商品名 | リスパダール | ラツーダ |
一般名 | リスペリドン | ルラシドン塩酸塩 |
承認年 | 1996年 | 2020年 |
開発販売 | ヤンセン | 大日本住友 |
効能効果 | 統合失調症 | |
小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性 | 双極性障害におけるうつ症状の改善 | |
代謝酵素 | CYP2D6 | CYP3A4 |
活性代謝物 | パリペリドン | 無 |
併用禁忌 |
アドレナリン(エピペンは使用可能) | |
強いCYP3A4阻害薬 | ||
強いCYP3A4誘導薬 | ||
妊娠中 | C | B1 |
2020年3月に大日本住友製薬の統合失調症薬ラツーダ(一般名:ルラシドン塩酸塩)が承認されました。
織部
利休
どんな病気に効く薬なんじゃ?
適応は統合失調症と双極性障害におけるうつ症状の改善の2つです。
織部
利休
新薬でいきなり2つの適応持ちとか珍しいのう。
実はラツーダは日本だと新薬ですが米国では統合失調症薬としては2010年から使われています。双極性障害におけるうつ症状の改善でもFDAから既に承認されていたりで臨床実績は豊富です。
織部
利休
統合失調症薬と言えばヤンセンの傑作リスパダールやイーライリリーのジプレキサ、大塚のエビリファイといったスタープレイヤーが既に居るわけじゃが敢えてラツーダを使う意義があるんかのう?
では統合失調症のスタンダード薬リスパダールと比較しながらラツーダを見てみましょう。
織部
臨床症状 | リスパダール | ラツーダ | |
ドパミンD2 | 陽性症状 | 〇 | 〇 |
5-HT2A | 陰性症状 | 〇 | 〇 |
5-HT7 | 気分、認知 | × | 〇 |
5-HT1A | 抗うつ作用 | × | 〇 |
ラツーダの一番の特徴として作用する受容体があります。ラツーダは5-HT7受容体のアンタゴニストであり5-HT1A受容体のパーシャルアゴニストです。
織部
利休
アンタのアゴがなんじゃって?
アンタゴニストはその受容体の機能を邪魔する薬、パーシャルアゴニストは部分作動薬ともいって完全作動薬よりは活性が低いですが正の活性を持ちアンタゴニスト作用も合わせ待つバランサーです。
織部
利休
なるほど、わからん。
簡単に言うとこれまでの統合失調症薬との違いは2つ。薬理的には5HT1Aと5-HT7と覚えておけばテストは受かります。
織部
利休
5-HT7受容体はこれまで薬のターゲットになっておらんかった受容体じゃのう。何に関係しておるんじゃ?
確定しているわけではないですが認知機能や睡眠、気分といった分野に関わっているようです。
織部
利休
5-HT1A受容体と言えばラツーダを開発した大日本住友製薬の抗うつ薬セディール(一般名:タンドスピロンクエン酸塩)の作用点でもあるのう。
その薬理作用点の一致は偶然ではなく必然です。
織部
セディール | ルーラン | ラツーダ |
タンドスピロン | ペロスピロン | ルラシドン |
ラツーダの開発会社はこれまでも中枢神経系薬を開発しています。その中でも臨床で良く使われているのが抗うつ薬セディールと統合失調症薬ルーランです。
織部
利休
3つとも構造式が良く似ておるのう。ラツーダは真ん中にシクロヘキサンがあってあんまり似ておらんが・・・
よく見てください。ラツーダもシクロヘキサンのメチレン基2つを挟んで4つのメチレン基が連なっています。
織部
利休
統合失調症薬の始祖クロルプロマジンの構造式でも思ったんじゃが2つの窒素原子に挟まれた直鎖の3つか4つのメチレン基は統合失調症に対して鍵となる構造の様な気がするのう。
クロルプロマジンの構造式 |
まだ人間の精神や脳といった部分は未解明なのでこれから構造式と精神作用の相関関係がハッキリしていくと思います。が現時点では推測に過ぎません。
織部
利休
現時点で分かっているのはセディールの抗鬱作用とルーランの抗精神病作用を合体させたのがラツーダという位じゃのう。
リスパダール | ラツーダ |
昏睡状態の患者 | |
バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下 | |
アドレナリンを投与中の患者(エピペン除く) | |
本剤及びパリペリドン過敏症 | CYP3A4を強く阻害する薬 |
CYP3A4を強く誘導する薬 |
禁忌でラツーダはリスパダールと大きな違いがあります。それは代謝酵素CYP3A4に由来します。
織部
利休
CYP3A4てなんぞ?
肝臓に存在し薬などの異物を処理してくれる便利なモノです。しかしラツーダはそのCYP3A4に強い影響を与えてしまうので一緒に服用できない薬が多数あります。
織部
利休
どんな薬が一緒に飲めないんじゃ?
