片頭痛治療の切り札としてイミグラン(一般名:スマトリプタン)を始めとするトリプタン系薬が登場したのが2000年。
しかしそのトリプタン系を服用しても片頭痛で悩む患者さんで頭痛外来は溢れている。頭が痛いと患者が訴えているのに痛みを抑える薬が無いという状況、頭痛外来の医師も頭が痛い。
そんな状況を改善するべく20年ぶりに新しい作用機序の薬が日本に登場した。しかも3つも。発売して1年も経っていないのでまだ未知な部分もあるが現時点で判明している事をまとめてみた。
利休
いきなり三つも新薬が登場したら何を使っていいか分からんのう。
厚生労働省的には3つとも同じ位の効果と考えています。類似薬効比較方式により薬価はどれも同じ位です。
織部
利休
値段は同じなんか、じゃあ値段が選択基準にはならんのう、ちなみに薬価はどれくらいじゃ・・・
利休
ワシの見間違いかのう?どれも1本4万円以上しているんじゃが?
今のところ目は大丈夫な様ですね、それであってます。
織部
利休
一回4万円て高すぎやせんかのう?3割負担でも相当懐が痛むんじゃが。
画期的な新薬ということでお高くなっております。
織部
2021年1月現在で使用可能な抗CGRPモノクローナル抗体製剤は3種類。
- エムガルティ(一般名:ガルカネズマブ)
- アジョビ(一般名:フレマネズマブ)
- アイモビーグ(一般名:エレヌマブ)
3つともにCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)というものをブロックして片頭痛を予防する薬である。なぜに片頭痛が起きるかという根本的な問題にはまだ最終的な解が出ていないが有力な説としてCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)説が有力となっている。
仕事や学校でのストレスが原因となり三叉神経という太い神経からこのCGRPという物質が放出される。放出された時点ではまだ痛くないのだがそれが受容体に結合してスイッチオンになると血管が拡張されたり炎症が起き片頭痛が起きてしまう。
じゃあこのCGRPをどうにかしてやれば良いという発想が上記の3つの薬。直接比較試験は行っていないのでどの薬が強いとか良く効くとかは現時点では分からない、投与方法の違いや相性で使い分けているのが現状。
利休
銭以外で違いは何か無いんかのう?
作用機序という点でみると大きく2つに分かれます。エムガルディとアジョビはCGRPに直接作用します。それに対してアイモビーグはCGRP受容体をブロックします。
織部
利休
どっちが良く効くんじゃ?。
臨床試験を見比べてみてもそこまで顕著な差はありません。なのでエムガルディを使ってイマイチだった人はアイモビーグを試したりしたら相性的に良い薬が見つかるかもしれないです。
織部
利休
じゃあエムガルディとアイモビーグを併用したら最強じゃのう。エムガルディが逃したCGRPが受容体にくっ付くのを防ぐアイモビーグ。
理論的にはありですが保険的には無しです。こんな高価な薬を併用するとか保険切られます。ただ併用禁忌とかではないので自費でよければありかもしれません。
織部
利休
自費だと一カ月8万円以上するのう。1年で100万円。頭の痛い問題じゃ。
- エムガルディは初回月だけ2本、以降は1本ずつ
- エムガルディは3カ月使って効果無ければ使用中止を考慮、他2つは6か月まで様子見
- アジョビは4週間ごとに1本と12週間ごとに3本まとめて打つ2パターンあり
- アイモビーグは4週間毎に1本
- エムガルディだけ注射部位に臀部も可能
エムガルディは最初に二本打ちます。以降は一カ月ごとに1本です。
織部
利休
最初の月だけ値段が倍は痛いのう。
血中濃度を一気に高めて効果を早く実感させるためだそうです。人によってすぐに効果を実感するそうです。
織部
利休
しかしアジョビとアイモビーグは毎月1本ずつで良いんじゃしワシはそっちでいいかのう。
ものぐさな師匠にはアジョビがオススメです。12週間に一度で良いですから。
織部
利休
でもそれ注射をまとめて三本も打つんじゃろう・・・痛そうじゃのう。
他の2つは1回注入量が1mLですがアジョビは1回1.5mLと多めなので痛いかもしれないです。
織部
利休
ぐぬぬ、じゃあ消去法でアイモビーグで。
アイモビーグは深刻な副作用として重篤な便秘が記載されています。師匠みたいな高齢者は腸の動きが弱くなっているのでリスクがあるかもしれません。
織部
利休
3つとも一長一短あるのう。
細かいところだとアイモビーグは完全ヒト化モノクローナル抗体なので中和抗体ができにくいのではないかと言われていたりします、しかし他の2つも中和抗体はできにくいという海外のデータがあります。
織部
利休
要するにあんまり差が無いということかのう。
抗CGRP抗体薬の間では臨床で大きな差が無いと思います。ただこれまでのトリプタン系と比べると大きな違いがあります。
織部
利休
トリプタン系は心血管系に影響するから使いにくかったのう。使い過ぎると薬剤性片頭痛もおこったり。
ゾーミックのように併用禁忌薬があったりトリプタン系は気を付ける点が多かったですがそれに比べると抗CGRP抗体薬は使いやすいイメージです。
織部
エムガルティの国内第II相試験(CGAN試験) |
利休
使い方とか細かいことは良いから効果のほどを知りたいんじゃが?片頭痛がピタッと無くなるんかのう?
↑の表はエムガルティの臨床試験結果です。一カ月に平均8.6回の片頭痛発作が起きる患者さんを対象にエムガルティを投与した結果です。
織部
利休
一カ月で8.6回起きていたのが5.6回に減っておるのう。
偽薬は0.3回しか減っていないのでエムガルティの有効性が証明されています。
織部
利休
しかしそれでも半分も減らないんじゃのう。値段の割には大したことない感じじゃが?
それでもこれまで他に薬が無く選択肢が無かった患者さんにしたら希望が持てる薬だと思います。
織部
利休
もうちと効果が高いと良いのう。
まだ日本では承認されていませんがルンドベックのvyepti(一般名:Eptinezumab)は既に日本で承認されている3つの薬よりも効果が高そうです。
織部
利休
どんな薬なんじゃ?
三か月に一回投与の静脈投与薬です。2割強の患者さんが片頭痛が起きる日数を75%減らせました。
織部
利休
ルンドベックは統合失調症治療薬や抗うつ薬など中枢神経系に強い製薬会社じゃから期待できるのう。
他にも抗CGRP関連薬は開発されているのであと数年で片頭痛治療はまた進化すると思います。
織部