【企業分析】 エクセリクシス:カボザンチニブに託す未来

 

エクセリクシス(Exelixis:EXEL)はカリフォルニア州アラメダに本社を置く製薬会社。1994年に創業された製薬会社としては比較的若い会社で抗がん剤の開発に専念している。

 

会社の時価総額は2018年9月時点で約6000億円と日本の製薬会社だと参天製薬と同規模。しかし沢山の目薬を販売している参天製薬とは違い販売している薬は3つ(成分として2つ)しか無い。そして現在の株価は一つの薬、カボザンチニブの商業的成否に掛かっている。

 

 

 

企業データ(2017年データ)

企業名:Exelixis, Inc

上場取引所:Nasdaq

ティッカー:(EXEL)

創業:1994年

CEO: Michael M. Morrissey

従業員数:372人

本社拠点:カリフォルニア州アラメダ

 

売上:4.52億ドル

研究開発費:1.12億ドル

営業利益:1.62億ドル

純利益:1.54億ドル

 

この規模の会社にしては珍しく利益を出している。

 

エクセリクシスの歴史

 

1994年:エール大学のSpyridon Artavanis-Tsakonas、カリフォルニア大学バークレー校のCorey Goodman、遺伝学研究者Gerry Rubinの3人がExelixis, Incを設立

 

2000年:Nasdaqに株式を公開

2002年:英国の製薬会社GSKと提携し30万ドルの現金と研究資金の提供を受ける。

2006年:日本の第一三共と共同でミネラルコルチコイド受容体を標的とする化合物を研究する。

2007年:ジェネンテック(現ロシュ子会社)とMEK阻害剤プログラムを提携しコビメチニブ誕生

2008年:XL-184(後のカボザンチニブ)の研究開発でブリストル・マイヤーズスクイブと提携

2010年:ブリストル・マイヤーズスクイブがXL-184の権利をExelixisに返却する

2012年:同社初のFDA承認医薬品、甲状腺髄様癌治療薬Cometriq(一般名:カボザンチニブ)販売

2014年:欧州でも甲状腺髄様癌治療薬Cometriq(一般名:カボザンチニブ)が承認される。

2015年:BRAF V600変異陽性メラノーマに対する治療薬としてコビメチニブがFDA承認

2016年:フランスのIpsenに米国、カナダ、日本以外におけるカボザンチニブの販売権利を与える

2016年:腎臓癌のセカンドラインとしてFDA承認

2017年:腎臓癌のファーストラインとしてFDA承認

2017年:日本におけるカボザンチニブの開発・販売権利に関して武田薬品工業と独占契約を結ぶ

 

商品ラインナップ

2018年現在で薬としてFDAから承認されているのは3つとなっている。

 

CABOMETYX(一般名:カボザンチニブ):腎臓がん

COMETRIQ(一般名:カボザンチニブ):甲状腺髄様癌

 

COTELLIC(一般名:コビメチニブ):悪性黒色腫(BRAF V600変異陽性悪性黒色腫)

 

 

 

アビガンの作用機序CABOMETYX(一般名:カボザンチニブ)

 

対象疾患:進行性腎細胞癌

作用機序:EGFR、MET、AXL等を阻害する多標的チロシンキナーゼ剤で癌の血管新生を邪魔する。

 

カボザンチニブの構造式

 

 

Cabometyxの効果

 

それまでの腎細胞癌標準治療薬であるスーテント(一般名:スニチニブ)との比較

CaboSun試験

名称 Cabometyx スーテント difference
製品画像
製薬会社 Exelixis ファイザー
2017年度売上 3.22億ドル 10.81億ドル △7.59億ドル
無憎悪生存期間 8.6カ月 5.3カ月 3.3カ月
全生存期間 26.6カ月 21.2カ月 5.4カ月

スーテントの承認は2008年と10年前。なので後から発売されたCabometyxの効果がスーテントより高くて当たり前。既存薬より効果が無いと発売されるわけもない。

 

これまでスーテントが持っていたパイを統計学的に有意な薬効を持つCabometyxがどれだけ奪えるかにより売り上げが決まる。スーテントと同時期に発売することができたら既に10億ドル売上達成していたはずだが。↑の臨床試験結果を眺めているとスーテントの患者さんを全取りできそうに思えるがそうはいかない。なぜなら強力なライバルが登場するからである。

 

ライバル:ブリストルマイヤーズスクイブ社のオプジーボとヤーボイ

オプジーボは日本の小野薬品工業が開発した薬で超高額薬価で何かと話題の免疫チェックポイント阻害薬。アメリカではBMSが販売している。

そしてBMSはオプジーボ以外にもう一つヤーボイという作用機序の違う免疫チェックポイント阻害薬を販売している。

その2つの薬を同時に進行性腎細胞癌に使用する臨床試験を行い好結果を出した。

 

 

