商品名 | フィコンパ錠2mg | フィコンパ錠4mg |
一般名 | ペランパネル水和物 | |
構造式 | ||
販売開始 | 2016年 | |
製造会社 | エーザイ | |
薬効分類 | 抗てんかん薬 | |
効能・効果 |
・部分発作(単剤可能) | |
・強直間代発作(他剤と併用) |
日本国内にいる推定てんかん患者は約100万人。その大きなてんかん市場での2トップはバルプロ酸とカルバマゼピン。その2つはこれまで何十年も第一選択薬として使われている。
しかしそれらを使っても発作が起きてしまう患者さんがいるので新しい抗てんかん薬のニーズは高い。
フィコンパ(一般名:ペランパネル水和物)はこれまでよくあるナトリウムチャネル遮断やGABA増強といった作用機序とは異なる期待の新薬。
発売当初は他の薬と併用必須だったり使い勝手が悪かったが今では特定のタイプの発作なら単剤で治療が可能となっている。(2022年1月時点)
利休
待望の新薬ということなら売上も凄そうじゃのう。
エーザイ社決算を見ると2020年度のフィコンパ売上は267億円となっています。
織部
利休
大儲けじゃのう。
ただ同じエーザイから発売されているメチコバールは342億円も売れています。
織部
利休
メチコバールてなんぞ?
シアノコバラミン、つまりビタミン剤です。特許も切れていてジェネリック医薬品もあるなかで342億円の売上です。
織部
利休
フィコンパが大したこと無いんかメチコバールが凄すぎるのか分からなくなってきたわい。
ではフィコンパがどんな薬なのか見てみましょう。
織部
てんかんの定義は
「24時間以上の間隔で2回以上の非誘発性発作」
大脳の神経細胞が過剰に興奮する慢性の脳疾患。正常な脳は規則的に正しいリズムで電気的な活動を行っているが何らかの理由で脳がsparkしてしまう。
定義にもあるように初発の発作(1回)だけでは基本的には治療を行わない。まず脳波検査やCT、MRIで検査を行い確実にてんかんなのか調べる。(家族にてんかん患者がいるなどリスクが高い場合は一回目の発作でも治療を始めることはある。)
CTやMRIを行うのは脳腫瘍など他の紛らわしい疾患の可能性を否定するため。
てんかんと確定したあとはどんなタイプのてんかんなのかを見定める。てんかん治療は投薬が柱であるが薬の選択を間違えてしまうと悪化する事もあるのでここで間違えると治療が遠回りになる。
てんかんのタイプを確定させたら投薬開始となるが基本は単剤治療。
単剤で発作が起きなくなるまでゆっくり増量。増量しても発作が収まらないときは第二選択薬や併用も考慮する。
利休
痙攣が起こっても直ぐに薬とはならないんじゃのう。
てんかん治療はまずその発作が確実にてんかんなのか?ということを確かめることから始まります。
織部
フィコンパが使用できる型 |
てんかんを発作型によって大きく分けると脳の一部で発作が起きる部分発作と脳全般で発作が起きる全般発作。
フィコンパが2022年1月時点で承認を得ているのは部分発作(単剤可能)と強直間代発作(他剤併用必須)。
2016年に発売された当初は単剤での使用は認められず他の薬と一緒の使わなかければならないという縛りがあった。しかし現在は部分発作であればフィコンパだけで治療することも可能。
全般発作の強直間代発作に関しては2022年1月時点でまだ他の抗てんかん薬と併用しなければならない。ただ更なる臨床試験などエビデンスが積み重なれば単剤での治療も可能になる時がくるかもしれない。
利休
てんかん発作はタイプが細かくて覚えきれんのう。
てんかん発作の分類とか名称はちょこちょこ変わります。ただ脳の一部で起こるのか全体的に起こるのかという最初の区別は必須です。
織部
利休
フィコンパは部分的に起きる発作には全て使えるんじゃのう。
二次性全般化発作は症状的には強直間代発作と同じですが強直間代発作の場合はほかの薬との併用しなければいけません。
織部
利休
そもそも強直間代発作てなんぞ?