抗HIV薬もなどもありますが普段よく接する薬だと一番は抗生物質のクラリスでしょう。内科でも歯科でも良く処方されます。同じ処方箋にラツーダと一緒にクラリスが処方されると併用禁忌に気が付くと思いますが・・・
織部
利休
精神病院でラツーダを普段から服用していて歯科医院で抗生物質クラリスが出たりはあり得るのう。
そういう時はCYP3A4にそこまで影響しない同じマクロライド系抗生物質ジスロマックがおススメです。
織部
利休
他に併用禁忌で注意した方が良い薬は何かの?
師匠が飲んでいる水虫の内服薬イトリゾールカプセルを始めとしたアゾール系抗真菌薬は併用禁忌に指定されています。
織部
利休
という事は皮膚科とも絡みが出るのう。精神科と皮膚科で併用禁忌とか厄介じゃのう。
あとはリスパダールや他の統合失調症薬と共通ですがボスミンは併用禁忌ですね。α遮断作用によってアドレナリン反転が起こり強烈な低血圧が起こります。
織部
利休
こうして見るとラツーダは併用禁忌がたくさんあって油断ならないのう。
これまでの薬より代謝系の副作用が少ないという触れ込みですが併用薬に関してはラツーダの方がリスクが高いです。
織部
リスパダール | ラツーダ | |
悪性症候群 | ● | ● |
遅発性ジスキネジア | ● | ● |
高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡 | ● | ● |
肺塞栓症、深部静脈血栓症 | ● | ● |
横紋筋融解症 | ● | ● |
無顆粒球症、白血球減少 | ● | ● |
痙攣 | ● | |
麻痺性イレウス | ● | |
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群 | ● | |
肝機能障害、黄疸 | ● | |
不整脈 | ● | |
脳血管障害 | ● | |
低血糖 | ● | |
持続勃起症 | ● |
利休
重大な副作用の数ではリスパダールの方が多いのう。やはりラツーダの方が安全そうじゃ。
待ってください。リスパダールは日本でも20年以上臨床で使われている薬です。その過程で発見された副作用もあります。それに対してラツーダはまだ米国でも10年です。これから新しい重大な副作用が出てこないとは限りません。
織部
利休
臨床は最高の人体実(ry
現時点でリスパダールに無くてラツーダにある重大な副作用は痙攣だけです。
織部
カテゴリー | 分類の説明 |
A | 多くの妊婦と妊娠可能年齢の女性によって服用されており、それによって先天奇形の発症率の上昇や、間接・直接の胎児に対する有害作用が確認されていない薬剤 |
B1
[ラツーダ] |
制限された人数だけの妊婦や妊娠可能年齢の女性によって服用されており、それによって先天奇形の発症率の上昇や、そのほかの直接・間接の有害作用が確認されていない薬物。動物実験では胎児傷害の増加を示すエビデンスが認められない。 |
B2 | 制限された人数だけの妊婦や妊娠可能年齢の女性によって服用されており、それによって先天奇形の発症率の上昇や、そのほかの直接・間接の有害作用が確認されていない薬物。動物実験による研究結果は不適切なものしかないか、あるいは存在しないが、利用できる資料によれば胎児傷害の増加を示すエビデンスが認められない。 |
B3 | 制限された人数だけの妊婦や妊娠可能年齢の女性によって服用されており、それによって先天奇形の発症率の上昇や、そのほかの直接・間接の有害作用が確認されていない薬物。動物実験では胎児傷害の増加が確認されているが、臨床的なその重要性は不明確である。 |
C
[リスパダール] |
医薬品としての作用によって、胎児や新生児に可逆的な傷害を与えるか、与える可能性がある薬物。奇形を発生させることは無い。 |
D | 胎児の先天奇形の頻度を増加させ、回復不能の傷害を与える、ないし、その可能性が示唆されている薬物。(可逆的な)薬理学的副作用も伴っているかもしれない。 |
X | 胎児に恒久的な傷害を与える高いリスクがあり、妊婦および妊娠の可能性を伴う女性に投与してはならない薬剤。 |
2つの薬は添付文書に妊娠中の注意として同じ文が載っています。「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性
が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。」と
織部
利休
お決まりの一文じゃのう。製薬会社としては責任を負いたくないから処方医に責任をぶん投げておる。
なので妊娠中のリスクを調べる時は日本の添付文書を調べても意味はないです。こういう時は海外のサイトが便利です。特にオーストラリア基準は具体的なので助かります。
織部
利休
日本とは大違いじゃのう。それにしてもこの基準によるとリスパダールはなかなかリスクが高いんじゃのう。
リスパダールに催奇形性は無いですが妊娠中ならできるだけ使わない方がよさそうです。それに対してラツーダは安全性で上から二番目です。
織部
利休
妊娠中という状況であればラツーダの方が良さそうじゃ。
リスパダール | ラツーダ |
統合失調症 | |
小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性 | 双極性障害におけるうつ症状の改善 |
ラツーダのセールスポイントとして適応症に「双極性障害におけるうつ状態の改善」の適応症が挙げられます。
織部
利休
その適応はセロクエルにも無かったかのう?
