が承認される。
この合併はガイギー社の農薬の強みと合成樹脂や石油化学製品の分野に強いチバを相補的に強化

 

1987年:CIBA Visionを設立

ノバルティス傘下アルコンの一部となっているが近いうちにIPOし独立した会社となる予定

 

1977年:抗アレルギー薬ザジテン(一般名:ケトチフェン)を開発

眠気が強い分よく効く薬。テンカン発作の閾値を下げるのでテンカン患者には使えない

 

1982年:免疫抑制剤サンディミュン(一般名:シクロスポリン)を開発

後に製剤学的に工夫したネオーラルが発売される。

 

サンド社

1886年:カーン博士とEdouard Sandozがバーゼルに化学薬品会社をケルン&サンドを設立

ビクトリアブルー、クリスタルバイオレット アリザリンブルーといった染料を開発

 

1893年:カーン博士が心不全で亡くなる。サンドさんも2年後に体調不良で経営から退き会長に就任

1895年:Chemische Fabrik vormals Sandozと呼ばれる有限会社に転換

1917年:Arthur Stollが製薬部門を開設、多角化戦略の一環として製薬部門を設立
この製薬部門がライ麦から麦角菌と呼ばれるエルゴタミンを発見し開発が始まった。

 

中世から聖アントニウスの火として知られていた疾患の原因である麦角菌

麦角中毒になると手足が燃えるような感覚に陥り
循環器系に対して血管収縮、手足の壊死、子宮収縮による流産なども起こる。

そのエルゴタミンの強い薬理作用を応用して頭痛薬や出産後出血の止血などに使用されている。

 

 

1929年:大恐慌の時は経営が危機に陥るが化学分野での成功で乗り切る。石鹸、漂白剤がヒット

1996年:チバガイギーとの合併後はジェネリック部門となる

 

1996年: Ciba-GeigyとSandozが合併してNovartis AGが設立。

 

医薬品以外の特殊化学品部門は1997年にCiba Specialty Chemicals Inc.として分社化。2006年にHuntsman Chemicalsに

 

2000年: ノバルティスの農業部門とゼネカの農業部門が経営統合してシンジェンタが誕生

遺伝子組み換え農作物に対し懐疑的な世論もあり農業分野をスピンオフすることに,モンサントを買収したバイエルが法的リスクに直面しているのを見るとスピンオフして医薬品開発に専念したのは正解だったのかもしれない。

 

2001年:慢性骨髄性白血病治療薬グリベックを開発

 

2002年:スイス同業ロシュへ投資してロシュに対する議決権を3分の1にまで拡大

2006年:加齢黄斑変性症治療薬ルセンティス(一般名:ラニビズマブ)を開発

 

2007年:グリベックの後継薬タシグナを開発

 

2010年:多発性硬化症治療薬ジレニア(一般名:フィンゴリモド)を開発

この薬は日本の田辺三菱と大学の先生が発見した物質

 

2011年:認知症治療薬イクセロンパッチ(一般名:リバスチグミン)を開発

人によっては痒みが出ることがある

 

2014年:乾癬治療薬コセンティクス(一般名:セクキヌマブ)を開発

2018年:AveXis社を87億ドルで買収

 

 

 

ノバルティスが保有するロシュ株

スイスにあるノバルティスと同規模の製薬会社ロシュ。ロシュ株にはA株とB株がある。A株は優先株で議決権があるのはB株

 

この会社はホフマンさんが作った会社なので子孫であるホフマン家が議決権のあるB株をたくさん持っている。ノバルティスは3分の1の議決権を持っているがホフマン家はそれ以上の株を持っている。ロシュ株主3位のMaja Oeriもホフマン家の子孫で議決権集団からは離れているが合わさると50.06%。

 

 

 

売上と利益

 

売上

 

色々やらかした降圧剤ディオバンの特許が2011年あたりで切れ売上は減少気味。ディオバンに利尿剤を混ぜたコディオ、アムロジピンを混ぜたエックスフォージも既に後発品が存在する。最盛期の年間売上が60億ドル以上だったディオバンの穴を埋めるのは大変

 

 

営業利益

2016年に同社のクラウンジュエルであったグリベックの特許が切れた。グリベックにも後発品が多数存在する。

 

純利益

2015年は事業売却の一次的な利益を含んでいる。それを除くと純利益は70億ドル

 

 

 

 

ノバルティスの売上トップ5(2017年)

 

1位:ジレニア 【31.8億ドル】

冬虫夏草から発見された多発性硬化症治療薬。併売品として田辺三菱からイムセラが販売中

 

2位:コセンティクス 【20.7億ドル】

完全ヒト型抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体.乾癬は難病でまだまだ研究開発が必要な分野の一つ。

 

3位:グリベック 【19.4億ドル】

慢性骨髄性白血病以外にもGISTとかに使える抗がん剤

 

4位:ルセンティス 【18.8億ドル】

この加齢黄斑変性症治療薬はロシュ子会社のジェネリックとの共同開発により誕生

 

5位:タシグナ 【18.4億ドル】

副作用はグリベックと比較して少なめだが血糖値上昇のリスクがある

 

 

 

ノバルティス売上トップ5の推移

(単位:100万ドル)

 

