一般名 | ハロペリドール |
日本発売年 | 1964年 |
開発 | ヤンセン |
販売 | 大日本住友 |
分類 | 抗精神病薬 |
クロルプロマジンが低力価第一世代抗精神病薬の代表ならハロペリドールは高力価一世代抗精神病薬の代表。
ハロペリドールを開発したのはベルギーの製薬会社ヤンセンファーマ
ヤンセンは第二世代薬で最も処方されているリスペリドンを開発した会社でもある。
そんなリスペリドン、第二世代薬と比較してハロペリドールは錐体外路症状など副作用が出やすいがシャープな切れ味が好評
発売から50年以上経過した現在でも臨床で広く使われてる。
剤形も錠剤だけでなく粉や注射があり便利、とくに注射は一回打つと一か月持つという優れもの。
特許は大昔に切れているのでお財布にも優しいハロペリドール
メジャートランキライザー界2大スターうちの一人
WHOの必須医薬品リストにも記載されている
Serene(静かな、穏やかな)+ace(優秀な)で、すぐれた鎮静・静穏化剤の意味をもつ。
静かにするという意味でつけられたセレネースという商品名だが暴れている人を鎮静させる力はクロルプロマジンのが強い。
どちらかと言うと幻聴などで煩い状態を静かにさせる力が特徴
患者さん本人を大人しくさせるのがクロルプロマジン
患者さんが聞こえている幻聴を抑えるのがハロペリドール
- 統合失調症
- 躁病
統合失調症は昔の精神分裂病。
精神分裂病という名称だと多重人格か?など色々と誤解されやすいので日本精神神経学会が2002年に名称を統合失調症に変更。
多重人格は解離性同一症で違う病気
テンション上がり過ぎで無敵状態に感じる躁病にも効果がある。
統合失調症を大きく分けると
・陽性症状
・陰性症状
の2つに分類できる。
陽性症状の具体例
- 周囲の人間が自分の悪口を言っているように感じる
- あるはずの無いものが目の前に見える
- いきなり大声で叫び出す
- 考えがまとまらない(思考が統合できない→統合失調症
陽性症状は幻覚や幻聴、興奮など周りから見ても明らかな異常を呈する。
ドパミンを増やす一部の違法薬物でもこの様な症状が出やすい。
陰性症状の具体例
- 仕事や学校に行く気力が無くなった
- やる気が無くなり趣味にも興味が無くなった
- 1日中部屋に引きこもり無為に日々が流れる
- 感情に抑揚が無くなり平坦になる
なので部屋に籠ってゲームやアニメを楽しんでいるヒキコモリは大丈夫
上記の様な症状は統合失調症で見られる一部の症状。
だがこれだけで統合失調症とは診断されない。
これだけで診断されたら自分も統合失調症である。
症状が現れてその継続期間が「六カ月」というのが統合失調症診断の一つの目安となっている。
丿貫「一週間前から誰かに監視されているんです」
と精神科を受診して
精神科医「はい、統合失調症ですね」
とはならない。統合失調症は一日にして成らず
統合失調症は人種差に関係無く1%の人が生涯に一度は患う疾患。
そして2020年現在、統合失調症の原因は断定されていない。
統合失調症が発症するには遺伝的な素因と環境的な素因の2つがあり環境的な素因の方が大きいとされている。
受験のストレスや会社での過労状態が原因となりうる。
なので疲れたら休もう。
どんな薬よりも休養が一番効果ある。
統合失調症の病態としては脳内で伝達物質と言われるものドパミン等が過剰だったり少なかったりでバランスが悪くなっている。
なのでそのバランスを補うのが統合失調症の治療薬。
- 1 日 0.75 〜 2.25mg から始め徐々に増量
維持量として 1 日3〜6mg
適宜増減可能
1日量で20mg辺りまでなら措置入院の患者さんには普通に使われている。
だが20mg以上使っても脳内のD2受容体占有率がほぼ変わらないのでリスクが増えるだけ。
使いすぎると錐体外路症状だけでなく悪性症候群という怖い副作用も出てくるので慎重に。
ドパミン | 関連する症状 | 具体例 | |
中脳辺縁系 | 過剰 | 陽性症状 | 幻覚・妄想 |
中脳皮質 | 不足 | 陰性症状 | 感情・意欲の低下 |
黒質-線条体 | 不足 | 錐体外路障害 | パーキンソン症状 |
下垂体系 | 不足 | 性機能障害 | 乳汁分泌、月経異常 |
過剰なドパミンをブロックすることで症状を改善する。
ハロペリドールはドパミンを遮断する能力に長けているので幻覚や幻聴に効果的。
だがしかし
陰性症状は中脳皮質でのドパミンの不足が原因の一因なのでドパミンを遮断してしまうと陰性症状は悪化する。
なので第一世代薬は陰性症状を改善することが難しい。というか悪化する可能性がある。
そして中脳皮質は認知機能にも関与しているので物忘れや痴呆のリスクもある。
ハロペリドールで幻覚や幻聴は収まったがやる気が無くなり部屋でヒキコモリ状態に
第二世代はこの陰性症状にも効果的なのでバランスが良い。
しかし強烈な幻覚や幻聴をとりあえずどうにかしたい時の切り札としてハロペリドールは必要
一般名:ハロペリドール |
