昔からアトピー治療と言えばステロイド。どんな名医でも重症ならステロイド、外用のステロイドで無理なら内服の副腎皮質ホルモン。副腎皮質ホルモンも別名ステロイド。ステロイドパラダイスだったアトピーの治療。
シクロスポリンやタクロリムスといった免疫抑制剤も使われるが完治はしない。そしてそれらの薬もステロイドも広い範囲で免疫を抑制するので長期間服用すると副作用が現れやすい。
薬を使っても効果がいまいちで副作用は出やすいという閉塞感がアトピー業界を覆っていた。そんな状況が変わったのが2018年。デュピクセントという新薬が登場してから。
デュピクセントはステロイドとは全く作用機序が違う。
花粉症やアトピーに関与しているTh2細胞から出ているIL-4やIL-13が細胞表面の受容体にくっつくのを防ぐ効果がある。デュピクセントが先回りして細胞外の受容体を塞いでおくとアレルギーの伝言役がそれ以上シグナルを伝えられない。
デュピクセントはそれまで最善の努力(ステロイドマシマシ)をしていてもコントロール不良な患者さんの半数以上を改善させた革新的な薬。
しかしデュピクセントは注射薬なので摂取に手間がかかる。
今回紹介する3つのJAK阻害薬は経口でそのデュピクセントと同等、もしくは上回る効果を秘めている。
デュピクセントとJAK阻害薬の比較 |
直接比較試験ではないので参考程度。先行のオルミエントやリンヴォックは元々リウマチ治療薬として開発された薬だがサイバインコはアトピー治療薬として開発された。
利休
デュピクセントと同じ位の効果でも注射しなくていいなら助かるのう、注射は痛いから嫌じゃ。
残念ながらJAK阻害薬は使い始めのときに採血はします。
織部
利休
なぜに?血ぃ吸われたくないのう。
免疫を強力に抑制するので血液検査をしながら慎重に使わないといけないからです。そうしないと感染症に罹ったりします。
織部
利休
検査が煩わしいのう。
レントゲン検査などは皮膚科でなく内科へ紹介されるかもしれないです。なので規模の大きい病院だとスムーズかもしれません。
織部
JAK阻害薬は文字通りヤヌスキナーゼというものを阻害して薬効を発揮するのだがJAKにはJAK1、JAK2、JAK3とTyrとアイソザイムが存在する。
免疫反応に関係しているのはJAK1なのでそこだけに作用すれば副作用が少ない。しかし他のJAKに作用すると血栓症などの副作用がでやすい。オルミエントはJAK2も阻害してしまう。この点は他の2剤に劣る。
ちなみに上記の図を見ても分かるようにJAK阻害薬は細胞内に入り込んでからJAKを阻害する。それに対してデュピクセントは細胞外でインターロイキンがくっつくのを防ぐ。外から防ぐか内から防ぐかがデュピクセントとJAK阻害薬の違い。
利休
受容体の内側にあるJAKて2つあるんかのう?
ヤヌスキナーゼのヤヌスは2面という意味です。なのでJAK1×JAK1とかJAK2×JAK3などの組み合わせが存在します。
織部
利休
JAK1が標的じゃからなるべく他の受容体には悪させんで欲しいのう。
最初のJAK阻害薬はサイバインコを開発したファイザーのゼルヤンツですがこの薬はまだJAK1選択性が低かったです。
織部
利休
JAK2に作用したんかのう?
ゼルヤンツはJAK1とJAK3に親和性が高かったです。オルミエントもそうですが初期に開発された薬はシャープさが足りないです。
織部
利休
ゼルヤンツは2013年に発売じゃから8年かけてJAK1選択性を磨いた薬がサイバインコなんじゃな。
3つともステロイドなど従来の治療を行ってもコントロールできない時に使うという注意点がある。つまりアトピーだからと皮膚科にいって初回で出てくることは無い薬。
オルミエントやリンヴォックはアトピー性皮膚炎以外にも適応を持っているがオルミエントで目を引くのが新型コロナによる肺炎。ただしこれにも注釈がつき酸素マスクやエクモをしている重症患者に限られる。オルミエントがコロナ治療で活躍するような世の中はできれば遠慮したい。
オルミエント以外の2つは12歳から使うことが可能だがオルミエントは15歳から適応となっている。
JAK阻害薬は効果が高い薬です。しかし値段も高い薬なのでポンポン処方はできません。
織部
利休
高いってどのくらい?
サイバインコ錠100mgは5,221円です(2021年12月時点)
織部
利休
オルミエントでお願いします。
オルミエント錠4mgは5,274円になります。
織部
利休
リンヴォックでお願いします。
リンヴォック錠15mgは4,972円となります。
織部
利休
さてと、デルモベートを塗る作業に戻るかのう。
1日5000円なので自費なら毎月15万円です、3割負担なら4万5,000円です。
織部
利休
なぜにこんなに高いんじゃ?庶民はアトピー治ったと思った瞬間に破産するんじゃが?
高い効果のデュピクセントもそのぐらいの自己負担となるのでそこにお金を合わせています。
織部
利休
横並びが大好きな日本らしいのう。
類似薬効比較方式という計算方法で値段が決められています。
織部
薬が体外に出て行く経路は大まかに分けて2つ、肝臓か腎臓。
腎排泄型はオルミエント、肝代謝型はリンヴォックとサイバインコ。
肝代謝型の2つを細かく見ると代謝酵素が異なっていてリンヴォックはCYP3Aで処理されるので併用注意薬としてクラリスロマイシンなどが記載されている。サイバインコはCYP2C19とCYP2C9が関与しているのでフルボキサミンやフルコナゾールが併用注意薬として記載されている。
腎排泄のオルミエントは肝代謝型薬に比べて併用注意薬が少ないが一つだけ名指しで併用注意薬が上げられている。それは痛風治療薬プロベネシド。
OAT3というトランスポーターで競合阻害することでオルミエントの血中濃度が上昇してしまうから併用注意薬となっている。
病態禁忌も代謝経路が根拠となっておりオルミエントは重度の腎不全には使えない。逆にリンヴォックとサイバインコは重度の肝不全には使えない。
利休
皮膚科でオルミエント貰ったんじゃがすでにプロベネシド飲んどるワシはどうすればいいんじゃ?
食生活を改めましょう。
織部
利休
年末年始は御馳走食べたいんじゃが?
プロベネシドとオルミエントを服用するとオルミエントのAUCが二倍になるそうなので常用量の半分の2mgを使ったり工夫しましょう。
織部
- オルミエントは腎排泄、リンヴォックとサイバインコは肝代謝
- 併用禁忌薬は3つとも無し。ただし併用注意薬はあり
- オルミエントの併用注意薬はただ一つ「プロベネシド」
- 妊娠中は3剤とも禁忌
- リンヴォックは12歳から使えるが体重30kg以上という制限あり
- 初回処方する前に結核で無い事を担保すること