乾癬という難病の治療に使う世界初の経口PDE4阻害剤オテズラ (一般名:アプレミラスト)
現時点で最も乾癬に効果的なのはヒュミラを始めとする生物学的製剤だがそれらは注射薬。一般的には注射薬よりも経口薬の方が患者さんにとって負担が少ない。
飲み薬の感染治療薬としては大きく分けて3つありビタミンAの誘導体、免疫抑制薬、そしてオテズラのPDE4阻害薬
乾癬という病気の大元は自己免疫の暴走。
免疫抑制剤としてはシクロスポリンが使われているが血圧の上昇や腎臓に対するダメージなど全身的な副作用が強く負担が大きい。
オテズラも免疫は抑制するのだがホスホジエステラーゼ4という特殊な細胞内酵素をピンポイントで阻害するので副作用がより少ない。免疫抑制剤じゃなく免疫調整剤
そんなオテズラは世界で大ヒットしており2018年には全世界で16億ドル、
日本円で約1700億円も売れている。
開発したのはアメリカの製薬会社セルジーン。
年間1兆円を売り上げている抗がん剤レブラミドの販売会社として有名。しかしそんな規模が大きいセルジーンもブリストル・マイヤーズスクイブに746億ドルで買収される事になった。
そしてブリストルがオテズラと似たような乾癬治療薬を開発なのでアムジェンにオテズラの事業権利を134億ドルで売却することになった。
セルジーンの規模は日本で言ったら武田薬品工業を上回っていたのでセルジーンの社員もびっくりしただろう。
しかもセルジーン社の本体はブリストル・マイヤーズスクイブ、、オテズラ事業はアムジェンと切り売りされる。これまで買収を繰り返して大きくなった会社だったので自分が食べられる側に。
巨大製薬会社同士の生存競争でセルジーンは敗れその名は消えることとなった。
[一般名:アプレミラスト]
セルジーン成長の原動力となった薬
レブラミド
ポマリスト
オテズラ
この3つの薬にはフタルイミド基という共通した構造がある。
商品名 | サレド | レブラミド | ポマリスト |
一般名 | サリドマイド |
レナリドミド | ポマリドミド |
構造式 |
薬害として有名なサリドマイドは強い催奇形性を有しており妊婦には絶対に使ってはいけない。そのサリドマイドの中心構造がフタルイミド基
薬理的にまだ完全にサリドマイドは解明されていないが催奇形性を引き起こす原因の一つに線維芽細胞増殖因子の阻害がある。線維芽細胞増殖因子は胎児で手足の成長に必要なタンパクなのでアザラシ肢となる。
だが癌細胞においてはこの線維芽細胞増殖因子が癌の増殖に必要なのでそこを阻害することは抗がん薬としての可能性がある。実際にサリドマイドは「サレド」という多発性骨髄腫薬として再び承認されている。
さらにサレドを改良した レブラミドとポマリストも多発性骨髄腫に対して有効な治療薬として承認されている。
オテズラも構造の中にフタルイミド基を保有しているので年のために日本では妊婦に対しては禁忌と設定されている。
ただオテズラは米国では妊婦投与可能となっているので万が一、間違って服用したとしても慌てる必要はない。
- 局所療法で効果不十分な尋常性乾癬
- 関節症性乾癬
乾癬と言うと皮膚症状が思い浮かぶが指などに関節炎が起こることもある。先に皮膚の感染が現れて数年後に関節症状が出てくることが多い逆の場合もある。
関節の痛みや変形と言われて思い浮かべるのは リュウマチだが別の疾患である、だがリュウマチも感染も根本は免疫の暴走なので 治療薬は似通っている
TNFαモノクローナル抗体ヒュミラはリウマチにも関節症性乾癬にも保険適応がある。
1日目~6日目の服用方法 |
オテズラはいきなり常用量である1日60ミリ(30mg錠を1日2回)を服用すると吐き気や下痢といった副作用が出やすい。
なのでオテズラを服用するときはまずオテズラスターターパックというものを使って開始する。
一見複雑そうに見えるが要するに1日目は10mg、二日目は20mg、~ 5日目は50mg
そして6日目以降は常用量である1日60ミリを服用する。
1日ごとに10ミリずつ増加し 6日目以降は常用量。なのでそんなに難しくはない。
腎機能の指標であるクレアチニンクリアランスが30以下の腎機能障害患者では血中濃度が上昇する可能性があるので1日1回30ミリなど減量して使う。
- ホスホジエステラーゼ 4(PDE4)活性に対する競合的かつ可逆的な阻害
- IL-17産生抑制
- TNF-α産生抑制
- IL-10の産生増加作用を
オテズラのメインの作用機序はホスホジエステラーゼ4という酵素の阻害。
ホスホジエステラーゼ4阻害作用によるcAMP濃度の上昇 |
ヒュミラ等などの生物学的医薬品は細胞の外で働くがオテズラは細胞の中で働く。