ブチロフェノン系の代表的な薬ハロペリドール。
それはペチジンという鎮痛薬をリード化合物として開発が始まった。
一般名:ペチジン塩酸塩 |
日本では麻薬に指定されている強力な鎮痛薬ペチジン。
そのペチジンの構造を元に合成されたのがハロペリドール。
N-メチル基を置換しプロピオフェノン誘導体、ブチロフェノン誘導体と順に合成
ブチロフェノン誘導体にはペチジン由来のモルヒネ様鎮痛作用があり尚且つクロルプロマジン様な中枢作用も認められた。
さらに構造を変形させて鎮痛作用をなくし中枢作用に絞った薬がハロペリドール
ハロペリドールの活性部位 |
- メチレン3個直鎖とカルボニル基は抗精神病薬として必須
- ブチロフェノン骨格の三級アミンも必須
- フッ素は他の医薬品同様に薬理活性を増強している
クロルプロマジンも構造式の中に
クロルプロマジンの構造式 |
3つのメチレンが並び3級アミンと結合している。
メチレンを2つにすると効果が無くなるのでこの部分が一番重要な骨格であると考えられる。
対象疾患 | 有効率 | |
有効以上 | やや有効以上 | |
統合失調症 | 43% | 64% |
躁病 | 60% | 80% |
統合失調症とザックリ書いているがハロペリドールが得意なのは統合失調症の中でも陽性症状。
陽性症状を具体的に言うと興奮、幻覚・妄想など。
クロルプロマジンが特に興奮を抑えるのが得意のに対してハロペリドールは幻覚・妄想を抑えるのが得意
世界が不穏に感じる場合にもハロペリドールが良く効く。
学校の理科室にノートを忘れたと夜9時に気が付いて取りに行く。
昼間の学校とは違い夜の学校は静かでどことなく不気味な雰囲気が漂う。
何もないと分かっているが少し緊張感が漂う。
そんな夜の学校的な不気味な感じが昼間、人が沢山いる学校でも不気味に感じることがある。
そういった時にハロペリドール
第二世代薬と比べて第一世代は脱落率が高いし治療に反応する人も少なくなるが急性期の激しい症状を抑えたい場合にはハロペリドールが選ばれる
30代男性。
4年前から自宅に引きこもるようになり2年前に上京してからホームレス生活をするようになる。
ある日突然見ず知らずの通行人に対して「何で俺を苦しめる」と詰め寄ったために警察官同伴で精神病院を受診。
明かな幻覚妄想状態であったが本人が治療を拒否したので医療保護入院となる。
入院後に両上肢と体幹を抑制した後
ハロペリドール1アンプル(5mg)+生理食塩水500mLを点滴にて投与。
3日間継続した後に2アンプル(10mg/day)に増量して三日継続
更にそこから3アンプル(15mg/day)にまで増量。
そうすると徐々に落ち着きを取り戻したので抑制を解除。
その後は徐々にオランザピン錠15mg/dayに切り替えた。
- 悪性症候群
- 心室細動、心室頻拍
- 麻痺性イレウス
- 遅発性ジスキネジア
- 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)
- 無顆粒球症、白血球減少、血小板減少
- 横紋筋融解症
- 肺塞栓症、深部静脈血栓症
- 肝機能障害、黄疸
ハロペリドールはジスキネジアに代表される錐体外路症状が頻発するのでその予防としてビペリデンなどの抗パーキンソン病治療薬がお供で処方される。しかしこの抗パーキンソン病もせん妄を引き起こすリスクがある。
なので現在の統合失調症第一選択薬はリスペリドンやオランザピンといった第二世代抗精神病薬となっている。
第二世代が効かなかった時の伝家の宝刀ハロペリドール
クロルプロマジンに比べるとハロペリドールは抗コリン作用は少ない。
CYP3A4
CYP2D6
上記の代謝酵素でハロペリドールは代謝されるのでその2つに影響を与える薬とは一緒に飲まない方がいい。
クロルプロマジンは2D6を阻害するので併用するとハロペリドールの血中濃度が上昇してしまう。ハロペリドールとクロルプロマジンを併用するとか無いと思うが
あとp-糖たんぱく質という排出型トランスポーターにも阻害作用がある。
唯一の併用禁忌薬はボスミン(一般名:アドレナリン)
怒りのホルモンであるボスミンを投与するということは血圧の上昇を想定している。
なのに血圧が逆に下がったらホラー現象
よってハロペリドールとアドレナリンとは併用禁忌となっている
第二世代のリスペリドンは広く効くので症状がぼやけていてもだいたい効果は出る。
しかしハロペリドールはシャープな切れ味を持つが狙ったところに投げないとデッドボールとなる。
例えるなら
リスペリドンは140キロの直球とカーブという2つ武器を持っているバランスの良い投手
精密なコントロールは不得意だがその2つの球種で統合失調症というバッターをだいたい抑えることができる。
それに対してハロペリドールというピッチャーの武器は150キロの直球のみ
変化球は投げない。コントロールも悪く荒れ球
しかしストライクゾーンに決まった時の威力はリスペリドンを凌駕する
処方する側の技量が問われる薬