Checkmate-214試験

名称 Opdivo + YERVOY SUTENT difference
製品画像
製薬会社 BMS ファイザー
2017年度売上 61.92億ドル(合計) 10.81億ドル 51.11億ドル
無憎悪生存期間 11.6カ月 8.4カ月 3.2カ月
全生存期間 N/A 26カ月 N/A
客観的奏功率 41.6% 26.5% 15.1%

併用療法は、ファイザーのスーテントより全体的な奏効率が15%以上向上している。

 

CaboSun試験の方が状況がシビアな患者を対象に行っているので単純な比較はできない。できないがデータを見る限り互角かそれ以上の成績。ただ二つの免疫チェックポイント阻害薬を併用するということは薬価も恐ろしく高くなる。低分子化合物であるCabometyxはコスト競争という点では有利。しかし命が掛かってる患者さんや医師が薬を選ぶときに値段は二の次かもしれない。

 

これからどちらの治療法が進行性腎臓がんのファーストラインになるのか専門家でも予想が分かれている。

 

BMYは巨大製薬会社で仮にこの腎細胞癌領域の競争で負けても会社経営的に問題無しだがCabometyxが売れなくなるとExelixisの経営が傾く。

保険会社が参考にする全米総合がんセンターネットワークの腎臓がん治療ガイドラインのファーストラインにCabometyxが記載されたのは大きなプラス。

 

 

ライバルが仲間になるかもしれない

 

CheckMate 9ERと呼ばれる第3相試験でCabometyxとOpdivoをテストしている。2つの免疫チェックポイント阻害薬を同時に使うより作用機序が違う組み合わせのが効く可能性がある。もしこの2つの組み合わせが成功したら両社win-win。そしてもしかしたらBMSから買収される可能性もある。もしBMSがExelixisを買収したらこの分野ではかなり優位に立つ。

 

 

カボザンチニブの肝細胞癌に対する効果

Cabometyxは現在肝細胞癌に対する臨床試験を行っており近くFDAから承認の可否が下りる予定となっている。

 

 

セレスティアル試験(一次治療でネクサバールを使用し無効となった患者を対象とした臨床試験)

 

偽薬と比較して無憎悪生存期間は3.6カ月、全生存期間は4.1カ月のプラス

副作用はチロシンキナーゼ阻害薬共通の高血圧と手足症候群が偽薬比で有意に発現しているが対処できないものではない。それと飲み合わせの問題もある。

 

カボザンチニブは肝臓のCYP3A4で代謝されるので併用薬は制限がある。グレープフルーツジュースはダメ

 

もし肝細胞癌に対する承認を得られたら売上の成長率が低下気味のカボザンチニブにとり大きい。承認される可能性は高いと市場は見ている。

 

COTELLIC(一般名:コビメチニブ)

対象疾患:BRAF変異メラノーマ

作用機序:METを阻害し癌の血管新生を邪魔する。

 

コビメチニブの構造式

 

 

悪性黒色腫の治療薬でゼルボラフという薬と併用が前提。

癌細胞が増殖する時の必要なシグナルを阻害することにより癌の進行を止める。

ゼルボラフとの併用によりBRAF V600変異陽性悪性黒色腫患者の無増悪生存期間をゼルボラフ単剤より3.7ヶ月延長する。

 

COTELLICはロシュが開発したテセントリクとの併用試験を進行性または転移性の結腸直腸癌に対し行ったがバイエルのスチバーガと比較して全生存期間の改善という主要評価項目を満たすことができずにフェールした。

 

エクセリクシスの四半期売上(単位:100万ドル)

ここまでは順調に売り上げを伸ばしてきたがこれからどうなるのかは未知。

PERは20倍を現時点で下回っていて割安であることは確かである。少なくとも売り上げが今の水準をキープできるという前提で

 

 

IPOしてからの株価推移

 

18年エクセリクシス株を持っていてもリターンが下手したらマイナス。IPOして10年以上も一つも商品作ってない会社の株を握る。握力が強くないと手放しそう。バイオベンチャー投資は難しい。資金効率を考えたら他に投資した方が良かったのかもしれない。しかしそれは結果論

 

最高値の40ドル付近まであがると時価総額一兆円となりもうベンチャー企業ではなく中堅製薬会社。

 

独り言

エクセリクシスのポートフォリオを見るとカボザンチニブとコビメチニブ以外に即大きな売り上げを出せそうな薬が無い。これは経営陣も認めていて積極的に買収をしていくと宣言している。そしてその買収に必要なものと言えばお金。

 

これまで巨大な製薬会社に成長したバイオベンチャーは一つの成功した薬で利益を出しそのキャッシュを使いドンドン他社や他社が開発中の薬を手に入れポートフォリオを太くしてきた。一番最初に成功した薬がメインエンジンとなりどんどん会社の成長が加速していった。

 

