【企業分析】 米メルク:キイトルーダで免疫チェックポイント阻害薬競争をリード

 

世界には「メルク」と呼ばれる製薬会社が2つ存在する。

 

アメリカ拠点のMerck & Co., Inc.(Merck Sharp & Dohme )
ドイツ拠点のMerck KGaA

 

 

製薬会社としての独メルクは1827年にドイツでエマニュエル・メルクが創業した。
そして米国の子会社として1891年に孫のジョージ・メルクが創業。

 

米国支社が第一次世界大戦中にアメリカの敵国ドイツ企業という事でアメリカ政府に接収されてしまう。その会社こそ現在の米メルク。

現在この2つの製薬会社に資本関係は無いが元を辿ればドイツにあった一つの薬局

売上的にみると独メルクは150億€と米メルクの半分強の規模だが設立の経緯をみるとドイツのメルクが本家でアメリカのメルクが分家

大恐慌の時にグラス・スティーガル法で政治的にモルガン商会から分離させられた
JPモルガンとモルガンスタンレーの関係に似ている。

 

 

社名について

米メルクが「メルク」と名乗れるのは米国とカナダ内だけで
他の地域ではMSD(Merck Sharp & Dohme)の名称を使用している。

 

逆に独メルクは米国とカナダ外では「メルク」の名称を使用できるが
米国とカナダではEMD (Emanuel Merck Darmstadt)という名称を使用している。

 

 

米メルクの歴史

1668年:フリードリッヒ・ヤコブ・メルクがダルムシュタットでエンジェル薬局の経営権取得

 

1827年:ハインリッヒ・エマニュエル・メルクが薬局業から製薬業に転換する。

1891年:ハインリッヒの孫ジョージが現在米メルクとなる米国支店をNYに開業(米メルク創業年)

 

1899年:メルクマニュアルの初版が出版される。

1917年:第一次世界大戦への米国の参入でアメリカ政府に米メルク社の株券を差し押さえられ
独メルクとの関係が無くなる。しかしジョージ・メルクが株券を買い戻し経営権を再び手に入れる。

 

1927年:Powers-Weightman-Rosengarten社と合併

 

1929年:メルク・キャンパスを開設
1936年:J. K. ClineがビタミンB1の最初の合成法を開発し江戸煩い(脚気)を改善

 

1940年:Merckの化学者は、胆汁からコルチゾンを合成し、コルチゾンの抗炎症特性を発見

 

1944年:Streptomyces griseusの培養液中にアミノグリコシド系抗生物質ストレプトマイシンを発見

 

1949年:メルクの研究者Karl FolkersがビタミンB12を単離し悪性貧血の治療薬として販売

 

1953年: Sharp&Dohmeと合併。

Sharp&Dohmeはサルファ剤、ワクチン、血漿製剤などの重要な製品を保有していたが
それ以上に価値のある新しい流通ネットワークとマーケティング設備をメルクに提供した。
そのおかげで初めて、米メルク独自の名称で医薬品を販売し販売することが可能となった。

 

1954年:万有製薬の50%以上を購入
1979年:高血圧症治療薬レニベースの販売を開始。

1982年:Merckは万有製薬を3億1550万ドルで買収(現在の日本MSD)

 

1992年:高脂血症治療薬ゾコールを発売

 

1998年:ぜんそく治療薬のシングレア発売

 

2006年:世界初のDPP-4阻害薬ジャヌビアを発売
2009年:シェリングプラウを410億ドルで買収

2014年:バイエルに一般用医薬品部門を142億ドルで売却
2014年:抗がん剤キイトルーダ発売

 

 

概要(2017年)

売上:401億ドル


医療用医薬品:353億ドル

動物用医薬品:38億ドル
その他:8億ドル

純利益:25億ドル

配当支払額:51億ドル
自社株買い:35億ドル
株主還元額:86億ドル

株価:77ドル
一株配当額:2.2ドル
配当利回り:2.85%

 

年間売上

2009年にシェリングプラウを買収して一気に売り上げが伸びているがその後は伸び悩み
シングレアの特許切れや一般薬事業を売却した影響

 

純利益

純利益は大きなバラつき。
2014年の利益はバイエルに一般用医薬品を売却した代金を含んでいる。

 

株主還元

配当は毎年継続して5000億円を株主に支払っている。
しかし自社株買いも時にはそれ以上の規模で行っており合計すると一年間で1兆円近くを株主還元
売上の20%以上を株主に還元している計算

 

米メルクの売上トップ5(2017年)

1位:ジャヌビア 【59億ドル】

糖尿病治療薬、世界初のDPP-4阻害薬

 

 