一般の人が想像するてんかん発作です。意識消失して白目をむき体が痙攣したりと。
織部
利休
大変そうじゃのう。
だいたいは5分以内に収まるんですが急に倒れたりするので怪我をしたりメガネが壊れたりと危険です。
織部
利休
そういえば昔はてんかん発作という病気が理解されていないときは憑き物が憑依したとか言われておったのう。
部分発作 |
強直間代発作 |
*フィコンパの代謝を促す薬:カルバマゼピン、フェニトイン
フィコンパはCYP3Aファミリーで代謝を受ける。なのでその代謝酵素を促すカルバマゼピンやフェニトインとの併用時には普段よりも多くの量を服用する。
表を見るとややこしいが単剤と併用の違いは最高用量が単剤は8mg、併用は12mg。
漸増間隔は単剤が2週間に対して併用は一週間。
普通なら併用薬があると量を減らす場合が多いがフィコンパの場合は逆に増やし漸増期間も短くする。
そこさえ覚えておけば大体はOK。
利休
徐々に増やすのメンドクサイのう。もしフィコンパをいきなり治療量を飲んだらどうなるんじゃ?
間違えていっきに8mgに増量した事例だとフラツキや意識障害などが出て入院したようです。
織部
利休
恐ろしや。
フィコンパはそれ以外にも易怒性・攻撃性がみられます。なのでいきなり8mg飲むと危険です。
織部
利休
攻撃性がある部分とかはレベチラセタムに似ておるのう。
フィコンパには良い面もあります。半減期が長く1日1回就寝前に服用しますが眠気を催しやすく睡眠の質を上げるのではと言われています。
織部
利休
不眠症なてんかん患者にはピッタリじゃのう。
対象 | 12歳以上の部分発作(二次性全般化発作を含む) |
N | 710例(うち日本人245例) |
方法 | 二重盲検比較試験(他の抗てんかん薬との併用療法) |
主要評価項目 | 部分発作の頻度減少率 |
フィコンパは部分発作における他剤併用試験でプラセボに対して有意にてんかん発作回数を減らす事が証明されています。
織部
利休
増量すれば発作頻度も減っておるのう。
用量を倍にすると発作頻度が10%減っていることを考えると開始量の2mgではプラセボと有意な差がでない気もします。
織部
利休
2mgは効果じゃなく体を慣らすための用量じゃのう。
AMPA受容体をターゲットにした作用機序を強力に表現していることから「Fycompa」。
新規の機序ですということをアピールしたいエーザイの心の声が聞こえてくる商品名です。
織部
フィコンパはシナプス後ニューロンのAMPA受容体に高選択的にかつ非競合的に拮抗して細胞内へのナトリウムイオン流入を抑制することで抗てんかん作用を発揮する。
これまで使われていたカルバマゼピンと同じく興奮性神経を抑える作用機序が異なる。異なるが故に併用が可能となっている。
てんかんとは関係無いがフィコンパのAMPA受容体拮抗作用を利用して筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療へ応用できないかと東京大学が研究している。
利休
こうして図で見てみると確かに併用した方が効きそうじゃのう。
ただ抗てんかん薬には様々な副作用もあるので少ない薬で済むならそれに越したことはありません。
織部
利休
カルバマゼピンやラミクタールは薬疹が出やすいし飲まんでいいならパスしたいのう。
対象薬 | 臨床症状 | |
併用禁忌 | 無 | |
併用注意 | カルバマゼピン | 本剤の血中濃度が低下 |
フェニトイン | ||
CYP3A誘導作用を有する薬剤等 | 本剤の血中濃度が低下する可能性 | |
CYP3A阻害作用を有する薬剤等 | 本剤の血中濃度が上昇する可能性 | |
レボノルゲストレル | 相手薬剤の血中濃度が低下 | |
