2020年6月に日本で承認を得たリベルサス(一般名:セマグルチド)
リベルサスはGLP-1という人間の体内に元々あるホルモンの(アナログ)類似体。
GLP-1は小腸のL細胞から分泌されるホルモンであり食事をして高血糖になった時に現れ膵臓にインスリンを出せと指示を出す。
これまでもGLP-1アナログ製剤はビクトーザやトルリシティやバイエッタが既に発売されていたがそれらの薬とリベルサスが決定的に違う利点がある。
経口剤
糖尿病治療では注射薬が主流だが針なので痛みも伴うし消毒したりと煩わしさがありコンプライアンス低下の要因でもある。
それら注射薬のデメリットを全て解決したのがリベルサス。
- 2型糖尿病
糖尿病には1型と2型がありますがリベルサスが使用できるのは2型糖尿病だけです。
織部
利休
なぜ1型糖尿病には使えないんじゃ?
1型はそもそも膵臓からインスリンが出ません。GLP-1は膵臓にインスリンを分泌しろというシグナルを伝達する役目なので無いものは出ないです。
織部
利休
ない袖は振れんのう。
これはリベルサスだけでなくGLP-1製剤共通です。
織部
利休
一型糖尿病の治療はインスリンそのものを注射するしかないのう。今の所。
もう一点、注意すべき事が有ります。それは「まず食事と運動療法を行ってそれでも改善しない場合に限り」という一文です。
織部
利休
要するに毎日ピザばかり食べて運動しないピザ野郎にいきなりリベルサスは使えないんじゃな。
これもリベルサスに限らず糖尿病治療薬全体に言えることですがまずは食事を改善して運動してから薬を考えましょう。リベルサスは一応糖尿病治療でセカンドラインという位置付けです。
織部
Phase | 使い方 | 増量期間 |
導入量 | 3mg/day | 4週間以上継続 |
維持量 | 7mg/day | 4週間以上継続 |
最大量 | 14mg/day |
リベルサスはいきなり治療量を服用すると消化器系の副作用が出やすいので導入期に3mgの錠剤が用意されています。
織部
利休
アリセプトみたいじゃのう。導入量が3mgで消化器系の副作用とか。
なのでアリセプト同様に3mgを治療開始から一ヵ月以上経っているのに漫然と投与していると返戻をくらうかもしれません。
織部
利休
敢えて3mgを継続したいならアリセプトのようにレセ適に副作用予防のためとか一言必要かもしれんのう。
その辺りはこれから実際どう処方されるのか、支払基金の考え方にもよるので現時点では何とも言えません。
織部
利休
どちらにしてもリベルサスを触るときはアリセプトと同じ感覚で触っておけばいいかもしれんのう。
- 1日のうちの最初の食事又は飲水の前に、空腹の状態でコップ約半分の水(約120mL以下)ととも1錠服用
- 服用時及び服用後少なくとも30分は飲食及び他の薬剤の経口摂取しないこと
リベルサスは非常に不安定な物質なので服用方法もこれまでの糖尿病治療薬とは異なります。
織部
利休
これは糖尿病治療薬というよりボナロンとかのビスホスホネート製剤じゃのう。朝起きて空腹時に水で服用して30分そのままとか。
服薬指導としてはリベルサス=アリセプト+ボナロンだと思っておけば抜けが無いかもしれません。
織部
利休
しかしビスホスホネート製剤は一週間に1回服用や一ヵ月に1回服用している人が多いが毎日この服用方法はちと負担になるのう。
どうしても朝に服用できない人にはリベルサスの皮下注射オゼンピックがあります。
織部
利休
注射よりは朝早起きして1錠服用した方がいいのう。
リベルサスのメカニズムで一番凄い所は分子量が大きいペプチドであるGLP-1アナログを胃で吸収できるようにしたことです。
織部
利休
ペプチドはアミノ酸の組み合わせ、肉もそうじゃが胃に入ると胃酸で分解されてしまうのう。
その胃酸による分解を防ぐのが添加物サルカプロザートナトリウム(SNAC)です。
織部
利休
聞かん名じゃのう。何者じゃ?
米国のバイオテクノロジー企業Emisphere Technologiesが開発した物質です。この物質のおかげでタンパク質をそのまま服用吸収できるという糖尿病内科の医師が夢に見た薬が完成しました。
織部
利休
具体的にSNACはどうやって胃からセマグルチドを吸収させておるんじゃ?
錠剤にSNACとセマグルチドは一緒に入っています。生体内に入ると
織部
- SNACがセマグルチドの周りに留まりpHを上昇させ胃酸から守る
- 2量体化になっているセマグルチドを単体にSNACが分解
- SNACがセマグルチドと1:1で結合
- SNACの界面活性作用により胃粘膜を通過
- 血管に入るとSNACとセマグルチドは分離
- 以下は他のGLP-1と同じ作用機序
という獅子奮迅の働きをしてセマグルチドの胃吸収を達成したのがSNACです。
織部
利休
約100年前にカナダでインスリンが発見されてから100年じゃが糖尿病治療の進化を感じるのう。
このSNACを開発したEmisphere Technology社の株価は2018年から比べて20倍になっています。それだけの発見だと思います。
織部
Emisphere Technology |
利休
この技術は他のタンパク医薬品にも広く応用ができそうじゃのう。
セマグルチドの構造式 |
リベルサスは31のアミノ酸からなるGLP-1類似体です。ヒトGLP-1の7番から37番を切り取った部分でもあります。上記の図だと8番目をアラニンから2-アミノ-2-メチルプロパン酸へ置換、そして34番目のリジン部分がアルギニンに置換されています。
織部
利休
なんでそんなややこしい事を?
