緑内障
日本人が失明する原因の第1位であり40歳以上で20人のうち一人が発症するとされる。
緑内障の原因は眼房水という液体が増えすぎ視神経に過剰な圧力が加わることによって生じる。発症のメカニズムとしてはシンプルなのでその増えすぎた水を減らせばいい。
- 眼房水の産生を抑制する
- 眼房水の排出を増進させる
更に細かくみると機序や場所によって細かく分類されている。
緑内障治療薬は全てこの二つの作用機序のどちらかに分類されグラナテック(一般名:リパスジル塩酸塩水和物)は眼房水の排出を促進させる。
緑内障点眼薬の分類 |
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メカニズム | 場所 | 薬の種類 | 代表的な製剤 |
産生抑制 | 毛様体 |
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流出促進 | 主経路 |
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副経路 |
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そしてこれまで使われていたキサラタンなどのプロスタグランジン製剤とは違いRhoキナーゼ阻害という世界初の作用機序により作動する。新作用機序の新薬と言うと海外の製薬会社が開発しているものがほとんどだがこのグラナテックは日本で基礎研究が行われ日本の製薬会社から発売されている。
プロテインキナーゼ阻害薬としてイソキノリンスルフォナミドの誘導体を日本の 研究者が地道に開発を勧め、その中で最も有効だった物質を日本の小さな新薬開発会社デ・ウエスタン・セラピテクス研究所が開発した。
販売はライセンスアウト先の興和が担っている。
「緑内障患者(GLAucoma)の房水動態を元の自然な状態(NAture)に近づける新しい技術(TEChnology)」より命名
緑内障、高眼圧症(プロスタグランジン関連薬やβ遮断薬等の他の緑内障治療薬で効果不十分又は副作用等で使用できない場合)
グラナテックは新しい作用機序を持つが緑内障の第一選択薬はこれまでと変わらずプロスタグランジン製剤である。眼圧降下作用で最強はPG。そのプロスタグランジン製剤で効果が認められない患者に対してのセカンドラインとしてグラナテックは位置づけられている。
つまり緑内障と診断されて初めて使う点眼薬がグラナテックということは基本的にない。何らかの事情によりプロスタグランジン製剤やベータ遮断薬が使えない、そういった患者だと最初から使われる事もある。
線維柱帯切除術後の結膜癒着防止や白内障手術後などに角膜内皮細胞の障害状態を改善するためにも使われることがある。
1回1滴、1日2回点眼する
グラナテックの主成分リパスジルは他の緑内障点眼薬に比べると迅速に体外に排出されてしまう。点眼して12時間後には大部分が尿中から排出されて体内には残っていない。
そんなわけで1日2回点眼しなければならない。
最も強力な作用を有するプロスタグランジン製剤が一日一回なのでこの一日二回点眼というのはデメリット。
緑内障というのは完治することはなく一生点眼しなければならない。
結膜炎など一時的な症状であれば抗アレルギー点眼薬の様に1日4回使っても問題ないのだが10年20年も使うものであれば1日の点眼回数が一回増えるだけでも労力が積み重なる。
緑内障は痛みなどの自覚症状はほとんどなく気がつけば視野が欠損していたりと状態が深刻となる。痛みがあれば自主的に点眼する人でも何も症状がなければサボってしまう。
緑内障治療の一番大きな障害は点眼継続。 緑内障点眼薬に大きな副作用はなく色素沈着やまつ毛の情報など軽微なものだがそれでも点眼治療を初めて数年で2、3割はドロップアウトする。
グラナテックは点眼回数が一日一回だったら処方する医師が増えたかもしれない。
グラナテックの作用点 |
グラナテックは「Rho」というプロテインキナーゼを選択的に阻害する。
Rhoキナーゼ阻害薬はセリンスレオニンーリン酸化酵素であり体内の様々な場所に存在しており眼組織では毛様体筋、線維柱帯、網膜や角膜上皮で発現が確認されている。
グラナテックの作用するところは線維柱帯-シュレム管。主流出路の流出抵抗を減少させ眼圧が下降すると考えられる。
