バレンタインデーに学ぶノブレス・オブリージュの意味

 

 

小学生時代、丿貫には仲の良い友人が3人いた。

 

A君、B君、C君

 

その日もいつも通り丿貫を含めて四人はAくんの家で遊んでいた。

 

外は分厚い灰色の雲に覆われ 今にも雪が降り出しそうな寒い日

 

チョコレート会社にとって一年で一番重要な日でありモテない男には1年で一番どうでも良い日。

 

2月14日

 

いわゆるバレンタインデー

 

その日、四人の運命は別つ事となった・・・

 

 

 

 

 

 

A君の家は通っていた小学校から徒歩五分の距離にあり友達のたまり場となっていた。

 

家が小学校の近くだからというだけで友達が集まるワケは無く、A君はクラスの人気者。

 

丿貫達以外の友達や女子なども遊びにくる。今思い返せばイケメンでスポーツも勉強もでき丿貫とは全く種族が違う生き物だったのだが幼稚園からの付き合いということで仲良しだった。

 

 

Aくんの家は立派な一軒家で当時としては大きなテレビがありゲームをするには最適。

 

丿貫も小学校はキチンと通っていたので色々な思い出があるが放課後にA君の家でみんなと遊んでいた時が人生で一番幸せだった。

 

夏休みは四人でキャンプにもいったし修学旅行や林間学校も行った。スマホが無いこの時代に自転車で行ける所まで行くという大冒険も。

 

これからも4人はずっと一緒と漠然と思い込んでいた。

 

しかしそんな幻想は突然崩壊した。

 

 

 

 

2月の底冷えする外とは対照的にA君の家は暖かい。

 

暖房が効いていることもあるがそれ以上に四人はマリオカートやストⅡで熱く対戦していた。甲羅をぶつけ合ったり、波動拳を十字キーが凹むまで撃ち合ったり。

 

自分の家ではロマンシングサガやファイナルファンタジーと言った一人用RPGをプレイする方が好きだったがこの四人が集まる時は必然的にスト2 もしくはマリオカート それがボンバーマン。

 

ストⅡもマリオカートもボンバーマンも発売されて数年たっていたが面白さは色あせない。とりあえずストⅡをセットしてスーパーファミコンのスイッチを入れる

 

ストⅡを対戦する時は負けたものが抜けるシステム。負けたらA君のお母さんが用意してくれたお菓子を食べたり漫画を読んだりして順番を待つ。

 

A君と丿貫は共にリュウとケンを選ぶことが多く波動拳の打ち合いとなる。B君とC君はエドモンド本田と春麗でサバ折りというお約束プレイ。

 

その日もいつものように丿貫はリュウを操り波動拳を撃ちまくり左の親指が痛くなってきた。待ちガイル戦法の方が指には優しかったが自分たちルールで使用禁止となっていたので使えない。

 

波動拳疲れでそろそろストⅡではなくそろそろボンバーマンにしようか提案しようと思考していた

 

 

 

その時

 

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

 

 

A君の家のチャイムが鳴った。その音を聞いたA君はプレイを中断してすぐに玄関に向かう。

 

今日は休日なので昨日の時点で今日遊ぶメンバーは四人と決まっていた。だがしかし・・・

 

A君は前もってこの訪問者を予見していたかのように丿貫達にすぐ戻ってくるからと言い残して家を出ていった。

 

 

 

この時、若干の違和感を覚えた。自分のいる世界線が少しズレたような、そんな。

 

 

 

これまでも人気者のA君家にアポなしで来る友達はいた。しかしその時はそのまま家に入ってきて自分たちと一緒に遊ぶ流れとなる。

 

そのままA君が丿貫達をおいて出ていくのはこれまで一度も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A 君が家に戻ってきたのは約1時間後

 

その手には一つの大きな袋があり、その中には5つの物体があった。

 

 

バレンタインデーのチョコレート

 

 

家に戻ってきたA君に話を聞いたところ、今日はクラスの女子たちが集まって手作りチョコレートパーティーなるものが開催されていたらしい。そしてA君はそのチョコレートパーティに主賓として誘われていた。

 

去年は平日だったので学校でチョコレートを渡していたが今年は休日だったのでA君ファンの女子が集まり一緒にバレンタインチョコレートを造る計画。そして元々の計画だと最初からA君を女子の家に呼んで一緒にチョコレートパーティーを過ごすつもりだったと。

 

しかしA君は女子が主催するチョコレートパーティを断り前から約束していた丿貫達と遊ぶことを優先した。

 