アルコール | 精神運動機能の低下が増強 |
フィコンパには2022年1月時点で併用禁忌は設定されていない。ただCYP3Aに強く影響される薬なので併用注意薬は数多い。
その中でもCYP3Aを誘導する抗てんかん薬であるカルバマゼピンとフェニトインは併用する時の用法用量が親切にも添付文書に記載されている。
利休
カルバマゼピンは今でも部分発作の第一選択薬じゃし併用することはよくあるのう。
フェニトインは副作用の問題もあり昔よりは使用頻度が落ちていますがそれでもてんかん治療には無くてはならない薬です。
織部
利休
この飲み合わせの制限に関しては他剤と相互作用を起こしにくいレベチラセタムに軍配が上がるのう。
易刺激性(6.8%)、攻撃性(3.5%)、不安(1.5%)、怒り(1.1%)、幻覚(幻視、幻聴等)(0.6%)、妄想(0.3%)、せん妄(頻度不明)等の精神症状があらわれることがある。
フィコンパの特徴的な副作用は攻撃性。飲み始めてから怒りやすくなったりイライラすることがある。
それらの副作用を少なくするために通常2mg開始の所を半分の1mgから開始したり工夫している医師もいる。
ただ普通の副作用だと一番起こりやすいのは浮動性めまい(35.4%)、二番目が傾眠(19.8%)です。
織部
利休
眠くなるという副作用と怒りやすくなるという副作用が相反しているように思えるのう。イライラしながら眠くなる人は器用じゃ。
怒りやすくなるのはイーケプラも同じで研究によるとイーケプラは一時的にGABA活性を阻害するからではとの報告もありますがフィコンパの場合はまだ不明です。
織部
妊婦 | 治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与 |
授乳婦 | 治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討 |
[ラットを対象として試験において臨床用量の10倍以上した場合、分娩及び哺育状態の異常、死亡産児数の増加、出生率及び生存率の減少、体重抑制と形態分化の遅延などネガティブな症例が観察された。]
ただフィコンパはバルプロ酸やトリメタジオンのような催奇形性は示されていない。
妊娠中に使える抗てんかん薬を考えると常用量では催奇形性の心配が少ないラモトリギンやレベチラセタムが第一選択薬、でそれらを使っても発作が起こるという時には慎重にフィコンパを使うことはあり得る。
利休
それまで抗てんかん薬を飲んでいた人が妊娠したからといって薬を辞めるわけにはいかんから難しいところじゃのう。
妊娠中は可能な限り薬は飲まない方がベターです。ただてんかん発作が起きてしまうと本人や胎児に危険があるのでそれらのリスクを勘案して薬を選択しなければいけません。
織部
利休
厄介なことに抗てんかん薬は催奇形性が強いものがあるからのう。
バルプロ酸、フェノバルビタール、フェニトイン、トピラマートなどよくてんかん治療で使われている薬にも催奇形性があります。
織部
利休
比較的妊娠中にも安全に飲める薬としてはラモトリギンやレベチラセタム、ガバペンチンがあるのう。
ラモトリギンやレベチラセタムも長年使われていくなかでやむを得ず服用した結果セーフだった薬なのでフィコンパもこれから使われていくうちに妊娠中にどう影響するか判明していくと思います。
織部
- 服用方法:1日1回寝る前
- 適応は部分発作(単剤可能)と強直間代発作(他剤併用)
- 1日最高量は単剤8mg、併用12mg
- 漸増間隔は単剤2週間、併用1週間
- 作用機序はAMPA受容体を拮抗
- 4歳から服用可能
- 副作用としてイライラなど怒りっぽくなる
- カルバマゼピンやフェニトインと併用するときは量を増やす
- 併用禁忌は無し
(2022年1月時点)