売り上げが10億ドル以上の薬は他にもサンドスタチン、アフィニトール、エクアがあり合計8つもある。TOP5を見てもグリベックとルセンティス以外は特許切れの心配が必要無いこれからの薬。そして特許切れの2つにしても後継薬をノバルティス自身が保有している。

 

 

 

過去に開発した薬

 

アフィニトール(一般名:エベロリムス):腎細胞癌などに使われる抗ガン剤で免疫抑制作用も

イクセロンパッチ(一般名:):元は内服薬で開発していたが吐き気が強く貼り薬に

エクア(一般名:):DPP4阻害薬でメトホルミンとの合剤エクメットもある

オンブレス(一般名:):サルメテロールよりも長い作用持続性と速やかな作用発現

クロザリル(一般名:クロザピン):治療抵抗性統合失調症の治療薬。無顆粒球症と高血糖に注意

コムタン(一般名:):ドパミンを分解するCOMTを邪魔してウェアリングオフ時間を減らす

ネオーラル(一般名:):免疫抑制剤サンディミュンの食事による影響などを改良した薬

サーティカン(一般名:エベロリムス):抗ガン剤アフィニトールの免疫抑制剤バージョン

シーブリ(一般名:グリコピロニウム臭化物):COPD治療薬で日本の製薬会社そーせいが導出

ジャカビ(一般名:ルキソリチニブ):骨髄線維症の治療に用いるJAK阻害薬

ジカディア(一般名:セリチニブ):非小細胞肺がん患者でALK融合タンパク陽性に

テグレトール(一般名:カルバマゼピン):てんかん薬だが三叉神経痛とかに、薬疹や聴感変化あり

タフィンラー(一般名:ダブラフェニブ):悪性黒色腫の治療、メキニストと一緒に使おう

メキニスト(一般名:トラメチニブ):JTと京都府立医科大学 酒井敏行教授が共同で発見

ボルタレン(一般名:ジクロフェナクNa):ロキソニンより鎮痛作用が強めだが胃荒れも強め

 

 

 

独り言

 

ノバルティスはこれまで治療法が無い。あっても患者負担が大きい分野の薬を開発している。

 

スピンラザに続く脊髄性筋萎縮症治療薬AVXS-101

ルセンティスに続く加齢黄斑変性症治療薬brolucizumab

 

AVXS-101は脊髄注射のスピンラザと違い静脈注射1回の完結型治療という患者負担が大幅に減る薬。

brolucizumabもルセンティスが毎月目に注射を受けないといけない欠点を3カ月に1回と作用時間を延長し患者負担を減らす。

 

そしてCAR-T療法のキムリア

 

急性リンパ性白血病の患者さんに投与すると3か月後に8割の患者さんの癌細胞が検出されないレベルになった。患者さん自身の遺伝子を改変して作るオーダーメイドの治療法なので治療費が5000万以上と超高額だがノバルティスは効果があった場合にだけ治療費を請求する成功報酬型の価格制度を導入。薬そのものだけでなく制度も新しいものを作っている。

 

ノバルティスが開発している薬を調べるとワクワクするものがたくさんある。ノバルティス級の大きな会社は一つの薬が成功したからといって株価が大きく上がりはしないがその分、ノバルティス株を保有すると高配当による安定感と新薬のワクワク感を楽しめる。

 

3 comments on 【企業分析】 ノバルティス:江戸時代から続くスイスの製薬会社

  1. 記事と全く関係ない内容で恐縮ですが(しかし記事の方は毎度本当に素晴らしいですね。NVS株を買いたくなるレベルです)、何か面白そうな銘柄はないか見ていたら、TGTX同様、極めてボラの大きいGERN、AMRNという弱小バイオ(TGTXと同じく時価総額ビリオンドル程度なので、そこまで小型でもないですが)が目に付きました。

    実際飛びつくかどうかは分からないし、飛びつくなら自分で色々調べますが、丿貫さん的に何か一家言お持ちでしたらお聞かせいただけたらこれ幸いです、と思いコメントさせていただきました。

    特に何も一家言ありませんでしたら、スルーしていただければと思います。

  2. GERNはヤンセンと共同開発している薬がそろそろ結論でそうな雰囲気です。その結果によって会社の運命が決まるレベルの。オプションの板をみるといい結果だと10ドルまでは上がる感じですかね。

    AMRNは抗コレステロール薬による心血管イベントをどれだけ減らせるかがcatalystらしいですが抗コレステロール薬はライバルが無数に居すぎるし正直自分はワクワクしません。

    買う(賭ける)ならGERNのが面白そうです。

  3. 素早いお返事ありがとうございます。

    株価の動き的にも、対象疾患としても、直感的にGERNの方が面白そうなのは心から同意です。

    しかし、ちょうどタイムリーに、試験のエンドポイント未達で時間外現在進行形で急落しているPGNXのようなパターンになることは、GERNもTGTXも普通に、結構な確率であり得るんですよね…。

    本当にただの博打になりますが、それでもやっぱり「人類の夢を乗せて」という免罪符的建前とともに、乗る価値はある勝負な気がします。

    もうちょい様子を見て、飛びつくかどうか決めようと思っています。もちろん飛びつくにしても大した額を行く勇気もないんですけどね。飛びつく前に急騰してもそれはそれで薬の成功ということで嬉しいので、TGTXもGERNもAMRNも、大成功を変わらず祈っている次第です。

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