折衝案として丿貫達と遊んでいる最中に1時間だけ女子の家に行くという約束で手作りチョコレートを取りにいった。チョコレートが完成したら女子がA君の家に呼びに来るという段取りだったようだ。

 

 

女より男の友情を優先したA君

 

 

 

 

義に厚いってレベルじゃねえ

 

 

 

 

丿貫も薄々気が付いてはいた。 A 君はこの四人の中で違う存在ではないかと

 

先生や女子達がA君に接する態度。ヤンチャしている男子グループもA君には一目置いている。

 

A君は何でもできる存在。勉強やスポーツだけでなくイケメン、人を引き付ける天性のオーラが備わっていた。

 

去年までチョコレートを貰っている事は知っていたがこれ程女子に人気だと気が付いたのはこの時が初めて

 

 

 

今年も女子からの手作りチョコレート それを5つも入手して家に帰還したA君

 

そして事もなげに言った。

 

 

 

A君「女子達からチョコレート貰ってきたから皆で食べようぜ。」

 

 

 

チョコレートとはカカオを主な原料として作られ中世では王侯貴族が楽しんだ高級品である。そんな高貴な品をタダで貰い受け、それを惜しみなく分け与えるという

 

 

 

ノブレス・オブリージュ

王族や貴族など神から与えられた特権を持つ選ばれし者は社会や持たざる者に対して率先して奉仕・還元する義務を負う。

 

 

 

 

 

この時ハッキリ判明した。

 

A君は選ばれしものである。

 

そして丿貫は残念ながらただの村人だとも自覚した。

 

田舎の小さな村で細々と生活している村人の丿貫と勇者の子孫だったA君がたまたま一緒に幼少期を過ごしたというだけで2人は全く違う存在。

 

 

なろう小説なら村の外にドラゴンが現れて騒がしいからちょっと狩ってくるわとカッタるそうに出かけて1時間以内に竜玉を5個取ってきた

 

そんな主人公属性を持つのがA君

 

 

その勇者からチョコレートの施しという慈悲深い提案。

 

年老いて見栄もプライドもなくなった今の丿貫であれば有難く頂く。

 

しかしその当時のヘチカンは若く良く分からないプライドがあった。

 

そんな丿貫は部屋にあったうまい棒めんたい味を食べながら

 

 

 

丿貫「甘いものは苦手だからいらない(震え声)」

 

 

 

と断った。もちろん嘘である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手作りチョコレートというレアアイテム

 

 

そのチョコレートを作った女子の本気度は分からないが少なくともA君に食べてほしくて手作りしたチョコレート。

 

その辺の道具屋で販売している薬草や毒消しであれば遠慮なくもらい受けるがそのアイテムは非売品。

 

相応しい勇者にしか口にすることは許されない貴重なアイテム。そんなアイテムを丿貫が食べるわけにはいかない。村人がどれだけそれを欲しても決して手に入れることができない伝説のアイテム。それを無理やり村人が装備したところで意味をなさない。

 

そんな思案を巡らせる余裕がまだ丿貫にはあったのだがB君は明らかに意気消沈していた。

 

丿貫は以前にB君から意中の人を聞いていた。修学旅行の夜にテンションが上がったB君は口を滑らせてしまい白状した。その時に白状した女子の名前を丿貫は記憶している

 

そのB君意中の女子が作ったチョコレート。それが今A君の手にある。

 

 

自分の好きな子が気合い入れて作った他の男子あての手作りチョコレート

そのチョコレートをその男子から興味が無いからと慈悲の施しとして食べる。

 

丿貫なら苦味しか感じない。

 

B君も丿貫と同じく別にいいと断りチョコレートは食べなかった。

 

そして丿貫たちはゲームを一時間もしないうちにその日は解散となった。

 

 

 

 

 

冬の帰り道

 

 

A君の家を出ると辺りは薄暗く地面には薄っすらと雪が積もっていた。吹き付ける冷たい冬の風がA君との格差を自覚させられた丿貫の心胆をいっそう寒からしめた。

 

3人の家はA君の家からみて同じ方向なのでそのまま無言で歩き出す。

 

すりガラス街灯から発せられているオレンジ色の光が雪交じりの道を照らしている。2センチほど積もったを雪を踏みしめて村人たちはそれぞれの家を目指す。

 

A君の家を出てから無言な3人だったがC君は唐突に

 

 

 

C君「俺も毎年チョコレートをもらっている」

 

 

 

と言い出した。丿貫とB君とC君は女子と交流が無い。そしてイケメンでもない。そもそも女子と会話してる姿を見た記憶がない。寒すぎて脳が幸せな幻想を見せているのか?