セロクエル | ビプレッソ | |
クエチアピンフマル酸塩錠 | クエチアピンフマル酸塩徐放錠 | |
適応 | 統合失調症 | 双極性障害におけるうつ症状の改善 |
セロクエルの徐放性製剤バージョンであるビプレッソには適応がありますが2つは別の薬です。ラツーダは一つの薬として2つの適応が正式に認められているので便利です。使う量も似ていますし。
織部
統合失調症 | 双極性障害(うつ症状) | |
開始量/日 | 40mg | 20mg |
維持量/日 | 40mg | 20 ~ 60mg/day |
最高量/日 | 80mg | 60mg |
用法 | 1日1回食後 |
2つの適応を持つラツーダですが使用する量が微妙に異なります。1日最高投与量は統合失調症が80mgなのに対して双極性障害の方は60mgと少なく設定されています。
織部
利休
なぜそのような用量に決まったんじゃろう?
統合失調症対象の試験P2-J001で20mg/dayだとプラセボ比較で差が無かった。and 80mg/dayで開始すると有害事象が増えたので間を取って40mgから統合失調症には使う事になりました。40mg/dayはP3-J066試験でプラセボに対して優越性が証明されていますし。
織部
利休
なら双極性障害うつなら20mgから効果があるんかのう?
BP-P3-J001試験で20mgのプラセボに対する優越性が認められているので20mgから開始することに設定されました。
織部
利休
エビリファイでもそうじゃが統合失調症薬は極少量で鬱症状に効果が出るのう。
ラツーダの用法用量で注意したい点が1つあります。それは服用タイミングが食後と指定されていることです。
織部
利休
リスパダールには服用タイミングの指定が無いのう。
ラツーダは空腹時と食後で吸収率が大きく異なります。
織部
利休
どっちが良く吸収されるの?
食後です。なので精神症状が悪化して食事がとれない場合だとラツーダの効果が落ちる可能性があります。
織部
利休
そういった面では空腹時でも可能なリスパダールの方が便利じゃのう。1日2回服用がめんどくさいけど。
ラツーダのメリットの一つが1日1回服用という事なのでそれはリスパダールに対して優れている部分ですが実はリスパダールには隠れた秘密があります。
織部
リスパダール | インヴェガ |
リスペリドン | パリペリドン |
リスペリドンは半減期が4時間弱と短いのですが体の中で代謝されて薬理効果を持つパリペリドンに変化します。このパリペリドンは半減期が24時間近くあるので実はリスペリドンも1日1回でいけることがあります。
織部
利休
リスペリドン→パリペリドンの変化はどの代謝酵素が関わっておるんじゃ?
CYP2D6です。
織部
利休
ラツーダの主な代謝酵素はCYP3A4じゃからここは大きな違いじゃのう。
リスペリドンも肝障害や腎障害患者に投与するとAUCが上昇しますが具体的な用量など設定は添付文書に記載されていません。しかしラツーダは参考資料が記載されています。
織部
中等度以上の腎機能障害のある統合失調症の患者 |
利休
重度の腎機能障害を持つ統合失調症患者では維持量が20mgと少量じゃが・・・臨床試験を見ると統合失調症に20mgはプラセボと差が無かったとあるが?
最高投与量は重度の腎機能障害でも60mgまで使えるので何とかなるでしょう。
織部
中等度以上の腎機能障害のある双極性障害うつ |
双極性障害うつだと更に用量が少なく開始量は10mgです。
織部
利休
10mg錠はこの世に存在しないわけじゃが?
無いなら作りましょう。20mgを割って。
織部
中等度以上の肝機能障害のある統合失調症の患者 |
肝機能障害に対する制限の方が厳しく重度だと最高用量は30mgに制限されています。
織部
中等度以上の肝機能障害のある双極性うつの患者 |
利休
ラツーダの代謝は肝臓のCYP3A4わけじゃしのう。
急性期の統合失調症患者を対象にした臨床試験 |
利休
PANSSてなんぞ?
Positive and Negative Syndrome Scaleの略で統合失調症の陽性症状と陰性症状をスコア化したモノです。点数が高いと統合失調症が重度です。
織部
利休
この試験じゃとラツーダはプラセボに対して優越性が証明されておるのう。
しかし実はラツーダは2015年の第III相試験「PASTEL」でプラセボと違いが統計的に無かったという結果が出てしまいました。なのでラツーダの日本での承認が2020年までずれ込みました。
織部
利休
精神薬はプラセボが強力なので臨床試験が難しい面もあるわけじゃがその点を差し引いてもラツーダは画期的な新薬というわけでもなさそうじゃのう。
リスパダールなどと実薬比較試験を行っていないのでハッキリとはわかりませんがこれまでの薬と力はそこまで変わらないはずです。
織部
利休
じゃあ敢えて使う意味無い?
作用する受容体が異なるということはツボが異なるので相性が良い患者さんはいると思います。
織部
利休
マイナーでも自分のツボにハマるお笑い芸人が居たりするしのう。
リスパダールやラツーダよりお笑い芸人の方が効果高いかもしれません。
織部