GLP-1は本来不安定な物質ですぐに分解されて無くなってしまうので安定性を向上させてできるだけ体内に留まるように構成アミノ酸を改変しています。
織部
利休
その辺はインスリンと同じじゃのう。
さらに26番目のリジンにスペーサーを挿入して脂肪酸をくっつけています。最終的に完成されたリベルサスは血中のアルブミンと結合して安定します。
織部
利休
どれくらい安定してるんじゃ?
半減期が約一週間です。
織部
利休
工夫した甲斐があったのう。
GLP-1製剤は消化器系の副作用が出ます。これは薬剤の形態がどうであれ変わりません。
織部
利休
米国のデータをみると注射薬オゼンピックよりも少しリベルサスの方が吐き気が出やすいのう。
ただ消化器系の副作用は一ヵ月もしたらかなり軽減されて継続できるパターンが多いです。
織部
- マウスで甲状腺C細胞腫瘍の発生頻度の増加が認められたとの報告がある。
人間対象の実験でなくマウスでの実験ですが大量にリベルサスを暴露させると甲状腺がんの発生リスクが上昇したという報告があります。
織部
利休
これはリベルサスだけでなくGLP-1製剤に共通する甲状腺細胞腫瘍のリスクじゃのう。米帝では添付文書にブラックボックス警告されておるし。
併用薬にしてもですが甲状腺疾患を持っている患者さんは注意した方がいいです。
織部
- セマグルチドはCYP分子種に対して臨床上問題となる誘導や阻害作用を示さない
リベルサスは自身の構造に含まれている脂肪酸のβ酸化などで処理されるのでCYPは関与しません。
織部
利休
ということは併用薬にはそこまで気を使わなくてもいいのう。
絶対に一緒に服用してはいけない併用禁忌薬は設定されていません。(2020年7月時点)
織部
利休
ちなみに併用注意薬は?
糖尿病薬はビグアナイド系やSU剤、DPP4阻害薬含めて併用注意に設定されています。低血糖のリスクが上昇するとの事で。
織部
利休
GLP-1製剤は原理的に血糖値が高いときしか働かないから単剤では低血糖リスクはプラセボ同等じゃが併用薬があるときは注意じゃな。
ただリベルサスには特徴的な併用注意薬が一つだけあります。
織部
利休
なんぞ?
レボチロキシンです。いわゆるチラーヂンS。
織部
利休
なぜに甲状腺ホルモン製剤がリベルサスと併用注意なんじゃ?
GLP-1製剤の副作用として胃の運動が低下します。チラーヂンを服用した時に胃の動きが低下しているとチラーヂンが胃内に長く留まりAUCが上昇してしまうことがあるそうです。
織部
利休
甲状腺ホルモンは血中濃度が高くなりすぎると頻脈になったりするから危険じゃのう。
ただこのリベルサスの胃運動低下は食欲の抑制にもつながるので体重減少というメリットにもなります。
織部
医薬品名 | 用法用量 | HbA1c変化 |
トルリシティ注 | 0.75mg/1週 | -0.7% |
トルリシティ注 | 1.5mg/1週 | -0.8% |
バイエッタ注 | 5mg/1日2回 | -0.7% |
バイエッタ注 | 10mg/1日2回 | -0.9% |
ビデュリオン注 | 2mg/1週 | -1.6% |
ビクトーザ注 | 1.2mg/1日 | -0.8% |
ビクトーザ注 | 1.8mg/1日 | -1.1% |
オゼンピック | 0.5mg/1週 | -1.4% |
オゼンピック | 1.0mg/1週 | -1.6% |
リベルサス錠 | 7mg/1日 | -1.2% |
リベルサス錠 | 14mg/1日 | -1.4% |
*すべて単剤治療/米国データ
*HbA1cのベースラインは全て8以上
↑は全て単剤の比較ですがリベルサスの14mg/dayは皮下注製剤に対して劣っていません。むしろ全体的に上回っている印象を受けます。
織部
第III相国際共同試験 | |
主要評価項目 | HbA1cの変化量 |
期間 | 78週間 |
背景 | メトホルミンのみ又はメトホルミンとSU剤の両剤による併用療法にリベルサスを追加 |
n | 1,864例 |
日本で一番使われているDPP4阻害薬ジャヌビア(一般名:シタグリプチン)の最大承認量である100mgと比較してもリベルサスは非劣勢を証明しました。
織部
利休
さすがに導入量の3mgはシタグリプチンに対する非劣勢が証明されんかったが維持量の7mgが証明されたら満足じゃのう。
↑の結果を見ると強さはリベルサス7mg≧ジャヌビア100mg>リベルサス3mgといったところでしょうか。
織部
利休
これまでGLP-1製剤はみな注射じゃったが性能が同等以上ならこれからは錠剤が使われるはずじゃ。