このエクセリクシスの場合、その薬はカボザンチニブに他ならない。この薬が売れなくなると全ての歯車が狂う。どれだけ売れるかが未知の段階でエクセリクシスの株を買うのは投機だしエクセリクシスの経営陣がどんなM&Aを行うかも全く分からないので先行き不透明。これまで使われていたスーテントやアフィニトールといった薬より優れているがオプジーボとヤーボイの組み合わせは強敵である。

 

新薬開発には無数のリスクが伴う。効果が無い、副作用が強い、そしてより効果がある薬が他社から販売される。もしかしたらBMS以外からも超効果的な薬が開発されカボザンチニブが全く売れなくなるリスクもある。

 

しかしそれは患者さんにとってはより優れた薬を使えるということなので悪い事ではない。

 

【企業分析】 エクセリクシス:カボザンチニブに託す未来” への4件のフィードバック

  1. hechikanさん
    早速Exellixs社を取り上げていただき、ありがとうございます!
    とっても嬉しいです。

    最後に書いて頂いたことに尽きると、自分も思っています。
    薬の開発にチャレンジしている企業を応援したい、という気持ちが一番あります。
    腎移植をすると、もともとあった自分の腎臓を全く使わないので、退化して萎縮・線維化するんですね。これが物凄く癌になりやすいみたいです。
    そうでなくても、自分はガキの頃からステロイドを始め、強い薬を飲みまくっているんで、癌のリスクは相当なものです。
    なので、こういうバイオベンチャー企業には本当に期待しています。彼ら自身が一番リスクを負ってますし、有難いことです。

    それに、癌(命)のリスクに比べたら、株価下落のリスクとかあまり気にならないです。生活資金を投入しているわけでもないですし。
    でも、もちろん株価が上がったら嬉しいし、そこで得た資金をまた別の企業に投資出来たら最高ですね。

    もうひとつ。単純な話で、企業のことをいろいろ調べるのは大変だけど楽しいですよね。
    自分は企業のHPでプレゼンテーションを見て、Finvizサイトで記事を見て、あと財務諸表を見るといった程度ですけど。
    BMYが競争相手的な記事は読んだのですが、「Opdivo=オプジーボ」でしたか。hechikanさんのおかげですべて合点が行きました。
    やっぱり日本語でこれだけ深く分析して頂けると、理解度が全く違います。
    本当にありがとうございます。

    *全然別の話ですが、TGTXがPhase 3薬のデータ公表するのはもうじきでしょうか。
     自分は買っていませんが、結果を注視しております。良い結果が出るといいですね。

  2. EXELと全く同時期にTSROに注目していましたが(どちらももの凄く伸びていたという理由のみですが)、当時、2016年中旬から、この株はひょっとして永久に上がり続けるんじゃないか・・・?とか思えるレベルだったのに、昨年中頃から勢いは陰りを見せ、ついに今年に入ったぐらいから暴落と言って差し支えないレベルで下がり続け、気が付けばとうとう初めて目にしていた頃よりも株価が下がってしまっている感じです。

    TSROで検索してヒットした割と最近のSeeking Aplhaの記事を見た限り、特に治験に失敗したとかいうニュースがあったわけでもないようなのに、下がるときは下がるもんですね。

    こういう浮き沈みも、バイオの難しさかもしれませんね。

    グラセプタさん同様、TGTXの急騰、変わらずお祈り申し上げています。

  3. 記事にするために調べるとそれまで何となくわかっていたつもりの事が実は分っていなかったりあやふやだったんだと気が付けますね。インプットだけじゃなくアウトプットも大事

    TSROは主力抗がん剤のPARP阻害薬にアストラゼネカのオラパリブ、クロビスのルカパリブと強力なライバルがいるので難しいです。もう一つの吐き気止めもメルクのイメンドとそんなに違いが無いようですし。

  4. 株価が爆伸していたときは、それらライバル薬を蹴散らすのではないかと期待されていた感がありましたが、やや期待先行な面が強かったのかもしれませんね。

    私はこんな名前にしておきながら、お二方のように薬そのものへの期待・興味よりも単純に株価の方が気になるというただのクソ野郎なんですが(もちろん人類の希望を乗せた新薬開発は心から応援できるという側面あってこそではありますが)、第2第3の2016年TSROはないかあれこれ見ているものの、多分実際開発されている方ですら薬の未来なんて分からないでしょうし、結局最後は運なのかもしれませんね。

    流行りもののミーハーな所でいえばCRSPやEDIT、純粋なチャートの動きだけで見ると医療機器ですがTNDMやCDNA、それからヨブさん時代に関連した話題を出しておられたCGCやCRONなんかが現在気になりますが、何だかんだ何も考えずにAMZNに投資した方が期待値は高そうかな、という面もあるのが正直な所かもしれません。

    でもやっぱり直接人の命を救うものにはロマンがありますもんね。世知辛い話ですが、特に新技術では成功例が出れば出るほど研究開発が進むものでしょうから、大ヒット商品がジャンジャン出現し、新しい薬の開発もこれまで以上にガンガンに進んで欲しい限りですね。

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