【乳がん】 イブランスとベージニオの違い 【CDK4/6】

イブランス ベージニオ
一般名 パルボシクリブ アベマシクリブ
日本発売年 2017年 2018年
開発会社 ファイザー イーライリリー
効能・効果 手術不能又は再発乳癌(ホルモン受容体陽性、HER2陰性の患者のみ)
用法・用量 1 日1回食後に125mgを3週間連続服用後に1週間休薬 1回150mgを1日2回
適宜増減
併用薬 内分泌療法剤と併用する
薬理作用 サイクリン依存性キナーゼ阻害(CDK4/6阻害)
代謝酵素
  • CYP3A
  • 硫酸転移酵素2A1
  • CYP3A
警告表示 間質性肺疾患
妊婦 禁忌 ベネフィット>リスクの場合は可
副作用発現率
対象試験 国際共同第Ⅲ相試験 国際共同第Ⅲ相試験
好中球減少 82.6% 44.0%
下痢 13.0% 86.4%

 

乳がんはいくつかのタイプが存在する。

 

・女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)陽性

・HER2陽性

 

女性ホルモンは乳がん細胞の増殖に関与しておりHER2蛋白は増殖の速さに関与している。

 

イブランスとベージニオは女性ホルモンによりがん細胞が大きくなっているがHER2という特殊なたんぱく質は出ていない人を対象とした薬である。

 

 

 

共通点
  • サイクリン依存性キナーゼ4/6を阻害することでがん細胞の増殖を抑制する。
  • 抗女性ホルモン剤との併用が必須
  • 警告に「間質性肺炎」
  • 代謝酵素は両者ともCYP3Aなので抗生物質クラリスや睡眠薬ベルソムラとの併用に注意が必要
  • 抗女性ホルモン剤単独よりも悪化するまでの期間が延長する。

 

 

イブランス

  • 1日1回服用
  • 「食後」と指定されている
  • 3週間服用したら1週間の休薬期間が必要
  • 白血球が減少しやすい
  • 妊娠中は禁忌
  • 2018年の売上高は41.1億ドル

 

 

ベージニオ

  • 1日2回服用
  • 「食前」「食後」の指定なし
  • 休薬期間は必須でない
  • 下痢が起こりやすい
  • 妊娠中でも医師の判断によっては服用する
  • 日本人では外国人と比較して肝機能障害と骨髄抑制の発現割合が高い傾向が認められる

 

 

 

作用機序

イブランスもベージニオもCDK4/6を阻害することで下流のRb蛋白リン酸化による不活化を防ぐ。

 

CDK4及び6がサイクリンDと結合して作られた複合体が腫瘍増殖抑制因子であるRb蛋白をリン酸化して不活化することでがん細胞に対する抑制能力が無くなりがん細胞の増殖が止まらなくなる。乳癌患者の 50%以上はサイクリンDが過剰に発現している。

 

Rb蛋白は網膜芽細胞腫タンパクという悪者っぽい名前をしているがコイツ自身はがん細胞が増えるサイクルを止める善玉。この善玉を邪魔するのがサイクリン複合体。

 

がん細胞増殖を抑制するRbを抑制するサイクリン複合体を抑制するのがイブランスやベージニオ

 

とてもややこしいが図だとわかりやすい。

 

 

併用するレトロゾールなどはCDK4/6阻害薬の前段階を邪魔することで乳がん細胞の増殖を阻止する。これまではレトロゾールが効かなければそれ以降の流れが止まらなくなり増悪化しても打つ手が無かった。そこに登場したのがイブランスとベージニオ。

 

女性ホルモン阻害薬と併用する方が明らかにメリットがあるので併用することと添付文書にも記載されている。

 

イブランスとベージニオ以外にもCDK4/6阻害薬にはノバルティスのリボシクリブが存在するが日本ではまだ承認されていない。

 

 

同じCDK4/6阻害薬というクラスの中でどの薬が一番効果が高いとかは分かっていない。2つを直接比較した臨床試験が無いのでまだどちらが優れているかは分からない。これから10年、20年と使っていけば色々分かってくる。

 

一般論として製薬会社がその薬に対して自信がある場合だと臨床試験の対象を偽薬でなくライバル薬に設定して比較する。ライバル薬に対して優越性を誇示できればその市場ではシェアを掻っ攫うことができる。それをしないという事は大きな差は無いと製薬会社自身が思っている。

 

2019年現時点での2つの使い分けは効果ではなく副作用。

 

 

副作用の違い

イブランスははCDK4とCDK6の両方を阻害する。

 

その内CDK6が白血球減少に関わっているとされているのでCDK6にも強く阻害作用を有するイブランスは好中球減少症が起こりやすいと推測される。ベージニオは比較的CDK4に対しての選択性が高くイブランスよりも白血球減少症が少ない。

 

ベージニオに特発する下痢だがなぜ起こるかという作用機序はまだ解明させていない。動物実験でサイクリン依存キナーゼを作れなくした実験動物で下痢は増えなかったのでメインのCDK4/6阻害とは違う薬理機序によって下痢が起こっている可能性がある。

 

ベージニオは下痢の重さによって休薬するか中止するかの指示が添付文書に記載されている。軽い下痢ならそのまま継続することも可能である。

 

 

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