【ARNI】 エンレスト:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬

商品名 エンレスト
エンレスト錠50mg
一般名 サクビトリル バルサルタンNa水和物
構造式 サクビトリル バルサルタン
製薬会社 ノバルティス
効能・効果
*慢性心不全(50mg錠、100mg錠、200mg錠)
**高血圧症(100mg錠、200mg錠)
用法 慢性心不全 高血圧症
1日2回 1日1回
1日最高量 400mg 400mg
禁忌 ACE阻害剤を服用中、もしくは服用後36時間以内の患者
ラジレス(アリスキレン)服用中、血管浮腫の既往歴、重度の肝障害、妊娠中

*標準的な治療を受けている患者に限る、ACE阻害薬又はARBから切り替えて投与

**高血圧治療の第一選択薬としないこと

 

エンレスト(一般名:サクビトリルバルサルタン)は2つ適応を持っているが先に適応をとったのは慢性心不全。

 

現在の慢性心不全治療はACE阻害薬やARB、β遮断薬が標準的な治療薬として用いられている。それらの薬を使用しても状態が宜しくないときにエンレストが使われる。

日本では2020年に承認されたエンレストだが海外ではその前から使われている。

 

製剤的にエンレスト錠は単一結晶内にモル比等しくバルサルタンとサクビトリルが含まれている。服用するとすぐ体内で2つに分かれ別の場所で働く。その結果、慢性心不全や高血圧に対して協力プレイで薬効を発揮する。

 

エンレストの作用機序

 

このエンレストの機序を理解する上で重要なキーワードが何個かあるが一番重要なものはBNP。

正式名称は脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチドといい元は脳内で発見されたホルモン。脳で発見されたホルモンだが分泌されているのは心臓(心室)から。BNPには血管拡張作用利尿作用がある。

BNP自体は利尿作用や血管拡張作用があり慢性心不全治療に有用なホルモン。その有用なBNPを分解してしまうのがネプリライシン

 

サクビトリルはネプリライシン阻害薬(ARNI)という新しいクラスの薬で体内で活性代謝物LBQ657となりネプリライシンを阻害する。その結果BNP分解を阻害しBNPを増やすことで心臓の負担を減らし心不全を改善する。

 

それで話が終わったらシンプルだったのだがネプリライシンはアンギオテンシンⅡの分解も行っている。アンギオテンシンⅡの分解をするネプリライシンを邪魔したら結果としてRAAS系が亢進されてしまい血圧が上昇。

せっかくBNPを増やして血圧を下げたり利尿していたのにそのせいで無意味となる。そこでエンレストに含まれているもう一つの成分バルサルタンの出番となる。

 

アンギオテンシンⅡが増えても受容体レベルでブロックしたら血圧は上昇しない。図の右側の径路は亢進しない。ネプリライシン阻害薬だけでは二つの相反する作用がある。その部分を解決するためにバルサルタンが存在する。

 

 

症候性HFrEF患者に対する治療アルゴリズム

HFrFEの治療アルゴリズム

 

エンレスト錠は慢性心不全に適応があるが第一選択薬ではない。薬の説明書にも「アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬から切り替えて投与すること。」と書いている。

 

薬としてはまず利尿剤やジギタリス製剤を使いそれでも改善されなければエナラプリル等のACE阻害薬やARB。

それでも効果が不十分ならエプレレノン等のミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を追加。それでも治療効果が出ない時の選択肢の一つとしてようやくエンレストが登場する。

 

エンレスト錠の効果
[PARADIGM-HF試験]
エンレストの効果
エナラプリル群 エンレスト群
複合エンドポイント 26.5% 21.8%
心血管死 16.5% 13.3%
心不全悪化による入院 15.6% 12.8%

PARADIGM-HF試験はNYHAⅡ度以上かつ左室駆出率が40%以下(後に35%以下に改訂)の心不全患者(8,442名)を対象にした臨床試験。

この試験でエンレスト群はエナラプリル群に対して複合イベントリスク(心血管死と心不再入院)を約20%減少させて死亡率・心不全再入院も有意に減少させた。

ただ左室駆出率が50%以上の患者さんに対しては有意な差が見られなかったとの報告もある。

 

ACE阻害薬とエンレスト錠の切り替え
  • ACE阻害薬を服用中の患者:36時間以上空けてからエントレストを服用。
  • エンレストを服用中の患者:36時間以上空けてからACE阻害剤を服用。

 

ACE阻害薬とエンレスト錠は併用禁忌の組み合わせなので一緒には服用できない。そして一緒に服用しないだけでなく空ける時間も指定されていて36時間となっている。

 

もし併用してしまったら副作用の血管浮腫が起こりやすくなる。

 

血管浮腫は気道が脹れて呼吸困難になる致命的な副作用なので危険。なぜ血管浮腫が起こるのかと言えばACE阻害薬にもサクビトリルにもブラジキニン分解を阻害する作用があるため。

 

ちなみにACE阻害薬からエンレストに切り替えるとき、その期間のつなぎ役としてARBを使用することはあり得る。(併用注意)

 

エンレスト錠の特徴
  • 体内で2つの成分に分かれるプロドラッグ
  • 適応は慢性心不全と高血圧(2つとも第一選択薬ではない)
  • 併用禁忌はACE阻害薬とアリスキレン
  • ACE阻害薬と切り替える時は36時間以上あける

 

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利休

エンレストはありふれた降圧剤の合剤かと思っておったが違うようじゃのう。

 

アムロジピンと自社が特許持ってるARBを合体させたやっつけ仕事な薬ではないです。製剤的にも高い技術が使われていますし組み合わせも作用機序を考えると合理的です。

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織部

 

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利休

どっかの会社は高血圧と高脂血症の薬まで合体させてたからのう。

 

それに比べたらエンレストは存在価値の高い薬です。慢性心不全治療に新しい選択肢を提示しました。

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織部

 

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利休

しかし使う時に色々制限があるから煩わしい事もあるのう。慢性心不全にしても高血圧にしても第一選択薬ではないし。

 

飲み合わせでも注意が要ります。ACE阻害薬は当然アウトですがアリスキレンも併用禁忌となっています。

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織部

 

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利休

逆に言えばその2つさえ押さえておけば他は併用禁忌が無いということじゃのう。

 

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利休

ちなみに「エンレスト」という名前の由来は?

 

Entrust(信頼できる薬剤)から命名されたそうです。

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織部

 

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利休

新しい薬じゃからこれから臨床で使われていくなかで信頼を勝ち取らんとのう。

 

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