細胞の中にあるcAMPという神経伝達物質の分解を担うホスホジエステラーゼという酵素、そこにオテズラが作用して ホスホジエステラーゼを阻害する。
その結果としてcAMPの分解が抑制され細胞内にあるcAMP濃度が上昇
細胞内cAMP濃度が上昇すれば免疫性物質の放出抑制、低下すれば炎症性物質(IL-17やTNF-α)がバンバン出てくる
オテズラを服用するとcAMP濃度が上昇して炎症性物質が出てこないという仕組み。
概要 | 国内臨床試験 | ||
段階 | phaseⅡ | ||
対象患者 | 尋常性乾癬及び関節症性乾癬(BSA10%以上及びPASIスコア12以上の中等症から重症のみ) | ||
20mg群 | 30mg群 | プラセボ群 | |
PASI-75達成率 | 23.5% | 28.2% | 7.1% |
sPGA | 23.9% | 29.6% | 8.8% |
*PASI-75:乾癬の重症度をあらわす指標、PASI75はPASIスコア75%改善。PASI90はほぼ緩解
*sPGA:医師による静的総合評価
自覚症状で最も患者さんがつらい痒みに対しては早くて2~4週間で効果が表れてくる。アレグラなどの一般的な痒み止めと比較すると効果発現が遅いが一度加速すると高い効果が期待できる。
痒みだけでなく関節や爪、掌などにも効果がある。
PASIの減少率を見ると30mg錠群は4割近く数値が低下している(改善している)
オテズラはプラセボに対して優越性が証明されている。
外国臨床試験 | |
症例 | 2357例 |
副作用発現症例数 | 1046例 |
副作用発現率 | 44.4% |
報告された副作用とその頻度 | |
悪心 | 13.2% |
下痢 | 12.6% |
頭痛 | 5.5% |
緊張性頭痛 | 2.7% |
上気道感染 | 2.7% |
オテズラで一番注意したい注意点は消化器系の症状。
服用した患者さんの1割強に悪心や嘔吐が発現するが服用を継続しているとだんだん症状が治まってくる。一部のの抗がん剤のような強烈な水様便はほとんどないので下痢でオテズラをドロップアウトするということは少ない。
オテズラは副作用は早く出て効果は4週間後以降に出ることが多いので薬の導入が重要。
一錠990円もする高い薬を飲んで効果が出ずに下痢しか出なかったとなったら患者さんはブチギレである。
代謝経路 |
代謝に関与する CYP :CYP3A4、CYP1A2 及び CYP2A6 の関与も認められた。
オテズラは代謝酵素とそんなに影響し合わないので併用禁忌薬は存在しない、今のところ
一応3A4を誘導するフェノバルビタールやカルバマゼピン、フェニトインなどは一緒に服用するとオテズラの血中濃度が減ってしまい効果が出なくなるということで併用注意に設定されている。
併用禁忌:無
シクロスポリンを使う場合は定期的な 採血が必要であったり全身的なリスクコントロールが求められるがそのシクロスポリンと比べるとオテズラはそこまでシビアな薬ではない
難治性の乾癬だと概要薬で治療ができない場合は大学病院紹介状を書いてもらい そこで生物学的製剤を使うといったパターンが多かったがその中間としてオテズラをクリニックで処方できる。
10割負担 | 3割負担 | |
1日 | 1,981.2円 | 594.4円 |
1週間 | 13,868.4円 | 4,160.5円 |
4週間 | 55,473.6円 | 1,6642.1円 |
1年間 | 72,3138.0円 | 21,6941.4円 |
オテズラ錠30mgは990.3円(2019年9月時点)
1日維持量であるオテズラ錠30ミリかける2530065日服用すると年間自己負担は3割で約21万円
保険が効いて21万円なので仮に全額自己負担となると70万円を超える。
それだけのお金を払って期待される効果が出るのか飲んでみないとわからない
自分は乾癬という病気を持っておらず知識としてしか知らないので乾癬の苦しみがわからない。
しかし重症だと著しくQOLを低下させる病気だということはわかる。
もしこれまで様々な治療を試して無効だった人にとってはオテズラは救世主になるのかもしれない。
今のところ症状がそれほどひどくなく安定しているからオテズラは使わなくてもいいという場合でもこれから症状が悪化してきたり、今使っている薬が使えなくなった場合などにもう一つ選択肢があるというのは悪いことではない
2014年に発売されて以来右肩上がりに成長しているオテズラ。
経口CDE4阻害薬として世界で初めて使われ実績も着々と重ねているので類似薬が開発されたとしても明らかにオテズラよりも優れている薬出ないと使われない。
年間20億ドルまでは成長するはずなので134億ドルで購入したアムジェンのディールが割高だったとは思わない。