このRhoキナーゼ阻害は緑内障治療薬としては世界初の作用機序だが他の治療領域では既に実用化されて医薬品として承認されているものがある。
エリル点滴静注(一般名:ファスジル塩酸塩水和物)
2007年に承認されたこの薬の効能はくも膜下出血後の脳血管攣縮をそれに伴うの症状の改善。
Rhoキナーゼは血管平滑筋の攣縮に関わっているのでそのキナーゼを阻害して脳血管の攣縮を軽減させる
試験デザイン | 第III相プラセボ対照二重盲検比較試験 |
対象患者 | 原発開放隅角緑内障又は高眼圧症患者 |
投与方法 | 1回1滴、1日2回 |
期間 | 8週間 |
症例数 | 107例 |
振り分け | グラナテック:偽薬=1:1 |
単独投与時の眼圧推移 | |
試験デザイン | 第III相ラタノプロスト点眼液併用試験 |
対象患者 | 原発開放隅角緑内障又は高眼圧症患者 |
投与方法 | 1回1滴、1日2回 |
期間 | 8週間 |
症例 | 205例 |
振り分け | (グラナテック+ラタノプロスト):(偽薬)=1:1 |
ラタノプロスト併用時の眼圧推移 | |
眼圧を下げる力が強いキサラタンを使っても眼圧が20以上ある患者さんにグラナテックを使用するとさらにそこから眼圧が下がる。
キサラタンも眼房水の排出を促進する薬であるが作用する場所が経路が違う(副経路)ので併用するとより効果が出る。
チモロールマレイン酸塩点眼液との併用試験でも優位に偽薬と比較して眼圧を低下させている。チモロールマレイン酸塩点眼液はキサラタンなど他の作用機序を有する緑内障点眼薬との合剤が発売されているので将来的にグラナテックも合剤が発売されるかもしれない。特許切れ対策としても
臨床試験 | |
全症例 | 662例 |
全副作用発現例 | 500例 |
副作用発現率 | 75.5% |
主な副作用 | 発現率 |
結膜充血 | 69.0% |
結膜炎(アレルギー性結膜炎を含む) | 10.7% |
眼瞼炎(アレルギー性眼瞼炎を含む) | 10.3% |
グラナテックの副作用としてほぼ必発なのが充血。
点眼すると5分か10分後頃では目が赤くなる。
なぜ充血するのかというとRhoキナーゼ阻害作用により血管が弛緩・拡張するので充血が起こる。
他の緑内障治療薬では継続点眼をすれば充血は軽快するパターンが多いがグラナテックは残念ながら軽快せずに毎回充血する。
高齢者で既に退職している人にとっては大きな問題にならないが現役世代で人に会う仕事をしている場合だとこの目の充血は気になる。
ただグラナテックの良いところとして代謝されるのが他の緑内障治療薬よりも早いので充血時間も短い(効果も副作用も短時間
1日2回点眼しなければならないので外出する予定があればがニ時間以上、時間的な余裕をおいて点眼すれば見た目はかなりマシになる。
そんな充血よりも頻度が少ないが重めの副作用がある。
それは結膜炎
充血は自覚症状が無く見た目が悪いだけなのでさほど問題とならないが結膜炎は痛みが生じるのでコンプライアンス的に問題が生じる。しかもこのグラナテックの場合は使い始めて数か月後に結膜炎の症状が起きることがあるので要注意。
グラナテック(一般名:リパスジル塩酸塩水和物) |
上記のエリル点滴静注(一般名:ファスジル塩酸塩水和物)と構造がかなり似ている。
エリル点滴静注(一般名:ファスジル塩酸塩水和物) |
構造的な違いは2か所。ファスジルにフッ素原子とメチル基を導入したものがリパスジル。
一般的にメチル基を付けると極性の関係で脂溶性が増し、フッ素を付けると電気陰性度のせいで薬効や副作用が強化される。
代謝に関与していると考えられるのは
- CYP3A4/5
- CYP2C8
- アルデヒドオキシダーゼ
CYPが絡んでいるが併用禁忌や併用注意な薬は無い。グレープフルーツジュースを飲んでもいい。
眼と鼻は物理的に繋がっているので全身性の副作用が起こることもあり得る。眼房水産生を抑制するβブロッカーは気管支のβ2受容体も遮断してしまうので喘息患者さんには処方できない。
グラナテックはこれまでのところ重篤な全身性の副作用は報告されていない。
グラナテック点眼液0.4%(1本5ml)の価格は2281円(2019年9月時点
グラナテックよりも強力なキサラタンの後発品ラタノプロスト点眼液は最安で1本1216円なのでいきなりグラナテックを使うという選択は何かしらの理由が求められる。
痒みが出て眠れません 。真っ赤にはれ上がります。かゆみ止めもききません。