 

 

 

丿貫「C君、疲れたろう、僕も疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ」

 

 

 

人生に疲れ果てた村人達が低体温症になり幻覚に掛かったのかと思ったが案の定C君のチョコレートは母親からのだと判明した。

 

 

 

 

 

そんな不毛な雑談をしながら歩いているとますます寒くなった。

 

3人がそれぞれの家に向かい解散となる前に馴染みの駄菓子屋の前を通りがかった。

 

冷え切った心と体を温めるためセーブポイントである駄菓子屋に吸い寄せられるように入った。

 

 

 

いつもであれば真っ先にうまい棒を購入するところだが先ほど、A君の家で甘いものが苦手だとの証明のためにうまい棒めんたい味を5本連続食べてしまい食べる気が起きない。

 

そしてなにより今は体を温めるものが欲しい。

 

探してみると駄菓子屋に体を温めるものは意外と少ない。BIGカツやさくらんぼ餅も好きだがこの状況には相応しくない。

 

そもそも駄菓子屋に置いているのは「菓子」。暖かい菓子というのは珍しい。作り立てでもないと不可能

 

チロルチョコは大量に売っていたが今日はそれを食べると余計にHPが減る可能性がある。

 

色んな意味で温まるものはないか・・・

 

 

 

 

そして見つけたのはカップヌードル。

 

 

 

カレー味しか残って居なかったがこれが大正解

 

カレーは18世紀にインドから大英帝国へ、そして世界中に広まった食材

更にそのカレーと日本のラーメンが合体した奇跡、それがカップヌードルカレー味

 

王侯貴族の嗜好品チョコレートに負けない高級品。大航海時代に存在していれば同じ重さの黄金にも匹敵していたであろう。

 

 

 

 

駄菓子屋にあるポットを使わせてもらいお湯をカップヌードルカレーに注ぎ込む。

 

しかし駄菓子屋内には座るところがないのでベンチがある外に3人の村人は移動した。

 

お湯を入れて3分。手を温めるように両手でカップヌードルカレー味を包み込みながら時が流れるのを待つ。

 

 

 

3人の村人は疲れていたのか3分間無言。

 

 

 

 

 

3分経ちカップヌードルカレー味のフタを外す。

 

フタを外した瞬間、湯気があっという間に寒い冬の空気を駆け上る。

 

3人の村人は無言で淡々と食べた。真冬の駄菓子屋のベンチで

 

 

 

シーフードと違いカレーはキチンと線までお湯を入れてもスープが少ない。だがそれが良い。下手にスープ感を出そうとすると味が薄まる。

 

お湯をキッチリ線まで入れて濃厚なカレーラーメンが完成形。カレーヌードルの麺は元々太いが更に伸びても美味しい。

 

カレーのスパイスは体を温める。ホクホクのフライドポテトと謎肉も心強い。

 

旨味が絡みついた麺と濃厚なカレースープを交互に楽しみ、あっという間に麺を食べ終わる。出来上がった時は少ないと思っていたスープが残ったので一気にカレースープを飲み干す。

 

 

 

 

スープを最後の一滴まで飲み干した後、カレーの美味さと温かさの余韻に浸る。

 

それまで寒かった外の空気を楽しむ余裕が持てる位には身体が温まった。

 

自分の白い息を追って空を見上げるといつの間にか完全に日が落ち星が輝いてる。

 

 

 

冬の澄んだ空気のおかげであろうか。

 

今日は星が良くみえる。小さな星さえも

 

 

 

聖バレンタインデー

 

 

A君には女子からたくさんの手作りチョコレート

3人の村人には一つのカップヌードル カレー味

 

 

 

神様からのギフトには差がある。人は配られたカードで勝負するしかない

 

 

しかし貴族の義務として女子の家に行き受け取った興味の無いチョコレートよりは3人の村人が食べたあの時ののカップヌードルカレー味のが美味しかったんではないかと思う。

 

 

 

A君は村人3人とは違い私立中学に進学して疎遠になってしまった。現代の様にラインもメールも無かったせいもあるがそれ以上に中学生になりイケメン&リア充度がグンとアップしたA君には勇者に相応しい新しい仲間、彼女がすぐにできた。部活にも入り遅くまで練習していて時間が合わなくなってしまった。

 

A君は村での冒険を卒業して自分に相応しい世界へと旅立った。

 

そして残された3人の村人は20年経った今でも時々集まりラーメンなどを食べながらスライムの倒し方についてあ~だこ~だ言っている。

 

 

 

 

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