2016年に設立されたPrelude Therapeutics(NASDAQ: PRLD)は、脳腫瘍や固形腫瘍の治療薬を開発しているバイオ医薬品企業。本社はデラウェア州ウィルミントン。
2020年9月25日に新規株式公開をNasdaqで行い1株当たり19ドル@830万株の普通株式を売却、1億5,820万ドルを調達した。小型バイオベンチャーはIPOで1億ドルを目標とするので成功したIPOと言える。
創設者でありCEOであるクリス・ヴァディは、大手製薬会社インサイトで抗がん剤ジャカビの開発に携わっていた。そして同社の12.4%にあたる330万株を所有している大株主でもある。
他の大株主はOrbiMed Private InvestmentsとBaker Brother。2つともバイオテクノロジー企業への投資で実績を持つ著名なベンチャーキャピタル。
最も開発が進んでいるPRT543でさえ2020年9月現在でphaseⅠ。
今回のIPOで1.5億ドルを得たがこの資金でphaseⅢまで恐らくもたない、資金が枯渇するので追加の資金調達する必要があると会社の広報も言っている。
現時点ではメガファーマとのパートナーシップを結んでいないので資金的には不安がある。phaseⅡの結果発表でかなり有望な成果を出して株価上昇→その高くなった株価で新株発行すれば既存株主の希薄化を避けられる。
開発コード | メカニズム | 対象 | 進捗 |
PRT543 | PRMT5阻害 | 骨髄性悪性腫瘍 | Ⅰ |
PRT811 | PRMT5阻害 | 多形性膠芽腫 | Ⅰ |
PRT1419 | MCL1阻害 | 血液ガン | 非臨床 |
プレリュードで最も重要なのがコードネームPRT543。
この物質はタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ5(以下PRMT5)という生体内の物質を阻害する。
そのPRMT5を邪魔したら何か良いことあるのか?って話だがこのPRMT5はヒストンや転写因子のアルギニンメチル化を通じて癌細胞の成長と生存の促進に関与する遺伝子の発現を調節している。
シンプルに言うとこのPRMT5はガンにとって味方。人間にとってはガン細胞を助ける敵勢力。ベトナム戦争で北ベトナムを後方からバックアップしていたソ連や中国的な。
PRMT5の過剰発現と酵素活性の増加は、ヒトの癌環境における転帰不良と生存率の低下に関連しているとの報告があり多くの種類の癌でアップレギュレートされる。
ならそのPRMT5を邪魔して癌細胞を叩こうという薬がPRT543。
では具体的にどうやって邪魔するのかというとPRMT5は核タンパク質を対称的にジメチル化することでその活性を発揮するがその活性に関与する部位が同定されている。
活性に必要な部位はシステイン(C449)残基でありそこをPRT543が先に共有結合することで失活させ癌細胞の邪魔をする。
これまでタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ阻害薬は承認されていないのでもし承認されたらfirst in classとなる。
2021年には最初の臨床試験結果が発表される予定である。
もう一つの臨床段階にある811は膠芽腫という脳腫瘍用に開発されている中枢へ移行しやすく改良されているタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ阻害薬。
どちらの薬もまだphaseⅠで先は長いので投資するなら数年先を見据える覚悟で。