2位:キイトルーダ【38億ドル】
抗がん剤、免疫チェックポイント阻害、オプジーボのライバル

 

 

3位:ガーダシル【23億ドル】
子宮頚がん予防ワクチン,4価ワクチン

 

 

第4位:ゼチーア【21億ドル】
世界初の小腸コレステロールトランスポーター阻害薬

 

 

第5位:ProQuad【16億ドル】
麻しん・おたふくかぜ・風しん・水痘4種混合ワクチン

 

売上トップ5の売上推移

 

2018年にはキイトルーダとジャヌビアの売上が逆転するかもしれない。
キイトルーダは最終的に年間売上1兆円に達する可能性がある。

 

 

過去に開発した主な薬

アイセントレス(一般名:ラルテグラビルカリウム):HIVインテグラーゼ阻害薬
アルドメット(一般名:メチルドパ):降圧剤、妊娠高血圧の時に安全に使えるのがGood
イメンド(一般名:アプレピタント):抗がん剤の吐き気を抑えるNK1受容体拮抗薬
クラリチン(一般名:ロラタジン):抗アレルギー剤:米国ではOTCのベストセラー
ゲンタシン(一般名:ゲンタマイシン硫酸塩):アミノグリコシド系抗生物質
シングレア(一般名:モンテルカスト):気管支喘息やアレルギー性鼻炎。最盛期の売上は43億ドル
テモダール(一般名:テモゾロミド):悪性神経膠腫に対して全生存期間延長を証明(2.5カ月)
ニューロタン(一般名:ロサルタン):世界初のARB阻害薬で化学会社デュポンと共同開発
フォサマック(一般名:アレンドロン酸Na):骨を丈夫にする薬。コップ一杯の水でグイっと
プロペシア(一般名:フィナステリド):ハゲの希望の光
ベルソムラ(一般名:スボレキサント):世界初のオレキシン受容体拮抗作用を持つ睡眠薬
マクサルト(一般名:リザトリプタン):片頭痛治療薬
メネシット(一般名:レボドパ・カルビドパ水和物):抗パーキンソン剤、BBBをスルーできる
リポバス(一般名:シンバスタチン):高脂血症治療薬、1979年に発見される。
レニベース(一般名:エナラプリルマレイン酸塩錠):降圧剤、メルク初の年間売上10億ドル超え薬
レメロン(一般名:ミルタザピン):抗うつ薬 カリフォルニアロケットの原料

 

独り言

今後10年の最重要薬はキイトルーダ
2017年に38億ドルの売上高を生み出し、前年より172%近く増加したがまだまだ伸びるはず。

 

エーザイの抗がん剤レンビマとの組み合わせで提携するなどこれからは他の抗がん剤との組み合わせを探索していくことになる。
相性の良い抗がん剤が見つかれば処方頻度も増えていく。

既にメラノーマ、非小細胞肺癌、頭頸部癌、古典的ホジキンリンパ腫、膀胱癌のFDA承認を獲得
これから乳がん、結腸直腸癌、肝臓癌、小細胞肺癌、卵巣癌でも承認を目指していく。

そして過去10年米メルクを支えてきたゼチーアとジャヌビアの売上は落ちる。特許切れで
糖尿病分野で新規SGLT2阻害薬ertugliflozinが発売となるがジャヌビアの落ち込みを補うのはキツイ

ertugliflozinは最初からジャヌビアとの合剤を発売したり工夫しているがSGLT2阻害薬としては後発組
ジャヌビアがなぜDPP-4阻害薬でベストセラーとなったか言えば最初に発売したから
よっぽど既存薬より性能が良くないと売りにくい。ertugliflozinはそんなに売れないと思う。

C型肝炎の治療薬Zepatier(日本名:グラジナ/エレルサ)も競争が激化するので売り上げは厳しい。
最初にブルーオーシャンに飛び込んだギリアドも患者数の減少で売上減に苦しんでいる。
しかしギリアドは自分の薬が使用され売り上げを回収しているのでまだマシ

Zepatierは患者数が少なくなった市場でハーボニーやマヴィレットといったライバルと競争する

投資家視点で米メルクを見てみるとキイトルーダが1兆円まで成長したとしても
売上に占める割合は25%。一つの薬の失敗で会社の命運が尽きるという心配は無い

安定した配当を得つつ自社株買いもしてくれる株主想いな会社なので保有しても良いと思う。
いきなり株価が倍になったはしない会社だが長期投資のつもりで保有すると良い事がある。

 

 

30年前に1万ドルを米メルク株に投資していたら現在は約39万ドルとなっている。

 

 

医療品は人々のためにあるのであり、利益のためにあるのではないことを決して忘れてはならない。米メルク二代目社長のジョージ・W ・メルク

 

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